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第1特集
ライブ、レイブ、さらには木版画の作成まで

勝手に「社会」を創る無法者!? アナキストたちの愉快な抵抗

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アメリカの「CrimethInc.」(左)とギリシャの「VOID NETWORK」のチラシ。

 アナキスト──それは教科書的に換言すれば"無政府主義者"ということになるだろう。時にその言葉は物々しい雰囲気を醸し出すが、彼らの実態はいかなるものなのか?世界各地のアナキストとコネクションを持つ成田圭祐氏に話を聞いた。

 ナキズムとは、支配や権力のない世界を構想する政治思想。アナキストとは個人が平等な立場で協同的に暮らせる相互扶助の社会を作り、資本家や警察国家などの管理社会に対抗する活動家たちのことを指します。日本では幸徳秋水や大杉栄、伊藤野枝らが有名で、特に大杉栄のエッセイを読むと反体制運動の理論と同様に自律的なライフスタイルが描かれていて面白いですね。今はそれがスクオット(住宅占拠。廃屋や廃ビルなど、空き物件に住み着くこと)やコレクティヴ(活動家が集うスペース)として世界中に現れている。

 アナキストというと暴力的なイメージがあるかもしれないけど、日々の営みは地味で淡々とした生活。どこに行ってもみな親切ですしね。僕は新宿でイレギュラー・リズム・アサイラムというインフォショップ【註】を運営していますが、海外からCDやジンを仕入れていると、活動家たちの拠点となっているスクオットや政治活動をサポートする作品制作の実態がわかり、世界のアナキストの動きが見えてきます。そもそもアナーキーな人たちはお互いの制作したCDやジンを物々交換するような国内外のパンクのライブに接し、そこで手に入れたアイテムを情報として提供するために店を構えることにしました。こうして、アナキストとは音楽や旅を通じて出会うことができるのです。ここではその中で活動スタイルがユニークなアナキストを紹介します。

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 まず、若いパンクのアナキストが運営するフィリピン・ダヴァオにあるソーシャル・センター「KINAIYAHAN UNAHON」【1】。ストリート・チルドレンやホームレスに食事を無料配布する運動「フード・ノット・ボム」は世界中に広がり、インフォショップとセットとなっていることが多いですが、ここが特殊なのはバナナ農園開発の反対運動にカンパする西洋のNGOとうまくやっている点。当初は地球解放戦線(地球環境保護を提唱する過激派組織)と接し過激な活動もしていましたが、今は地元に根ざした場所づくりをしています。


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 北米にはときに暴力的な行動もとる急進的エコ活動家のグリーン・アナキストが多いですが、FBIにテロリストと認定された今は弾圧がキツい。オレゴンを拠点とする「CrimethInc.」【2】はハードコア・パンクのレーベルで、最近は書籍やジンの刊行がメインですが、彼らが取り上げるのはグリーン・アナキストと、「暴れてみなきゃわからない」という直接抗議行動を行う人たち。執筆者はみな匿名で、誰がかかわっているのかわかりません。ここがリリースするDJフィラスティンのCDを買うと、拘留中のアナキストへカンパできますよ。


共産圏のアナキズムと表現者としての運動

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 ちょっと友達になれないくらいテンションの高い人たちが(笑)、ギリシャの「VOID NETWORK」【3】。暴動の地を求めて音楽と旅するレイヴァー集団です。去年のギリシャの暴動(アテネで15歳の少年が警官に射殺されたことに抗議する暴動が発生し、ギリシャ全土、欧州各地に飛び火した)はもちろん、パーティをやりながらメキシコのチアパスをはじめ各地のスクオットに転々と移動する。その参加者は若者が多くて、中学生くらいの子が鋲ジャンを着て暴動に出かけています。つまり、ユース・カルチャーとして路上の抗議行動があるということです。


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 友人の志賀直輝によるメキシコシティのコレクティヴ「Colectivo Autonomo Magonista」【4】のレポートをウチのホームページに載せていますが、こうしたインフォショップとワークショップとライブ・スペースを兼ねた自主管理スペースは世界中にある。


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 イスラエルは一筋縄ではないパレスチナ問題を抱える常に政治的に不安定な場所ですが、「ANARCHISTS AGAINST THE WALL」【5】というインフォショップが情報と活動の拠点になって、イスラエル兵の監視や通学する子どもの付き添いなど、パレスチナ人の抵抗行動に地道に寄り添っています。分離壁にはグラフィティ・アーティストがイスラエル政府に抗議する見事な落書きをしているので、一度見てほしいですね。


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 中国の武漢にも、「我們家青年自治中心」【6】というスペースがある。主宰するゾウ・リンホアはミュージシャン。ヨーロッパのスクオットでライブをした経験が大きいようで、中国は体制の取り締まりが厳しく、そうでもなければアナキストと接する機会はなかったでしょうからね。でも今はアメリカの活動家が英語教師として国内にたくさん流入していて、彼らがアナキズムの情報源になっている。実は日本にも英語教師の肩書きを持つ活動家は多く、ウチの店にもよく来ますよ(笑)。


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 法的取り締まりやマーケットをあざわらうように街頭の壁に勝手にペイントするグラフィティ・アートはその行為自体がアナーキーですが、最近のアート系アナキストで面白いのがインドネシア・ジョグジャカルタの「Taring Padi」【7】。スクオットから生まれたアーティスト集団で、僕の店にも農園が描かれた木版画を飾っています。バイオ燃料のためにマングローブが切り倒されパームヤシ畑に変えられそうになっている現地の状況を照射したその作品は政治的メッセージが強いですが、クオリティが高く、アート業界が目をつけ始めています。


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一方、NYのアート・コレクティヴ「JUSTSEEDS」【8】に属するスウーンは、ストリート・アートやグラフィティのドキュメンタリー映画『インサイド/アウトサイド』にも登場した有名なアーティストです。彼女の作品はかなり高額で売れますが、その収入でゴミからボートを作り、ハドソン川で生活したりする。作品で得た金は仲間と面白く使ってやろうという発想なんです。


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 最後に、ベルリンはスクオット・シーンが巨大で、デモで石を投げたらサラリーマンよりパンクスに当たる(笑)。もはや裏社会じゃない!そんな中で「STRESS FAKTOR」【9】というコレクティヴが制作する月刊のフリーペーパーが街中に置かれていますが、それを見ると、カンパによる食事の提供場所が毎日メチャクチャある。またライブやデモ、上映会等のスケジュールも掲載された立派なガイドブックです。僕らもそれを真似て「TOKYOナントカ」という冊子を作っていて、東京のオルタナティヴな運動シーンももっと熱くしたいと考えています。さらに興味がある人はアナキスト・イエロー・ページやコンタクト・リストを見れば、世界のディープな場所に行けますよ。
(構成/五所純子)


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【註】書籍や音楽CD、ジンと呼ばれるミニコミ誌、ステッカー、ポスター等を置き、オルタナティヴな文化を求める人々やアナーキーな政治運動家たちに情報や活動拠点を提供する場所。

成田圭祐(なりた・けいすけ)
ハードコア・パンクの音源、アナキズム関連の書籍やミニコミ、Tシャツ等を扱う新宿のインフォショップ〈IRREGULAR RHYTHM ASYLUM〉店長。『EXPANSION OF LIFE』の編集・発行人。公式HP


◉こうして虐げられ、進化した! 超入門・日本のアナキスト列伝

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 日本のアナキズムのルーツを遡れば、明治時代の幸徳秋水に辿り着く。帝国主義を批判した無政府主義の彼は、当局に天皇暗殺計画を企てたとして処刑された。また大正時代には、大杉栄がアナルコ・サンディカリズム(労組運動ベースの無政府主義)を唱えるも、妻で活動家の伊藤野枝とともに憲兵が虐殺。そんな虐げられた歴史を持つが、現在も死に絶えたわけではない。高円寺のリサイクルショップ「素人の乱」を拠点とする松本哉の「放置自転車撤去反対」等の主張や路上での鍋パーティといったデモは、貧しき若者たちがリーガルに公的秩序を破壊するゼロ年代的アナキズムと言えるだろう。そして政権交代したいま、この国のアナキズムは、新たな動きを見せるかもしれない。
(砂波針人)


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