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丸屋九兵衛の音楽時事備忘録「ファンキー・ホモ・サピエンス」【5】

アンドロイド馬鹿一代! ブレない美女は未来志向

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人類のナゾは音楽で見えてくる! ブラックミュージック専門サイト「bmr」編集長・丸屋九兵衛が”地・血・痴”でこの世を解きほぐす。

『The Electric Lady』/ジャネール・モネイ(発売元:ワーナーミュージック・ジャパン)
ほぼ全曲で自作&自己プロデュース。今どき珍しいファンク調ほか70年代モードの曲が多く、その意味でも先達たちとの連続性を感じさせる。そしてなんと、自分の弟子以外とは絡まないはずのプリンス殿下が参加! ジャネール・モネイがすでに一目置かれる存在となっていることがわかる。エリカ・バドゥ、ソランジュ、ミゲルらが参加。


 00年代後半。ビヨンセやらリアーナやら、黒人女性アーティストたちがこぞってリーゼントにした時期があった。もちろん、その流行はさほど続かず、リアーナは赤毛(ほか)になり、ビヨンセは脱色ブロンドざんばら髪(?)へと戻ったわけだ。

 しかし、オリジネイターはブレなかった。

 彼女の名はジャネール・モネイ、1985年生まれのシンガー/ソングライター/プロデューサー。モデルとしてのキャリアもある美女だが、アーティスト活動時はとにかくリーゼントヘア、そしてタキシード着用。ファッションが時流に左右されないだけでも特異だが、ブレないのは外見だけではない。「次作はコンセプト・アルバム!」と宣言したものの、先行シングル曲の不評を受けてなし崩し的に普通のアルバムとなってしまうことが多いR&B/ヒップホップ界において、彼女は一貫してコンセプト主義者なのだ。それも、07年のデビュー作から、この9月にリリースされた最新作まで、常に同一趣向の。

 そのコンセプトとは「アフロフューチャリズム」。今月は、この才女とその思想について書こう。

 アフロフューチャリズム(Afro-Futurism)と言われても、聞き慣れない人が多かろう。その定義は「非西洋的な宇宙観のもと、アフリカ主義とSFやファンタジーを組み合わせた美学」。要するに「黒人による黒人のためのSFイズム」だ。黒人作家が書いたSF小説も(実は)多いし美術作品や映像もあるのだが、やはり目立つのは彼ら黒人の十八番(とされる)音楽という分野での表現である。特に開花したのは70年代。古代エジプトと超未来を結びつけたアース・ウィンド&ファイアーや、ファンクのリズムによる宇宙レベルの世直しを歌ったパーラメント/ファンカデリック(通称Pファンク軍団)ほか、群雄が割拠した充実期だった。

 ジャネール・モネイの場合。07年のデビュー作『Metropolis: Suite I (The Chase)』から10年の『The ArchAndroid』を経て、今回の『The Electric Lady』に至るまで延々と展開されているのは、ハッキリとSF的なストーリーだ。主人公は、人間と恋に落ちた罪により当局に追われることになった「アフロ・プラチナム9000型」アンドロイドのシンディ・メイウェザー。逃避行の中、いつしか彼女は、虐げられた同胞(アンドロイド)の救世主的な存在となっていく……そんな物語が、時間軸を行きつ戻りつ描かれる。

 デビュー作のタイトルからわかるように、発想のもとはSF映画の古典、1927年の『メトロポリス』。そこに『ブレードランナー』の要素が混入されている。それが単なる空想物語ではないのは、黒人としてのアイデンティティが投影されているからだ。アルバム中の寸劇で飛び交う「ああいう連中はどう扱ってもいい。人間じゃないんだから」とか「あんなヤツらと恋愛なんて」というセリフはすべて、かつて黒人に対して発せられた言葉そのまんまである。そもそも、アンドロイドとは奴隷の比喩だろうし、メトロポリスを逃げ回るシンディ・メイウェザーは逃亡奴隷そのものではないか。

 どんなジャンルの文学であれ、アメリカ黒人が自らの人種や民族意識と無縁でものを書くことは事実上不可能だ。それはSFでも。さらに、SF系の音楽でも。

 故郷アフリカから拉致され、奴隷としてアメリカに来てから数百年。彼らが覚える疎外感、そして「ここではないどこかへ」という想いには、それだけの重みがある。それが反映されたものが、アース・ウィンド&ファイアーがLPジャケットやステージで表現した「ピラミッド+ロケット」であり、Pファンク軍団が歌い上げた「ファンクは地球を救う」というスローガンであり、ジャネール・モネイが描く「アンドロイドたちが抑圧されるメトロポリス」なのだろう。

 ただし、Pファンク軍団の物語が、ヴードゥー教探偵が活躍する喜劇オカルト小説『マンボ・ジャンボ』(イシュメール・リード著/国書刊行会)に基づくのに比べ、ジャネール・モネイのストーリーテリングはスマートかつモダン。注目の黒人女性SF/ファンタジー作家のN・K・ジェミシンと交流もあるし、本格的なSF文学少女だったのかも……と想像させる、奥深い才女なのである。

丸屋 九兵衛(まるや・きゅうべえ)
老舗ブラックミュージック雑誌あらためウェブサイト『bmr』の編集長だが、分野外の無駄な知識が膨大で「ダークサイドの池上 彰」と呼ばれる。自慢はコスプレ歴と、荒俣 宏のサイン。

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