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連載
佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第56回

頭脳労働から工場の単純労働まで未来ではテクノロジーが仕事を奪う

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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新ロボット・バクスターは顔状のインターフェースが特徴(上)。かつて工業ロボットといえば巨大なプロダクトのためにあったものだが……(下)。

 製造業の工場において、ロボットが生産ラインに導入されて労働者の仕事を奪っている、というのは長らく言われてきたことだ。しかしそれが事ここに至って、さらに進化した形でテクノロジーが人間の仕事に介入してくる未来が見えてきている。「労働」の概念を再考する、この動きを見ていこう。

『レイス・アゲインスト・ザ・マシーン』という本が昨年刊行された。マサチューセッツ工科大の研究者であるエリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィーが書いた本だ。書名はロックバンドのレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンをもじっているのだろう。「マシーンへの怒り」ではなく「マシーンとの競争」。

 この本では、単純労働がロボットに置き換えられるという恐るべき可能性が解説されている。そういう話をすると、まるで「ロボットに支配される人間」のような手塚治虫のSFマンガの世界に思え、荒唐無稽と批判されそうだ。今までそういう未来はさんざん語られてきたけど、現実には起きていないじゃないか、と。しかしテクノロジーの急速な進化でこれが可能になってきているのが、2012年の現実だ。

 例えばお掃除ロボット「ルンバ」の開発者である、ロドニー・ブルックスという人物をご存じだろうか。彼が新たに創業した企業リシンク・ロボティクスは、「バクスター」という単純作業用の安価なロボットを作ろうとしている。お値段2万ドルで重量75キログラム。高度なプログラミングは不要で、頭部に実装されているカメラの前で手取り足取り作業を教えてやれば、勝手に必要な操作を学んでくれる。従来の産業用ロボットが人間には不可能な精密な作業を高速に行っていたのと比べると、このバクスターは動作は遅く、精密な作業もできないが、その代わりに単純作業を延々とやってくれる。

 このスペックは、まさに新興国の労働者そのものだ。年収2万ドル、体重75キロ。仕事をさせるためには精密なマニュアルなどは不要で、「ベルトコンベアに部品が流れてきたら、つかんで脇の袋に入れよ」と手取り足取り教えてやればいい。

 このようなロボットが実現すれば、資金力のある大企業のみならず、中小零細企業でもロボットを使うようになる。そうなれば先進国の単純労働者の収入はインドや中国と同じどころか、ロボットと同じ給料になるまで下がらざるを得ないということになる。実際、台湾企業のフォクスコンにiPhoneやiPadの組立を発注しているアップルは、一部の製造ラインをアメリカに戻す動きを見せているが、これはアメリカ人労働者を雇うためではない。ロボットで組立がかなり自動化できるようになったため、国外に組立部分を移転させる必要がなくなってきたからなのだ。

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