――政治家が個人として宗教イベントに参加することは、とりあえず法律上は問題ない。だが、創価学会を支持母体とする公明党の存在や「神社本庁」を母体とする超党派の「神道政治連盟」などの政治団体は、どうなのだろうか? 神道と政治の関係と併せて、行政問題に詳しい大前治弁護士聞いてみた。
神道政治連盟議員に対する、神道側からの支援と見返りはどれほどのものなのか。
去る10月31日に行われた「秋の園遊会」で起きた、山本太郎参議院議員による“手紙手渡し”問題で、与党議員をはじめとした他の政治家らはこれを「天皇の政治利用」と糾弾。一時は議員辞職を求める事態にまで発展した。
だが一方、批判の急先鋒となった与党・自民党のほうにも、天皇という存在を巧みに政治利用してきた前例があるのもまた事実。安倍晋三首相の肝入りで新たに制定された今年4月28日の「主権回復の日」の式典に、野党の反対を押し切ってまで天皇・皇后両陛下を出席させた一件などは記憶にも新しいところだろう。
そんな矛盾とも取れる彼らの言動の背景にあるのが、自民党の有力支援組織のひとつでもある、宗教法人「神社本庁」を母体とした政治団体「神道政治連盟」(以下、神政連)との関係性。「世界に誇る皇室と日本の文化伝統を大切にする社会づくり」を標榜する同団体の活動を、自民党を中心とする261名もの現職議員らで組織された神道政治連盟国会議員懇談会(以下、懇談会)が全面的にバックアップするという蜜月ぶりには、かねて「政教分離の原則」に反するという批判もつきまとう。
では、実際のところ法的にはどうなのか? 行政訴訟や政治資金問題に精通する大阪京橋法律事務所の大前治弁護士はこう語る。
「“政教分離”といっても、国会議員にも“信教の自由”はあるわけですから、個人的に神道を信仰するぶんには何ら問題はないんです。ただ、憲法は政治が宗教と結びつくことだけでなく、宗教団体側が“政治上の権力”を行使することも禁じている(20条1項)。神政連が問題視されているのは、多数の国会議員を擁する懇談会という別組織を通じて、それらの権力を実質的にはすでに行使しているという点にあるんです」
とはいえ、建前上は別物とされているそうした宗教と政治の密接不可分な関係性は、創価学会をはじめとした他団体にも当てはまる。となれば、神政連だけが特段、異質なわけでもなさそうだが……。大前弁護士が続ける。
「公明党という特定政党と一体化している創価学会は、勢力が拡大しても基本的にその枠組みを超越することはありませんが、神政連の結びつきはあくまで個人。政党の垣根を越えた“権力”の行使を志向しているという意味では、より違憲性が強いといえますね。
しかも、神政連の場合は政治的な影響力の強さを背景に、国民的な運動にすることで社会の風潮や空気感までをも変えようとする方向性を持っている。“美しい国”に代表されるような耳当たりのいい言葉で郷土愛や家族愛を喚起すること自体は決して悪いことではありませんが、政教分離の原則を否定するかのような彼らの動きは、憲法のもとで保障された“信教の自由”や“内心の自由”を脅かす危険性をはらんでいるということも同時に知っておいたほうがいいような気がします」
最後に、専門分野である政治資金規正法の観点から大前弁護士に聞いてみた。宗教法人が非課税というのはよく知られた話でもあるだけに、そうした団体が母体となれば、政治資金の扱いに関しても問題は多々ありそうだ。
「政治資金規正法は政治団体に収支報告書の提出を義務付けていますが、非課税である宗教法人には資金源についての規制はないに等しく、それらが政治運動に流用された場合に監督・是正することはほぼ不可能といっても過言ではありません。非課税優遇の宗教施設として各地に点在する『池田文化会館』が、公明党の選挙事務所と化しているのは周知の事実ですが、それと同じような現象が、全国の神社でも起こる可能性だって十二分にあるわけです」
宗教と政治。神道と天皇。メディアではタブーとされてきたこの問題にも目下、議論の余地は大いにあるといえそうだ。
(文/鈴木長月)