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第1特集
虚実半ばの「自費出版」最新形態

出版界の救世主なのか? 虚実半ばする自費出版の今

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──格式ある大手出版社まで続々参入する自費出版ビジネス。しかし、著者に金銭的負担のすべてを委ねるスタイルに問題はないのだろうか? かつては詐欺まがいの商法が問題視された自費出版の最新事情を見てみよう。

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『出版で夢をつかむ方法』(中経出版)

 ついに名門出版社の新潮社も参入──。12年8月20日、文芸出版において最も格式の高い出版社のひとつとされる同社が、個人向けの自費出版と、企業向けのカスタム出版を開始した。その料金は、たとえば四六判ハードカバー300部の場合、230万円。同社の自費出版には、申込者限定で御茶ノ水の「山の上ホテル」で宿泊執筆しつつ、編集者の訪問も受けられるプランまで用意されている。古くから、川端康成や三島由紀夫など、そうそうたる文豪たちが定宿にしていた由緒あるホテルで執筆し、ちょっとした文豪気分に浸れるというわけだ。まさに、ひとかどの作家になった気分を味わえるという経験が、自費出版を手がける会社が売ろうとしている商品なのだろうか?

「本来、商業出版というものはハードルが高くなければそのブランドを維持できないもの。それなのに商業出版の会社が自費出版を始めるというのは、自らブランド価値を下げる行為で、蛸が自分の足を食べるようなものです」

 そう語るのは『出版大崩壊』(文春新書)などの著作があるジャーナリストの山田順氏。長年大手出版社に勤務した経験から、出版業界の現状について考察を続けている。しかし、大手出版社が自費出版に乗り出す例は、すでに当たり前のように見られる。文藝春秋も自費出版を手がける「文藝春秋企画出版編集室」を設け、幻冬舎は幻冬舎ルネッサンスなる自費出版専門の子会社を持っている。「本当は大手出版社の編集者は、自費出版をやりたくないと思います(苦笑)。でもやらなければならないほど経営が厳しくなってきているということでしょう」(山田氏)とし、あたかも商業出版と同じものであるかのように錯覚させることで自費出版は成り立っていると山田氏は続ける。だが、自費出版の世界から、ベストセラーが出現することも事実。先日101歳で亡くなった柴田トヨの詩集『くじけないで』【1】も、もともとは自費出版されたものを、飛鳥新社が目をつけて商業出版したものだし、赤木春恵主演で映画化が決定している、認知症の母との日常を描いたコミックエッセイ『ペコロスの母に会いに行く』【2】も自費出版からスタートしている。あわよくば自分の作品もベストセラーに……そんな夢を、人々に抱かせてしまうのも、故なきことではないのかもしれない。

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