サイゾーpremium  > 連載  > 宇野常寛の批評のブルーオーシャン  > 【連載】「ネット選挙解禁」をめぐる議論の争点
連載
宇野常寛の批評のブルーオーシャン 第39回

「ネット選挙解禁」をめぐる議論の争点

+お気に入りに追加

──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

1308_uno.jpg
『知っておきたいネット選挙運動のすべて』

 先日、ある新聞社から取材を受けた。インターネット選挙運動の解禁で政治はどう変わるのか、というテーマだった。具体的には来るべき参議院選挙において、どのような効果が見られるのか、という話の、それも僕からはやや煽り気味の談話を引き出したかったようだった。僕個人の感想としては、もちろん長期的にはインターネットを活用した選挙活動はこの国の政治文化を変えていくと考えている。しかし、この記者が僕から引き出したかったと思われる議席の増減に直結するような効果が、この夏の参議院選挙で顕著に表れるとは考えにくい。

 そう答えると、今度は「では宇野さんは、インターネット選挙運動解禁の効果は薄いとお考えなんですね」と誘導された。そういう問題じゃないのだ、とゼロから説明し直していく途中で、どっと疲労感に襲われた。法律がひとつ変わっただけで、目に見える効果がすぐに表れるようなことも世の中にはたくさんあるのだろうが、そうじゃない問題のほうが多い。

 大切なのは、この一回で目に見える大きな効果が出たか出ないか、出ないならそれは意味がないのだ、といった短絡的な思考に陥らないことだ。この法律の範疇で何ができて、何ができないのか。できることで効果が見られたのは何か。あるいは効果を上げなかった運動が効果を上げるためには何が必要か。そして、法律自体はこの先どのように変えていけばいいのか。こうした議論を徹底することが重要なのであって、「インターネットが政治を変える」的な若手言論のキャッチフレーズの是非を問うゲームとして、この法律改定を捉えるべきではない。

 さらに言えば、本当に重要なのは、このシステムの改定を生かすことのできるプレイヤーの存在だ。こと選挙については、システムが変われば政治文化が変わるという考え方と、適切なプレイヤーが出現すれば既存のシステムでも十分だという考え方が疑似対立を続けているように思える。例えば先の衆議院議員選挙の直後、自民党の大勝に対して「選挙のルールがアンフェアなので、反原発が象徴する市民の反自民の機運が選挙結果に反映されなかった」と新聞にコメントを残していた「識者」がいた。この指摘はもちろん、部分的には正しい側面もあるのかもしれないが、問題の本質から目をそらしているようにしか僕には思えない。そもそも、というか常識的に考えて仕組みが変わることと、それを扱う人々の文化が変化することが足並みを揃えたとき、大きな変化は起こるに決まっている。

 例えばマスメディアによる世論形成に限界を感じ、その突破口としてインターネットによるジャーナリズムや政治運動の基盤がある程度整い始めたのなら、今度はその仕組みを使って何をするか、ということが問題になるのは自然な流れだ。新しい酒は新しい革袋に、という言葉があるが、逆もまた然りだ。僕は件のインタビューで、これからはむしろ革袋に注ぐ新しい酒、具体的には戦後的なオールドタイプの左翼とは一線を画した新しいリベラル勢力の結集が必要だ、と主張したのだが記者はピンと来なかったらしく、(おそらくは自分が「言わせたかった」言葉を引き出すべく)ネット選挙について同じような質問を繰り返した。僕も粘り強く、「いや、そういう問題だけじゃ済まないと思うんですよ」と繰り返した。経済成長や自由競争を敵視しない、現実主義的なリベラル勢力が力をつけないと、自民党内部の頭の柔らかい若手議員の造反を待ち続ける55年体制後期のような政治状況に後戻りするだけだ、そのためには新しい仕組み、新しい武器を用いて新しいリベラル勢力を構築していかないといけない……。僕は話し続けたけれど、やはりピンときていなかったようだった。

 結局、インタビュー原稿は取材者の記者(またはその上司か)の意図を大幅に汲んだ内容でまとめられて来た。これは僕の意見ではなく、某紙が僕に言わせたかった内容を僕の発言を切り貼りすることで再現した原稿だと思ったので、根本的に手を入れた。そうすると、新聞社からはさらに大規模な修正要求が来た。僕は、これはお互い消耗するだけだと思い、原稿を取り下げることにした。

 この文章が掲載される「サイゾー」が店頭に並ぶ頃には選挙戦も佳境のはずだが、それまでにインターネット選挙解禁についての議論というもうひとつの争点も、もう少し整理されていればいいな、と思う。

〈近況〉
新著『原子爆弾とジョーカーなき世界』が発売中です。よろしくお願いします。
発行:メディアファクトリー/1260円(キンドル版1143円)

うの・つねひろ
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌「PLANETS」の発行と、文化・社会・メディアを主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『こんな日本をつくりたい』(共著/太田出版)など。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

サイゾーパブリシティ