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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第91回

人に合わせる"不自由さ"『嫌われる勇気』の本質

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――昨今、巷で話題になっている一冊の本がある。それが、フロイト、ユングに並ぶ三大心理学者アドラーの思想を凝縮した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)だ。ソーシャルメディアが定着して久しい今、我々は「人に合わせる」ことを、半ば強制される状況に陥っているが、それは健全といえるのか? ベストセラーの著者と共に、その本質を考えてみよう。

[今月のゲスト]
岸見一郎(哲学者)

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『嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)

神保 今回は司会というより、ゲストの方と宮台真司の対談を楽しませてもらおうと考えています。テーマは、「アドラー心理学」と「ソーシャルメディア」です。

宮台 ソーシャルメディアには、僕が「脳内ダダ漏れ現象」と呼ぶような、本来であれば人に見せないはずの心の内面を無防備に垂れ流す傾向が強く、自業自得の状況に陥りがちな一方で、LINEの「既読プレッシャー」のように、読んだらすぐに返信しなきゃといったピアプレッシャー(仲間圧力)が強い状況もあります。

 どれも承認に向けた圧力がもたらす不自由で、フェイスブックであれば「いいね!」を押してもらえることに向けて強迫された状況です。あり得ないような不自由と浅ましさをもたらすこうした承認欲求が、どんな勘違いに由来し、どう克服できるのかを、考えなければならない昨今です。

神保 ゲストをご紹介します。哲学者で、日本の「アドラー心理学」の第一人者でもある岸見一郎さんです。岸見さんは昨年12月に『嫌われる勇気』という本を書かれました。帯には「自由とは他者から嫌われることである」とある。今の日本の状況を見ていると、アドラーブームが来そうな予感がします。世界ではフロイト、ユング、アドラーが「心理学三大巨匠」と呼ばれているそうですが、日本ではアドラーはそれほど知られてこなかったように思います。なぜ日本では、アドラーの知名度が低いのでしょうか?

岸見 日本のアカデミズムにおいて、これまでアドラーが取り上げられることは皆無だったと言っていい状況です。心理学を専攻すれば当然、フロイトとユングの講義を受けますが、アドラーについては名前と若干の思想を教わる程度。それが大きな原因かと思います。

宮台 アドラーも、フロイトやマルクス同様、19世紀の人ですが、当時の思想家としては異色です。19世紀には、フランス革命以降の時代的特徴である〈反啓蒙の思考〉が拡がり、「社会も個人も見えないものに規定される」「科学や芸術は下部構造(生産関係)に規定される」「意識は無意識に規定される」とする理解が進みます。

 20世紀の戦間期になると、この種の思考はヴィトゲンシュタインなど知的最前線で否定されますが、大衆的には残ります。感覚は理解できます。「自分が不自由なのは、見えないもの(トラウマや階級構造)に規定されているからだ」と言われると「俺は騙されていたのか!」と気づきが得られて自由になれた気分になり、カタルシスが起こるからです。

神保 確かに、その感覚は理解できますね。

宮台 僕らの世代は、中高生の時分にフロイト関連書を読み、トラウマによって構造化された無意識という考えに触れて溜飲を下げたものですが、アドラーは19世紀的な〈反啓蒙の思考〉とは異なるだけでなく、17~18世紀的な〈啓蒙の思考〉とも違います。岸見さんの本にもあるように、アドラーは2500年前の初期ギリシアの思考を反映しています。

神保 今回、岸見さんの本を読ませていただき、私の座右の書であるヴィクトール・フランクルの『夜と霧』(みすず書房)と多くの共通点を感じました。2人に接点はあるのでしょうか?

岸見  フランクルは「アドラーの弟子」というわけではないのですが、暖簾分けしてもらったようなところがあります。活動を共にしていた時期もありますから、当然、影響を受けているはずです。アドラーの考えに近いことを、私も読んで感じました。

神保 フランクルは、最近売れている本の中ではスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』(キングベアー出版)でよく引用されています。『道は開ける』などで知られるデール・カーネギーなどもそうだと思いますが、本の中でフランクルについて触れることはあっても、アドラーの名前は出てきません。

岸見 非常に印象的な考え方ですから、自分の独創だということにしたい人が多いのではないでしょうか。アドラーの思想は「共同採石場」と言われています。つまり、みながそこから「いいとこ取り」をする。

 ただ私は、それでも彼らが持ち去らなかった原石が、多く残っていると考えています。逆に言えば、取りこぼされているものがあるので、本当のところが伝わっていないように感じることはある。一見アドラーの考え方に似ているようでいて、実はまったく違う、という印象をよく受けるのです。

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