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第1特集
タブー破りのフォトグラファーたち

卑猥、盗撮、死体写真も芸術に昇華 スキャンダラス写真集に刮目!

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──有名人の醜聞や残忍な事件だけがスキャンダルではない──。一般人にはなじみのないアートの中にも、スキャンダラスな作品は多数、存在するのだ。ここでは、写真評論界の気鋭が選んだ、"スキャンダラスな写真集"を紹介、解説したい。

 ジャーナリズムの本質をスキャンダルだと言った人がいたが、写真の本質もスキャンダルだと言い換えてもあながち的外れではないかもしれない。日本で最もスキャンダラスな写真家といえば、「猥雑」なヌード写真で性的タブーの枠を押し広げてきた荒木経惟だろう。昨年のポラロイド社製のカメラとフィルムの生産終了に伴い、それらへのオマージュともいうべき『POLART』【1】が刊行されたばかりだ。撮影したすべての写真が選別や現像所というプロセスを経ることなく、物体として即座に存在してしまうポラロイド写真は、絶えずスキャンダラスな話題を振りまいてきた荒木の必須アイテムだったはずだが、これが彼の最後のポラロイド写真集になってしまうのかもしれない。

 そんな荒木が「写真の中の写真である」と評するのが、吉行耕平が70年代に撮影した盗撮写真だ。夜の公園で男女の営みに精を出すカップルを赤外線暗視カメラなどで撮影したもので、それを覗き見る吉行の共犯者たちの姿も収められている。2007年にはドイツで写真集『The Park』【2】も出版されているが、昨今の日本写真ブームにのせて、犯罪スレスレの盗撮写真をアートとして流通させてしまうとは、これもまたスキャンダルということか。

 当時の最新鋭カメラを駆使した吉行とは対照的に、ガラクタを寄せ集めた手製のカメラを隠し持ち、街を徘徊しながら人間(といってもほとんどが女性)を撮影していたのが、チェコのミロスラフ・ティッシー【3】。共産主義政権下、刑務所や精神病院で長く過ごした彼はゴミ溜めのようなところを住処としながら撮影を続けた。またしても盗撮のたぐいなのだが、ストリートスナップという手法そのものに盗撮的要素が大きいことも確かだ。

 ティッシーの主な被写体は成人女性だが、『不思議の国のアリス』の作者にしてアマチュア写真家、ルイス・キャロルが「少女狂い」だったことはどれくらい知られているだろうか。物語のモデルとなったアリス嬢へ贈られた手書きの『アリスの地下の冒険』には、自身で撮影した彼女の写真が貼り付けてあったという。おそらく愛する少女たちの姿をそのまま留めておくために、写真と空想の世界があったのだろう。写真集『Dreaming in Pictures』【4】では「夢見る」ルイス・キャロルが停止させようとした少女たちの時間を目にすることができる。

監視カメラでは写せない人々の営みとスキャンダル

 デジタルカメラや監視カメラが普及する前は、事故の写真といえばほとんどが起こった後のものだったはずだ。40~50年代のカリフォルニアで、誰よりも先んじて事故現場を撮影するために警察無線を傍受していたのが、メル・キルパトリック。『Car Crashes & Other Sad Stories』【5】に収められたできたての交通事故現場や殺人現場は凄惨を極めている。ちなみに、ニューヨークの"特ダネ"写真で名を馳せたウィージー【6】は車に警察無線だけではなく、すぐに現像できるように暗室まで装備していたというが、誰でもカメラを携帯する今、潜在的な"特ダネ"写真家はそこかしこに存在する。

同じくニューヨークのストリートスナップといえば北島敬三の名が挙がる。『The Joy of Portraits』【7】に収録された70~80年代の東京やニューヨークの写真は、誰でも往来できるはずのストリートに、混沌たる暗がりが存在していたことを教えてくれる。さまざまな人間の欲望が入り乱れるその場所は、「歩行者天国」という名の下に管理され、監視カメラだらけになる「公道」以前の、天国とも地獄ともつかない都市のグレイゾーンだ。ニューヨークを後にした北島は東欧やソ連での撮影へと向かうが、最後に同じく「東側諸国」を撮影した写真家を紹介したい。

 馬小虎の『忘れられた人々』【8】は天安門事件のあった89年からの2年間で中国全土の精神病院の患者を撮影したもの。レンズを見つめ返す患者たちの虚ろな視線に耐え、膨大な患者を撮影した精神力には恐れ入る。中国共産党政権下で最下層に落ち、「忘れられた人々」を白日の下に晒した本書は「西側諸国」で大きな話題を呼んだ。

 また北朝鮮の軽水炉建設のための記録写真家として朝鮮半島エネルギー開発機構から派遣された韓国人、石任生の写真も一見に値する。写真集『北朝鮮の日常風景』【9】に見られるのは撮影されることを前提に作られた平壌や中国との国境地帯の「内部映像」とも違う、ありふれた農村の暮らしだ。それにしても、監視の目をかいくぐり、7年間で数千枚とは驚くべきフットワークと強運だ。

 英語の「scandal」には「scan=詳しく調べる」という言葉が含まれているが、ラテン語「scandere=登る・跳ぶ」と合わせると衛星写真や航空写真をもとにした地上のスキャニング画像を連想させはしないだろうか。今や世界中のあらゆる場所が上空から撮影され、カメラの未踏地はなくなったといえる。しかし、かかる垂直のアングルからは決してスキャニングできない人々の営みがあることを、上記11冊の写真集で写真家たちが選び取ったアングルは教えてくれるはずだ。

小原真史(こはら・まさし)
1978年愛知県生まれ。映像作家。第10回重森弘淹写真評論賞受賞。監督作に『カメラになった男─写真家 中平卓馬』。早稲田大学非常勤講師、IZU PHOTO MUSEUM(10月開館予定)研究員。現在写真家、古屋誠一のドキュメンタリー映画を制作中。


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【1】『POLART』
荒木経惟/2009年/Hysteric Glamour/13,800円(税込)
荒木経惟の過去十数年に及ぶ作品群から約1000点のポラロイド写真を厳選した本書は、巨匠アラーキーの世界にどっぷり浸かれるのみならず、スキャンダル写真の基礎的な理解に最適な1冊。エロスに対峙してきたことは広く知られたところであるが、ポラロイドというフォーマットだからこそ、吐息や体臭の生々しさを一層感じられ、さながら性行為のように撮影されたことを思わせる。


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【2】『The Park』
吉行耕平/2007年/Hatje Cantz
70年代の新宿中央公園に通いつめ、「青姦」に励むカップルたちを撮りためた本書は、情事を遠巻きからうかがい、しまいには乱入してスワッピングを展開する「覗き屋」の姿も写り込んでいるのが面白い。が、本書をめくる行為もまた「覗き」に参戦することなのだ。原題である80年刊行の『ドキュメント公園』は長らく幻の写真集であったが、海外での評価が高く、07年にドイツの版元から復刊。


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【3】『Miroslav Tichy』
ミロスラフ・ティッシー/2008年/Centre Pompidou
チェコの共産主義社会からドロップアウトしたミロスラフ・ティッシー。ホームレス同然の暮らしをしながら、ガラクタでできたカメラを持ち歩き、街行く女たちをこっそり撮り続けた彼の写真が本書には収められる。その視線は「スーパー写真塾」「BUBKA」のカメラ小僧、果てはCCDカメラを仕込んだ盗撮犯とも同期しそうだが、プリントに刻まれた傷や感光具合がいかがわしさを増長させている。


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【4】『Dreaming in Pictures』
ルイス・キャロル/2002年/Yale University Press
『不思議の国のアリス』の作者として有名なルイス・キャロルだが、写真家としての側面を知ることができる、というより彼のロリコンぶりを堪能できる一冊。とはいえ、ドレスアップした少女たちのポートレイトは絵画的で、単に小児性愛者の狂気とは片付けられず、彼女たちの人生で一度しかない瞬間の姿が空想と現実のあわいで宙づりになっている。


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【5】『Henry Darger's Room』
ネイサン・ラーナー、デヴィッド・バーグランド、北島敬三、ジェシカ・ユー/
2007年/インペリアルプレス/税込3,150円
本文では触れられていないが、社会から隔絶していたアウトサイダー・アーティスト、ヘンリー・ダーガーの自室を捉えた写真集。73年の死後、小説『非現実の王国で』と、その空想物語を可視化するためにぬり絵や絵本、新聞、雑誌のイメージをスクラップしコラージュした大量の挿絵が発見され、彼の才能に美術評論家も舌を巻いた。


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【6】『Car Crashes & Other Sad Stories』
メル・キルパトリック/2007年/Taschen
40〜50年代のカリフォルニアで交通事故や殺人現場を撮っていたメル・キルパトリック。釣崎清隆の死体写真のようなグロテスクさもあるが、彼が特異なのは警察無線を傍受し現場にいち早く駆けつけたことだ。事故や事件として処理される直前のグレイゾーンで生温かい死体を捉えたからこそ、写真にマズい臭気が漂う。


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【7】『Weegee』
ウィージー/1977年/Knopf
30〜40年代のニューヨークでダブロイド紙のカメラマンとして活躍したウィージーのアンソロジー。警察無線を傍受しながら事件や事故のスクープ写真を量産したその根性はキルパトリックと同様に見上げたものだが、生と死、犯罪者と被害者、セレブと浮浪者をスキャンダラスかつグロテスクに捉えた彼のショットは、闇へと隠蔽されがちな都市の生々しい息づかいを炙り出すことに成功している。


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【8】『The Joy of Portraits』
北島敬三/2009年/RAT HOLE GALLERY/2万1000円(税込)
重量7kgもあるこの写真集は東京、ニューヨーク、ベルリンといった都市に渡り、ストリートの息吹を撮り続けてきた北島敬三の全仕事を網羅。スキャンダル写真という意味では、とりわけベトナム戦争下で栄えた沖縄の歓楽街コザで撮られた作品が該当。黒/白/黄色の人種がマーブル状になったスナップショットは、アメリカと日本の間で揺れ動いたオキナワのタブーに抵触しているよう。


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【9】『忘れられた人々』
馬小虎/1993年/第三書館/2006年刊行の新版は3150円(税込)
かの天安門事件が起きた89年に、当時中国の新進カメラマンだった馬小虎が中国全土の精神病院を訪ねて、患者たちを撮りためたのがこれ。彼・彼女らのうつろな表情と院内にゴロリと横たわる不穏な空気を目の当たりにすれば、共産党政権が封殺していた国家の病巣を十二分に体感できるだろう。こうした実態を写真でもって世界伝えた意義は大きい。


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『北朝鮮の日常風景』
石任生/2007年/コモンズ/2310円(税込)
97年から04年まで北朝鮮に滞在した韓国人写真家の石任生が、監視の目をくぐって一般市民を撮り続けた写真集。メディアを通じて拉致問題、核兵器開発、飢餓貧困といったレッテルを貼られてきた北朝鮮だけに、のどかな農村の風景とそこで逞しく生きる人々を捉えた本書はある意味スクープに値する。しかし、それもまた「北」の一側面であることを念頭に置きつつ眺めたい一冊ではある。


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『パラダイス・イデオロギー』
渡邉博史/2008年/窓社/3990円(税込)
こちらも本文では触れていないが、日本人の写真家・渡邉博史が現地のガイドに連れられながら、人影もまばらな平壌の街並みを撮影した写真集。ここに写し出された映画館やビル、地下鉄、そしてわずかな通行人たちはすべてフェイクに感じられ、そうした空虚な都市のありようはまるでジオラマのようで、石任生が捉えた農村の人間味とは完全に対をなしている。



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