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第1特集
百花繚乱の時期を経て、覇権争いに終止符が――

動画サイト戦争は淘汰の時代へ 勝者はYouTubeか、それともニコ動か?【1】

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――YouTubeの台頭以降、新たなネットビジネスの金脈と見て多数の企業が参入した、動画サイト事業。しかし今ではサービスの停止、事業の縮小、事業の売却をするサイトが出てきた。生き残りを懸けて各社必死なこの業界、最後に笑うのはYouTubeかニコ動か、それとも意外な伏兵か!?

 05年末のYouTube(現グーグル)誕生と爆発的な急成長を受け、日本でもわずか数年のうちに、雨後の竹の子のように増殖した動画共有サイト。

 だが日本国内だけで月間2000万人以上のユーザーを集める"王者"YouTubeですら、09年の赤字は世界で4億7000万ドルに達すると見込まれているほか、平均月間利用時間ではYouTubeをしのぐ、国内動画共有サイトの雄・ニコニコ動画(ニワンゴ/以下、ニコ動)もサービス開始以来赤字続き。今後については昨年「09年6月に単月黒字化させる」と宣言するにとどまり、来る8月6日の決算発表が待たれている。

 その一方で、マイクロソフトがYouTube追随を掲げて始めた動画共有サイト「Soapbox」は、同社を取り巻く経営状況の悪化から、今後数カ月のうちに大幅に規模を縮小する方向で見直しを始めたという。

 この惨状は共有型サイトに限らない。パソコン向け動画配信サービスでは最大手ながら27億円もの営業赤字を計上していた「GyaO」(USEN)の株式の51%を、同じく動画配信事業では儲かっているとはいえないヤフーが5億円で取得し、子会社化したことをはじめ、同様サービスの「ミランカ」(株式会社ネオ)が6月末に突然サービスを終了するなど、動画サイトビジネス市場はまさに百花繚乱の時代から、生きるか死ぬかの乱世へと突入している。

 そもそも、動画サイトはなぜこうも儲からないのだろう? 自身もニコ動のヘビーユーザーであるという、動画サイトビジネスに詳しいコンサルタントの吉川日出行氏に聞いた。

「サーバーと回線のコスト負担が大きいんですよ。テキストや画像、せいぜい音楽くらいの比較的軽いコンテンツが中心だった時代と違い、今の動画はデータが重い。また、動画共有サイトのようなコミュニティビジネスになると、動画を投稿するユーザーと視聴するユーザー両方をどんどん集める前提で事業を計画しているので、当然そのユーザー増の見込みに合わせてシステムと回線を増強していかないといけないんですが、この増強と維持のコストが高くつきます」

 つまり、動画ビジネス自体は「ある面では設備産業」(吉川氏)。ゆえにそれなりの規模の投資が必要なのは仕方ないが、ほかの産業同様に、どこかのタイミングでビジネスモデルを確立してブレイクスルーしさえすれば、以降は何もしないでも儲かるようになる可能性があるという。

「より深刻な問題は、ユーザーの意識ですね。残念ながらお金を払ってまで動画を見たいという人が、ほかのネットサービスに比べてまだまだ少ない。日経産業新聞とヤフーバリューインサイトによるアンケート調査の結果によると、『無料でなければ利用しない』という人が全体の65・5%もいたそうですから」(同)

 日本ではそもそもほとんどのネットのコンテンツが当初からタダで提供された。一度無料に慣れた人たちからお金を取ることは非常に難しいのだ。

ニコ動の赤字は、"嫌儲"とコンテンツホルダー対策!?

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ニワンゴ取締役のひろゆき。

 さらに、著作権料や訴訟費用などコンテンツにまつわる負担も、ビジネスを逼迫する原因になっている。ニコ動でも、「うたってみた」や「おどってみた」と呼ばれるジャンルの動画での楽曲使用を可能にするために、08年4月にJASRACと楽曲使用に関する包括的な契約を結んでいる。

「例えばドワンゴの09年9月期の第2四半期決算説明会の資料を見てみると、JASRACなどに支払っている著作権等使用料が増えているとあります。前年同期は15・9%だった著作権等使用料が、この第2四半期では18・9%と、相当なペースで増えています。もちろん、同社は着メロサイトも運営しているので、どこまでがニコ動分かははっきりわからないんですが、売上原価の項目を見るとニコ動の属するポータル事業の原価の伸びが大きいので、やっぱりニコ動関連で増えていると見るべきでしょう」(前出・吉川氏)

 動画の共有型であれ配信型であれ、やはりコンテンツあってこその集客。いわば動画ビジネスは、設備とコンテンツの両輪が揃うことによって初めて走りだせる商売ともいえるが、そのコンテンツの著作権をめぐって「日本ならではの扱いにくさがある」と指摘するのはジャーナリストの津田大介氏。

「フェアユースのある米国と違い、日本はいくら経済的に利益を得ていなくても、他人の著作物を侵害した時点でアウト。だからニコニコ動画もJASRACやコンテンツホルダーと契約して、著作権料を払っているわけです。ただし、著作権侵害動画をすべて排除すると今度はお客さんが来ないから、文句が来たら削除するという、ある種のイタチごっこ状態をニコ動はうまくコントロールして作っている。『ワッチミーTV!』とか、ソニーの『eyeVio』なんかは、動画を事前検閲したことで失敗しましたから。もうひとつ重要なのは、黒字化のタイミング。今ここでニコ動が大儲けしてしまうと『まだ十分に著作権保護の対策をしていない状況で黒字を出すとは何事だ』と権利者の心証が悪くなる。ドワンゴ取締役の夏野剛さんは『黒字化する』としきりに言ってますけど、あれは一種のパフォーマンスで、ギリギリ潰れないくらいの赤字でコントロールしてるんだと思います」

 そのギリギリ潰れない経営の施策のひとつが、毎月固定の収益が見込める有料会員──ニコ動でいうプレミアム会員の存在だと同氏は言う。このドワンゴが「あえて赤字にしているのでは」という見方は、吉川氏も指摘する。

「同社で、著作権等使用料とともに増えているのが人件費です。これはおそらく、システム開発の手を緩めていないためじゃないかと読めますね。多分、機能の追加や新技術の取り込みといった開発を積極的にやっていて、そのためのコストは先行投資だと考えているのでしょう。その気になれば開発をやめることでコストを抑えて黒字化もできるかもしれないのを、やっぱりまだ赤字だと言ったほうが、ファンが応援してくれると考えているのかもしれません。ネット住民には、ネットでお金儲けするのを嫌う、"嫌儲"の層が一定数いますから、そのあたりに細かく気を配っていそうです」

 前述の「コンテンツは無料」感覚と、この"嫌儲"の存在は、日本のネットビジネスを取り巻く最大の問題だ。ニコ動プレミアム会員の月額525円という金額設定は、そこを乗り越える絶妙な金額なのだろう。

コンテンツ制作はどんどんネットベースへ

 ここ数年、動画配信サイトをめぐる議論では、放送業者側から「なぜ通信業者はコンテンツを提供しろと要求するのか? コンテンツが欲しいなら、自分たちで金をかけて作ればいいのではないか」という不満が噴出していた。それがGyaOが前で番組を作ったり、ドコモが「BeeTV」【別枠参照】を始める契機にもなっているという。

「現実的にテレビや雑誌が傾いてきている中で、番組制作会社や芸能事務所は『ネットでも仕事していくしかないな』と考えていると思いますよ。もちろんテレビや新聞のような従来のメディアが完全になくなるわけではないですけど、規模は縮小するでしょうから、結果、人材の流動化が起きているし、これからもっともっと起きるでしょうね」と津田氏。実のところ、結果としてサービス停止を迎えてしまったが、ミランカで配信されていたいくつかの番組は高評価を得てDVD化されているし、Yahoo!動画やGyaOが配信する番組も、インターネットのライトユーザー層への訴求力を持っている。

「共有サイトでは、これからは『いかに動画を投稿する職人をうまく囲うか』が課題になってくると思います。いい投稿者をちゃんと応援していれば作品が生まれて、それを観に視聴者は必ず来る。そのご褒美はお金でなくてもいいんです。例えば、投稿者だけには自分の作品がいつどんな人に視られているかといった、より詳しいログを還元するというのでもアリ。投稿者にとってはコメントが付いて、みんなに観られているというのが大きなモチベーションになっていますから、それをもっと支援するような機能があったほうが良いと思います」(吉川氏)

 動画に限らず、今後ますますネットをベースにしたコンテンツ制作は盛んになっていくだろう。では、この動画サイト戦争、覇者になるのは、ズバリどこなのだろうか?

「ネットサービスでは大体、あるサービスが最初に立ち上がって人気が出だすと、それを真似したサイトがいっぱい出てくるんだけど、結局淘汰されて、最後に勝つのは売り上げ1位と2位だけということが多い。それでいうと、やっぱり世界1位のYouTubeと、日本で1位のニコ動。あとは、日本で2位のどこかくらいが生き残るように収束していくのでは」(同)

 この考え方でいくと、赤字同士が一緒になってどうするのか?と一部で揶揄されていたYahoo!動画=GyaO連合も、配信システムを統合するなどインフラ関連のコストを抑えた上で、動画配信サイトの業界最大手としてのシェアを利用した集客とコンテンツ集めで、今後も生き残っていく可能性があると言えるのかもしれない。

 それにしても今すぐ黒字化できそうなニコ動はともかく、巨額の赤字を垂れ流しているYouTubeの目的はなんなのだろうか?

「世界中からYouTubeへ集まってきた動画に、出演者の情報や使われている曲、あらゆる情報を全部埋め込んで、『じゃあこれ全部僕らが管理しましょうか』とYouTubeが言えば、ほら、世界最強のJASRACの出来上がりじゃないですか。グーグルはアドセンスやアドワーズで大きくなって、いつのまにか広告代理店になっていた企業ですから、YouTubeもネット動画の広告代理店であり、JASRACでありという唯一無二のプラットホームを目指していても、なんらおかしくはない」(津田氏)

 確かに、グーグルやドワンゴといったひと癖もふた癖もある企業が、赤字を出しつつ広告費や有料会員制で小銭をちまちま稼いでいる状況が、そもそもおかしいと捉えるべきだったのかも。

 世界規模で動画が集まるYouTubeに、ひとつの動画を肴に話題を共有するのが楽しいニコニコ動画。この二社の争いが事実上、動画サイトビジネスの雌雄を決すると思うと、今後の動向から目が離せない。


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