──新聞などの演劇評では、なかなか取り上げられることのない、ジャニーズの舞台ショー。そこで、気鋭の舞踏家・演出家に『滝沢革命』と『Endless SHOCK』を観てもらい、レビューをお願いしました〜!
[観てもらった舞台DVD]
09年1月に東京の帝国劇場で行われた、滝沢秀明が座長を務めるミュージカルショーの新春公演。主演も滝沢秀明。作・構成・総合演出はジャニー喜多川。初回限定盤と通常盤の2種類有り。
販売:エイベックス・エンタテインメント 価格:8800円(税込)
評者:伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団)
ジャニーさんの演出力に感服の『滝沢革命』
いい意味で「この先エンタテインメントはどこに行くんだろう」と思わせてくれる作品。そのくらい高揚感がありました。
いろんなジャンルを取り込む演目という意味では、『シルク・ドゥ・ソレイユ』や歌舞伎と似ているのかもしれません。ただ、『シルク~』や歌舞伎の場合、私たちにそのベースとなるサーカス、古典芸能の知識があるから、内容的に裏切られることはないですよね。
ところが『滝沢革命』では歌や踊り、芝居に加えて、マジック、イリュージョン、フライングが目まぐるしく展開される。あらゆる場面で観客の期待を大きく超えてくれるんですよ。
『滝沢革命』しか観たことないお客さんが、ほかのスペクタクル系のエンターテインメントを観たら大したことなく感じるかもしれませんね。
[演出]
まず思ったのが、ジャニーさんの頭の中を見てみたい(笑)。滝のように降らせた水で文字を描く演出をどうして思いついたのか。派手な展開になったら演者が客席に飛び出して演技することで誰にでもわかりやすく物語を伝える、歌舞伎にも似た手法をどこで学んだのか。そのプロデュース能力の源を、ぜひ知りたいくらい、バラエティに富んでます。
[美術]
かつて、ピナ・バウシュが船一隻をステージに登場させたことが話題になりましたけど、これには船どころか、飛行機やデカいクジラは出るわ、水や火も出るわ、最新のLEDスクリーンに映像まで出るわ。あれ、完璧に採算を度外視してますよ。どのくらいのバジェット(予算)を用意しているんだろう(笑)。
[ストーリー]
ストーリーの必然性よりも、ジャニーさんが思いついたことを実行しているからか、ストーリーは少しややこしい感じが……。大昔の高野山からいきなり竜宮城に行ったかと思えば、いきなり2060年の宇宙に話が飛んじゃったり。ただ、舞台上で繰り広げられることがスゴすぎるから、あまり気になりませんでした。
いとう・ちえ
振付家・演出家・ダンサー・珍しいキノコ舞踊団主宰。1990年、『珍しいキノコ舞踊団』を結成。以降全作品の演出・振付・構成を担当。10月27日から31日まで、珍しいキノコ舞踊団20周年記念公演 『20分後の自分と。』 を公演予定。詳しくはオフィシャルサイトまで(http://www.strangekinoko.com)
[観てもらった舞台DVD]
『Endless SHOCK 2008』堂本光一が座長・主演を務めるミュージカル作品シリーズの08年版。これら一連の舞台成果に対して、スタッフ・出演者一同が第33回『菊田一夫演劇大賞』を受賞した。
販売:ジャニーズ・エンタテイメント 価格:8000円(税込)
評者:ペヤングマキ(ブス会*)
なんでもアリの舞台に『SHOCK』!?
殺陣や階段落ちから、スリラーっぽいダンスから、空中ブランコから、シェークスピアっぽい芝居まで、なんでも詰め込む感じは節操なくもあるし、ちょっと隠し芸大会っぽくもあるものの(笑)、あれだけ盛り込まれたら、素直に楽しめると思いますよ。
それと"堂本光一"という人自体も気になる。役者って60人規模の小屋で1時間の公演を2週間続けるだけでも、結構ボロボロなんですよ。なのに、あのハードな3時間のステージを1000人以上の前で年に100回もするんですよね。舞台に自分のアイデンティティを見いだしたからできるんだろうけど、それはジャニーズ内の競争に揉まれているうちに役者的な自意識が芽生えたからなのか。いろんなことをこなす自分に陶酔して、変なアドレナリンが出ているのか。誰かに洗脳されたのか。結構不思議ですよね(笑)。
[演出]
演劇って、空間の大きさによって有効な演出が変わるんです。小劇場なら会話だけで魅せることもできるけど、大劇場ではそれでは成立しない。小劇場演劇好きの人にはダサく映るくらいの王道エンタテインメントのほうが映えるんです。その点、盛り込みすぎなくらい王道に次ぐ王道が続く、この構成は、ある意味正解だと思いますよ。
[美術]
演出の話ともカブるんですけど、クルマが宙に浮いたりする、テーマパーク的な楽しみ方ができる派手な舞台美術も、帝国劇場のような大劇場向き。広い層が受け入れることができますよね。それでいて水や火を使ったりするタッキーの舞台に比べると、硬派さも残している。美術もやっぱり王道エンタテインメントなんでよすね。
[ストーリー]
『ウエストサイドストーリー』っぽいというか、ベタな話だけど、もしストーリーなしに隠し芸(のような演目)だけ羅列されたら、つまらなかったはず。大きな物語が根底に流れているから、飽きずに楽しめる。それに、人が死ぬベタな話って純粋に感動を誘いますよね。私みたいな穿った見方をする人間でも、舞台に対する考えが一周して、楽しめましたよ。
ぺやんぐまき
1996年、三浦大輔主宰の劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。04年より「ペヤングマキ」名義でAV監督として活動する傍ら、10年に「ブス会*」を立ち上げる。毎回、女性の本性を暴き出すような芝居を作り、評価を得ている。