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第1特集
"日本の民族問題"を描く書籍群

差別、弾圧、貧困に、移民のスラム化も!? "日本の民族問題"を赤裸々に描く書籍群

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──「民族問題」という言葉を聞くと、パレスチナやユーゴスラビアにおける民族紛争など、海外の事例を思い浮かべる向きが多いだろう。しかし、ここ日本にも確かに民族問題は存在する。しかも、在日朝鮮人への差別、移民の貧困問題など、事態が悪化し続けている日本の民族問題を赤裸々に描く本の中身を”やや左派目線”でひもといてみたい。

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『アイヌ民族の歴史』(草風館)

 続的に繰り返される政治家の「単一民族国家」発言、そのたびに議論の的となるアイヌ・琉球民族の存在、そして近年さらに高まりつつある在日朝鮮人への差別感情……。当企画では、ニュースでは数多く目にすることがあっても、なかなか身近には感じられない”日本の民族問題”を浮き彫りにした本を解説しながら、その成り立ちや現状、そして展望を見ていこう。

 まず、『レイシズム・スタディーズ序説』【1】の著者のひとりで、フランス文学・思想研究者の鵜飼哲・一橋大学教授は「日本の民族問題を考える上では、戦前・戦中からの歴史の連続性と、現在の世界的な状況を複眼的に見る必要がある」と話す。

「沖縄のことを考えるには、17世紀の薩摩侵攻に遡る日本と沖縄の歴史的関係に加え、戦後の日米関係の知識が必要です。日米安保は沖縄に基地を押し付けることで成立していますが、この基地問題も日本が抱える民族問題のひとつであることを忘れてはなりません。他方、日本と近隣諸国との葛藤はアメリカによって作り出されている部分も大きく、日本と中国や韓国・朝鮮との敵対関係も以前に増して強まっています。国内のアジア人に対する差別感情も強まっていますが、そのようなアジアの国家や民族の間の対立も、アメリカが作った構図の中で起きています。

 なお、現在アメリカが日本を含めたユーラシア大陸を、どのような戦略的視点から眺めているかは、アラン・ジョクス『〈帝国〉と〈共和国〉』(青土社)などに詳しく書かれています」(鵜飼氏)

 そのような前置きを経た上で、琉球の問題について見識を深めるための本として鵜飼氏は『沖縄「戦後」ゼロ年』【2】を推薦する。

「著者はタイトル通り、沖縄に『戦後』はまだ来ていない、戦争と占領は今も続いているとし、『戦後日本の平和は、戦争では本土の捨て石に、その後は米軍基地の要石にされた沖縄の犠牲があってのものだ』と主張しています。オスプレイ反対の運動が起こっても、大多数の日本人が耳を貸そうとしないのは、著者が語る戦前・戦中からの歴史の連続性が忘れられ、アメリカの存在を超えて自分たちと琉球/沖縄との関係を考える姿勢が、本土の人々から失われているためでしょう。また震災の際に、在日米軍の重要性を強調する意図も見られた“トモダチ作戦”が行われたことで、日本人のアメリカへの親近感は、かつてないほどに増していることも大きいと思います」(同)

 国連の人種差別撤廃委員会の審議を10年以上傍聴している東京造形大学の前田朗教授も、琉球民族の権利がないがしろにされた現状を問題視している。

「琉球民族の言葉、文化、歴史も『癒やし』を求める日本人が消費するだけで、民族の尊厳の尊重にはなっていません。米軍基地問題にみられるように、地元の人々の意見には一切耳を貸さず、基地を押し付ける政策がいまだに強行されています」(前田氏)

 そして、『闘争する境界──復帰後世代の沖縄からの報告』【3】を現在の沖縄を知るための一冊として挙げた。

「本書は、沖縄を語り、沖縄に癒やされ、一方で『沖縄問題』を作り出す主体でもある日本人との『闘い』を余儀なくされた、沖縄出身の研究者たちによる報告です。『沖縄問題』とは『日本問題』であり、『日米両国による沖縄支配問題』です。植民地人民として思想の闘いを敢行している著者たちの声を、宗主国人民の一人である私たちは、いかに聞くべきなのか。植民地主義と人種主義を批判してきた私としても、思想と実践が問われる内容だと感じました」(前田氏)

 琉球民族と並び、国内のマイノリティといわれるアイヌの民族問題についても、前田氏は先住民族の権利が認められていない点を強調する。

「アイヌ民族の言葉、文化、歴史を伝える学校教育や社会教育が不十分ですし、先住民族の土地の権利(資源に対する権利)も、まったく顧みられていないのが現状です。日本政府はアイヌ民族を先住民族と認めたにもかかわらず、先住民族の権利については認めようとしないんです。」(前田氏)

 そんな現状を踏まえつつ、アイヌの民族問題の解決へと踏み出す一冊が、前田氏の推す『アイヌモシリと平和』【4】だ。

「ほっかいどうピーストレード事務局長である編者は、北海道を『アイヌモシリ』と呼ぶことによって、『和人(日本人)のアイヌに対する植民地支配』という認識が可能になると述べています。アイヌモシリは、もともと北海道、樺太、千島列島全体を指す言葉として使われていましたが、明治維新の翌年の1869年に、日本政府はアイヌモシリに北海道という呼び名をつけて、大地を略奪し、民族弾圧を始めました。1899年には、貧困にあえぐアイヌ民族を保護する目的で制定された『北海道旧土人保護法』という差別法によって徹底弾圧が完成しています。このような歴史に対して、編者は国連先住民族権利宣言をひとつの手掛かりとして、脱植民地化を現在の課題として掲げています。収録された論文は、アイヌ民族共有財産紛争、アイヌモシリの軍事化、北海道の強制労働と朝鮮人強制連行、民衆史掘りおこし運動、憲法から見る北海道、女性自衛官人権裁判など、いずれも興味深い内容です」(同)

 鵜飼氏も「この本をアイヌ民族問題を考える上での入り口にしてほしい」と語る。

 また、19世紀のフランスの思想家エルネスト・ルナンが『国民とは何か』(インスクリプト)の中で述べた「国民とは忘却の共同体なのだ」という言葉を引き合いに出し、次のように述べる。

「アイヌの人たちが住む北海道は、明治維新以降の日本が初めに植民地化した土地です。アイヌは国民国家を形成しない民族でしたが、日本に植民化をされる中で、統一的な民族的主張も生まれてきます。しかし今の日本では、そのアイヌとの関係の歴史が忘却されている。アイヌの人たちには先住民の権利が認められるべきなんです。そもそも日本の単一民族国家説は、小熊英二氏が『単一民族神話の起源』【5】をはじめとする著作群で詳しく記しているように、むしろ戦後に作り出されたもの。しかしその認識は今も広まってはいないため、先住民に対する差別が続いているわけです」(鵜飼氏)

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