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第1特集
スポンサー依存のマラソンがメダルを穫れなくなった理由【1】

マラソン界はジレンマだらけ……企業に依存して勝てない! 駅伝に殺されたマラソン界

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──ロンドン五輪の選考会で話題となった“ニートランナー”藤原新。彼の出現により露呈した実業団選手たちの低迷は、現在の日本のスポーツ全体におけるスポンサー依存の副産物だった──!?実業団チームの選手たちの声に耳を傾けつつ、その問題点に迫っていきたい。

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『猫まっしぐラン!!』(エフエム東京)

 ロンドン五輪において、久しぶりに男子マラソンに注目が集まっている。かつて、日本では五輪の花形競技だった男子マラソンも、ここ数年はアフリカ勢に大きく水をあけられ、今やメダルを期待する声も聞かなくなった。今回騒がれているのも、残念なことにメダルへの期待からではなく、代表に選出された藤原新が所属チームのない“ニートランナー”だったからだ。その藤原と最後まで代表を争った川内優輝もまた、“公務員ランナー”。実業団に所属して競技に挑むことが一般的とされた日本において、“非実業団”選手の活躍はそれだけ意外なものであったのだろう。では、そんな環境下において、実業団の選手たちはなぜ勝てなくなってしまったのだろうか。ここではマラソンの例をもとに見ていきたい。

 日本でマラソン人気に火がついたのは1980年代。86年の北京国際では、旭化成の児玉泰介が以降12年間破られなかった日本記録を打ち出している。その児玉に続くように、同じ旭化成の宗茂・猛兄弟、エスビー食品の瀬古利彦、カネボウの伊藤国光、ダイエーの中山竹通らが次々と登場し、日本のマラソンは実業団の選手たちによって、80年代に黄金期を迎えた。しかし、92年のバルセロナ五輪で旭化成の森下広一が銀メダルを獲得して以降、男子マラソンの日本人メダリストは20年間不在のままなのだ。元マラソン日本記録保持者であり、ソウルとバルセロナで2度の入賞経験を持つ中山竹通氏は、その理由をこう指摘する。

「今の実業団の練習は、まず駅伝ありき。それがマラソンの練習とまったくかみ合わず、記録が出せなくなっているんです。マラソンの練習は1~2カ月ではできません。しかし、間に駅伝の試合を入れられてしまい、マラソン用の練習が長期スパンで組めなくなる。そんな練習法では、2時間10分を切ることはできませんよ」

 駅伝といえば、正月に行われる箱根駅伝やニューイヤー駅伝など、お茶の間の人気種目。企業からすれば、ユニフォームに名前を載せて“広告”として走ってもらうことに、チームを抱える意義がある。安定した人気を持ち、短期間で調整も可能な駅伝に比重が置かれてしまうのは、当然のことだろう。

「陸上の場合、駅伝があるから実業団チームを維持しているという企業は多い。そのおかげでお金を出してもらえるからこそ、選手は競技に取り組むことができるんです。駅伝を“悪”としてしまうと、陸上競技全体の裾野を狭めることになりかねません」(元実業団陸上チームコーチ)

 バブル崩壊後、実業団に対する企業内での風当たりは強く、90年代以降にはスポーツ全体で300以上のチームが廃部に追い込まれている。これはちょうど、日本の男子マラソンでメダルが獲れなくなった時期と同じ。陸上においても、NEC、ダイエー、沖電気宮崎など、名門と呼ばれたチームが次々と廃部し、マラソンの強化より、チームの維持に比重が置かれるようになったことがうかがえる。

スポンサーに多様化を! 希望は個人援助サービス

 そんな中、今後必要になってくるのが、選手活動の多様化だ。企業スポーツへの支援を行う大崎企業スポーツ事業研究助成財団の事務局長、籏野俊彦氏はこう話す。

「実業団チームに代わって増えてきているのが、クラブチーム型と社団法人型。企業がチームを保持するのではなく、共にスポンサーの協賛によって運営されており、まだまだ可能性を秘めている」

 このクラブチーム型とは、個人会費や後援会組織、支援企業などからの広告収入、地元自治体からの支援などにより運営すること。社団法人型は、チームそのものを法人化してしまうというものだ。陸上では、日本実業団陸上競技連合がクラブチームにニューイヤー駅伝本戦への出場を許可しないなど、まだまだ保守的な状況だが、海外においては五輪メダリストを輩出する陸上のクラブチームも多数存在している。今後、スポンサーとの関係に選択肢を増やしていける可能性は、十分にある。

 その意味で、代表入りを果たした藤原は、新しい選手のあり方を力ずくで認めさせたといってもいいだろう。そもそも彼は、JR東日本の実業団選手だったが、10年、マラソンに専念するために退部。その後、健康器具販売会社レモシステムとスポンサー契約を結んだものの、同社の経営悪化により給与の未払いが起こり、契約を解除されている。しかし、それからも、定収入はないながら無所属で競技を続け、今年の東京マラソンで準優勝を果たし、見事、ロンドン五輪代表の切符を手に入れたのだ。

 さらに、その東京マラソン後、藤原は動画配信サイト・ニコニコ動画と組んで個人スポンサーを募集。あっという間に定員の2万人を達成し、およそ1000万円の活動資金を得ることができた。個人がインターネットを通じて自分の活動に対する援助を受けるこうした仕組みは「クラウドファンディング」(以下CF)と呼ばれ、アメリカなどでは盛んに行われている。スポーツ選手の支援については、過去海外にも例がなかったが、実業団だけに頼らない今後のマラソンを考える上で、有効な方法になるのではないか。国内でスポーツ選手向けのCF「Cofter」の準備をしているDolphinon&companyの代表、丹野裕介氏は言う。

「トライアスロンやフェンシングのように、日本でマイナーなスポーツだとお金がなくて海外の遠征に行けなかったり、明日の試合にも出られないような世界ランカーが、実はたくさんいます。アルペンスキーの皆川賢太郎さんでさえ、10年の五輪出場直前に、スポンサーに困っていた事もあります。五輪選手ですら、企業から100万円スポンサードしてもらうのはとても大変なことなんです。しかし、それが1000人から1000円ずつだったら可能かもしれない。そういう思いから、このサービスの本格稼働を目指しています」

 これらのサービスが今後どのように支援金を集めていくか、まだ先は見えない。しかし、これが機能すれば、新しいプロアスリートの形が生まれる可能性もある。さらに、「実業団がマラソン選手を社員として抱えるのではなく、いちスポンサーとして多少のお金や練習場、培ったノウハウを提供し、その上で選手がCFを活用できるようになるといいと思う。そうしたら、お互いにメリットが出てくる」(元実業団選手)かもしれない。

 とはいえ、企業に支援されて当たり前という環境でやってきた日本のアマチュアスポーツ界は、果たして変われるのか。当特集【2】から現場の生の声を聞きつつ、その問題の核心に迫っていきたい。

(文/大熊 信)

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