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サイゾー×プラネッツ『月刊カルチャー時評』VOL.9

『平清盛』──低視聴率なんて関係ない! 制作陣が挑んだ、この傑作を観よ!!

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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

[批評家]宇野常寛×[ライター・編集者]速水健朗

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 今月号の小特集では大河ドラマについて取り上げてきたが、それでは12年まさに紛糾した『平清盛』の真の魅力とはなんだったのか? 『清盛』に魅せられた2人の男がアツく語り合う!

速水 NHKの大河ドラマって、基本フォーマットがあるんですよね。物語はシンプルな一本調子で、高齢者向き。子役時代は誰それが演じて、ナレーションは誰それがやって、みたいなものだけが話題になる。そんな紙芝居的でない大河ドラマの挑戦が、『新選組!』【1】『龍馬伝』あたりだったんですけど、『平清盛』は、まさに挑戦的な作品でした。

宇野 僕は大河ドラマはわりと観ているんですが、特に『清盛』は、脚本家が『ちりとてちん』【2】の藤本有紀という時点で「これは観るしかない」と思って、始まる前からとても楽しみにしていました。それで1話を観たら、もう画面からして「いつもの」ファミリー路線のヌルい大河じゃない。明らかに『龍馬伝』の大友啓史【3】の遺伝子を継いだリアリズム路線の演出になっていて、「これは本格的なものが始まったな」と思って、毎週楽しみに観ていました。

速水 今回の作品の出来は「演出の力だ」という意見も多いけど、僕は脚本だと思います。放送開始当初には、「演出がやりすぎ・汚しすぎだ」と兵庫県知事が馬鹿なコメントをして話題になりましたよね。また、『ONE PIECE』(集英社)+映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』+『海猿』(加藤あいのキャスティングから)という、明らかな悪ノリも高齢層離れにつながってる。

 僕が特におもしろく思えるようになったのは、現代と平安末期に「停滞の時代」という共通性を持たせて、清盛(松山ケンイチ)に世直しをさせているところです。そして清盛の仲間である、信西【4】(阿部サダヲ)と兎丸【5】(加藤浩次)に、その担い手として重要な役割が与えられる。信西がやるのは、租税の徹底と優秀な人材の登用。つまり今の日本の状況になぞらえれば、財政再建と競争原理の導入です。一方、兎丸は、架空のキャラクターですけど、日宋貿易と都での交易を進めて、福原の築港のための波よけの泊を造ります。これは言ってみれば、自由貿易とイノベーションで社会を変えていくということになるかと思います。

 清盛は「おもしろきこと」【6】として、この2人の理念を実現していこうとする。だから志半ばで信西が死ぬところは前半のクライマックスで、理念の半分を失うわけです。そして、後半で兎丸が死んでイノベーションも失って以降、清盛はいよいよダメになっていく。だからどうしてもそれ以降はドラマとしては盛り下がるし、展開のペースからいってこの作品では、一般に人気のある源平合戦のシーンはやらないというのが中盤あたりでわかるから、そこも視聴率があまり伸びなかった理由だとは思うけど、この、現代にとても通じる構図は、観ていてすごくおもしろかった。

宇野 まったく同感です。あれは完全に現代日本を意識している。当時の貴族社会が、今でいう旧態依然とした戦後的な大企業+官僚社会やマスメディアで、清盛たち武士の世の中というのが、構造改革派というか、IT系企業を中心とした新しいホワイトカラー層や、インターネットに台頭している新しい言論の流れとか、そういう新興勢力、という比喩になっている。それをまさに作中では信西と兎丸が象徴しているんですよね。

速水 僕は個人的には、信西が死ぬところで、すごくこの作品に入れ込むようになりました。それまでの信西が出てくるシーンを走馬灯のように見せるんだけど、実は全部のシーンで信西が、清盛が悩んでいるところでしか出てこないという作り方になっていることをそこでバラす。徹底した伏線が張られていた。それが本当にすごくよく出来ていて、普通に泣きました(笑)。

宇野 僕はもともとけっこう歴史が好きだから、最初に信西が登場する、彼が穴に埋まっているところを清盛に助けられる、というシーンが、死に方に重ねられていることに気づいたんですよ。信西は平治の乱で、自ら穴に入って自決しようとして、清盛の助けが間に合わなくて死を迎える。もうね、登場した時から切なくて(笑)。それから、「俺はいったい誰なんだ」と悩む若い清盛に「誰でもよい!」と信西が言うシーン。この「誰でもよい」が清盛の救いにならないことが、みんな信西が平治の乱で死んでしまうとわかっているから気付いちゃう。これも切ないんですよね。

速水 信西と兎丸という重要キャラにお笑い系の役者を配すというのは、心憎い演出でした。半ばコメディとして物語を構築しながら、最後に非業の死を遂げさせて泣かせにかかるという。僕はすっかり加藤浩次のファンになりました(笑)。

宇野 そもそも僕は脚本の藤本有紀さんは昔から好きで、『ちりとてちん』のほかに『ミニモニ。でブレーメンの音楽隊』(NHK/04年)、『ギャルサー』(日テレ/06年)、『咲くやこの花』(NHK/10年)なんかも観てるんですが、彼女はどの作品でも、悩んでいる女の子を主人公にして、その子が何か“遊び”をすることで変わるという話を書いているんですよ。『ミニモニ。』では吹奏楽で、『ギャルサー』ではパラパラ、『咲くやこの花』ではかるた、そして『ちりとてちん』では落語。女の子が芸能・遊びに親しむことで自分を見つけていく、という物語をくり返し描いている。それが男性社会の権力的な社会的自己実現とは対比されるように、常に置かれているんですね。

 それが今回の『清盛』では、男性が主人公で、最初は「俺はおもしろいことをやって遊んでいくぞ」と言った人間が、仲間を失ってそれを忘れてしまってダメになっていく。あれはいつもの藤本作品の逆バージョンになっているんです。繰り返し登場するあの「遊びをせんとや~」【7】という歌についても、あれを歌っているのが最初は清盛の母・舞子(吹石一恵)で、その後は祇園女御(松田聖子)、そして清盛の義妹・滋子(成海璃子)と女性ばかりなのが象徴的ですね。唯一の例外が、後白河(松田翔太)で、彼も「遊びをせんとや」を歌うけれど、彼にとっての「遊び」というのはただのニヒリズムで、歴代の藤本作品のヒロインが接してきたポジティブな意味での“遊び”とは違う。そういう対比になっていて、彼女が男を描くとこういうふうになるんだというのがおもしろかった。

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