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第1特集
基地問題からヤクザまで......沖縄アンダーグラウンド【1】

防衛利権とカジノで激震! 誰も知らない"ヤバい沖縄"読本

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 防衛利権をめぐって頻発するスキャンダル、沖縄基地問題を追い続けた筑紫哲也の死……。今年は、沖縄の諸問題を象徴する出来事がたびたび起こった。事実、沖縄関連本も多数出版され話題となったが、そこにはどんな"沖縄の闇"が描かれているのか?

 沖縄で、新たな利権の争奪戦が始まりそうな気配だ。

 米軍普天間飛行場の移設問題が、またもやこじれ始めたのだ。11月、政府は2009年度予算案で、県北部・辺野古の代替施設着工にかかわる経費を計上しないことを決めた。これで、日米両政府が在日米軍再編のロードマップで目指していた2014年の施設完成は難しくなったといえる。

 米軍兵士による少女暴行事件がきっかけとなり、普天間飛行場の返還が決まったのは96年4月のこと。しかし米軍が県内移設に執着したため、「沖縄の基地負担軽減にならない」との反発が起き、計画は停滞。その打開を目指す政治勢力の動きが、米軍再編に伴う巨額利権への思惑と重なって、さまざまな波乱を巻き起こしてきた。

 守屋武昌元防衛事務次官が防衛専門商社からの収賄罪などで逮捕されて以来、米軍再編をめぐる「沖縄利権」についても、同氏を中心に置いた記事を展開する媒体が目立つ。だが、筆者が現地で取材した経験から言うと、そうした見方は問題の構図をやや簡略化しすぎているような気がしてならない。

 まず、米軍再編をめぐる利権問題には、自民党旧橋本派(現津島派)と旧森派(現町村派)の攻防という「前史」がある。『沖縄ダークサイド』【1】に手堅くまとめられている通り、辺野古沖への移設をゴリ押しした当時(96年)の橋本政権は、地元懐柔のために1兆円ものカネを投入。その巨額の予算を背景に、橋本派「沖縄族」が跳梁跋扈したのだ。

 しかし、「橋本派は呪われていた」と同書は言う。97年の金融危機と参院選惨敗で橋本内閣は退陣に追い込まれた。後継の小渕恵三は病に倒れた。タナボタ森政権に続いて小泉内閣が誕生すると、沖縄は森派の縄張りへと移行していく。

『米軍再編』【2】では、その生々しい場面が描写されている。

〈ワシントンでの日米安全保障協議委員会(2プラス2)の三日前、首相官邸で、外務省北米局長の河相周夫と防衛庁防衛局長の飯原一樹から2プラス2の発表文案の説明を受けた小泉は「普天間の移設は進んでいないじゃないか。辺野古なんて駄目なんだろ」と言い、(中略)その小泉に向かって、飯原は「これは橋本内閣で決めた方針ですから……」と切り返してしまう。小泉は「そんなものは俺には関係ない。進んでいないのだから、他の場所を探せばいいじゃないか」と吐き捨てた〉

防衛利権の黒幕が暴露普天間問題の秘密会合

 そしてここから、守屋の"活躍"が始まる。橋本時代の方針に固執する外務省と防衛施設庁から、普天間問題の主導権を奪取。小泉純一郎首相(当時)の意向を汲み、既存の米軍施設内に滑走路を作る「陸上案」を米国側に提示したのだ。米軍施設内への移転なら地元の反発も抑えられ、工期も短くて済む。

 対する米国側は、辺野古沖リーフ内を埋め立てて、従来案の2700メートルから1500メートルに縮小した滑走路を作る、いわゆる「浅瀬案」を推していた。同案はもともと、建設費およそ1兆円ともいわれた従来案の経済効果を死守しようと、沖縄北部の地元経済界が提案したものだ。

 ただし実際に案をまとめたのは、米国の建設・エンジニアリング最大手ベクテルだといわれる。 ベクテルはイラク戦後復興事業で、24億ドルを超える米国際開発局(USAID)発注事業の主契約社となった。イラク復興事業では、チェイニー副大統領が政権入り直前まで最高経営責任者を務めたエネルギー大手ハリバートンが、陸軍工兵隊から巨額の発注を独占して批判の的になっている。

 ベクテルもこれと同様、レーガン政権時代に当時の社長シュルツが国務長官、副社長のワインバーガーが国防長官に就任。ホワイトハウスと「戦利品」を分け合ってきたベクテルが、米軍再編の裏で暗躍するのは、むしろ当たり前のこととも思える。創業者一族が支配する未上場企業という社風もあって、日本ではいまひとつ馴染みの薄い同社も、米国の影響が強い沖縄では認知度が高い。地元紙記者によれば、「県内最大の建設会社・國場組とベクテルは密接な関係にあって、國場組幹部は頻繁に訪米している」という。

 すなわち「浅瀬案」は、埋め立て利権が欲しい地元建設業界、その利権と絡みついた防衛施設庁、米軍再編協議の主導権を防衛庁から奪いたい外務省、新基地建設の既得権を侵されたくない米国――この四者の合作であるとの説が有力なのだ。

 端的に言って、最近よく見かける「沖縄利権」論には米国側の利権というファクターの抜け落ちたものが多い。その点、『防衛疑獄』【3】は日本と同様に米国の側にも利権構造があることを明らかにした。また、普天間問題の着地点となった「沿岸V字滑走路」となるまでの過程で、元防衛長官らによる秘密会合があったという衝撃の事実が述べられている。

〈二○○三年、私はワシントンの事務所で、安全保障議員協議会に属する数名の防衛庁長官経験者と米国防省高官の非公式会談をセッティングした。(中略)この会談での非公式提案のことは外務省も知らなかったし、守屋も知らなかった。(中略)真相は、私たちが「橋本・クリントン会談にこだわらない」という提案を出したことをアメリカは利用し、額賀防衛庁長官にV字滑走路案を持ち込んで、日本側の提案としてまとめさせているのだ〉

 そもそも、戦後沖縄の利権構造は、駐留米軍が持ち込んだものと言っても過言ではないのだが、その原初の姿を描いたルポルタージュ『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』については、著者・佐野眞一氏へのインタビュー記事(基地問題からヤクザまで……沖縄アンダーグラウンド【2】)を参照してもらいたい。

補助金漬けの沖縄に自立できる未来は……

 06年1月18日、野口英昭エイチ・エス証券副社長が那覇市内のカプセルホテルで怪死を遂げた後、週刊誌の誌面には、たとえば次のような論調があふれた。

〈沖縄では小泉内閣が推進する構造改革特別区の「情報通信特区」や「金融特区」の地域が指定されてIT企業の進出が相次いでいる。ライブドアは小泉改革を利用して沖縄での"闇ビジネス"を拡大したとみられており、(中略)事件の背景には、小泉政権下でふくれあがった巨額のIT政治利権の存在がクローズアップされてくる〉(「週刊ポスト」06年2月10日号/小学館)

 確かに、日本政府は米軍基地負担に対するインセンティブとして、各種「特区」を含むさまざまな振興策を沖縄に対して行ってきている。だが、それが「巨額のIT政治利権」を生んでいるなどというのは妄想にすぎない。

『検証「沖縄問題」』【4】では、振興策の本質を物語るメモが紹介されている。沖縄政策を司る内閣内政審議室から流出したものだという。

〈「①沖縄新法は沖縄に対する政府のプレゼン【注:プレゼンス】みたいなもの、②沖縄にしてみれば政府がどれだけやってくれるかが関心事、③沖縄では地方分権の発想は評価されない、④新法が沖縄で利用されるかどうか、需要があるかどうかは、気にする必要はない、⑤法律を作るということは閣議でも決められた約束事。既存の制度に化粧をしただけの、名前だけの制度でもよい、(中略)安保関係者以外は、沖縄は全然重要ではないというのが本当のところ」〉

 こんなやりとりの中で打ち出された「特区」など、しょせんは絵に描いた餅にすぎない。「沖縄利権」といえばやはり、政府から多額の補助のつく公共事業や、いわゆる「軍用地主」に支払われる借地料が本命なのだ。

 そして、公共事業依存型、財政依存型の経済構造に埋没した沖縄は、返還から36年が経過しながらも自立できずにいる。早い話が、「補助金漬け」なのだ。基地返還を叫びながら、返還後の土地利用計画を策定している自治体はひと握り。基地が返還されて軍用地料が入ってこなくなったら困る、という地主の思惑も、計画策定の足かせになっている。基地問題や経済問題で、いま沖縄に突きつけられているのは県民の「本気度」だと、『癒しの島、沖縄の真実』【5】は喝破する。

「沖縄=南の楽園」は人工的なイメージ演出

 はたして、沖縄は自立できるのか――その問いに対するひとつの答えとして持ち出されたのが「カジノ構想」だ。

 いま、沖縄経済のリーディング産業は観光である。入域客数(昨年589万人)は毎年のように過去最高を更新している。それでも、沖縄の経済界には、「真の観光立県となるには切り札が欠けている」との認識が広がっている。「ナイトライフが貧弱で、客単価が伸びない」「青い空と海だけで売っていては、いずれバリ島やタイ、マレーシアに完敗する」といった懸念からだ。

 そこで、カジノ導入によって、コンベンション・ホールや各種レジャー施設を組み合わせた複合的な「ゲーミング・ワールド」を建設し、沖縄観光の弱点を克服する――これこそが、沖縄経済界のカジノ推進派が目指すところなのだ。しかし、実のところ、これには異論も多い。たとえば美しい自然と、人工の賭博施設とのアンバランスをどう調整するのか、といった指摘だ。

 しかしそもそも、多くの人々が沖縄に抱く「南の楽園像」自体が作られたものなのだ。それを丁寧に解き明かしたのが『沖縄イメージを旅する』【6】である。その起点となったのは日本復帰記念イベントの沖縄国際海洋博覧会。西海岸沿いを走る国道58号線の路側帯に咲くハイビスカスやヤシの木も、沖縄の亜熱帯イメージ演出のために人工的に植えられたものだ。

 破壊の限りが尽くされた沖縄戦の後、沖縄には「米軍基地の島」「癒しの島」という2つの顔が作りつけられてきた。沖縄を知るためには、まずその表層をはぐことから始めなければならないのだ。

(取材・文/李 策)

未来の最大利権となるか!?地元財界人と沖縄族政治家が切望する「沖縄カジノ構想」

 全国的規模でカジノ待望論に火をつけたのは、1999年春に当選した石原慎太郎都知事の「お台場カジノ構想」である。しかし経済特区内での認可を目指していた石原構想は、法務省と警察庁の否定的見解によって見送られ、解禁はカジノ法案の立法化を待たねばならなくなった。

 沖縄でのカジノ導入の取り組みは、これとは似て非なるものだ。東京都などが、まだ特区内解禁の可能性に期待を持っていた01年8月21日、沖縄県の経済団体の代表は麻生太郎自民党政調会長(当時)らを訪ね、翌年春に制定される沖縄振興特別措置法の中に、カジノ導入を盛り込むよう求めた。

 同法の目的は、72年の復帰以来、本土との経済格差にあえぎ続けてきた沖縄に「自立型経済」を構築しようというもの。そこで沖縄側は、「自立の武器」として1国2制度的な特例新法の制定を政府に要求。県経済界はその中に、カジノ導入のお墨付きをねじ込もうともくろんだわけだ。

 沖縄カジノ構想の旗振り役である國場幸一郎・元國場組会長は当時、「カジノは基地負担に対するインセンティブとして、沖縄の競争優位につながるのが望ましい。カジノは1国に1~2カ所が通例。豪腕の石原都知事に先を越されるのは避けたい」と語っている。

 結局このもくろみはかなわなかったのだが、沖縄のカジノ構想が基地問題と表裏の関係にあることに変わりはない。たとえば06年1月には、浦添市長が「米軍キャンプ跡地にカジノを誘致する」と表明して注目された。沖縄におけるカジノ構想はそれまで民間主導で進められてきており、米軍再編と直結した形で自治体首長が提唱するのはこれが初めて。背景には、軍用地主への補償や基地職員の雇用対策という、抜き差しならない問題もある。

 沖縄からの再三再四にわたる要請に対し、政府の反応は「県民の合意を得ることが第一で、推移を見守りたい。合意が得られれば協力したい」(林幹雄前沖縄担当相)というもの。はた目には煮え切らない回答としか映らないが、地元財界人によれば、「沖縄政策にかかわる有力政治家から、内々にOKの言質を取っている」のだという。

 ただ、今年6月の県議選で与党が過半数割れ。野党はカジノ導入への反対意見が強く、先行きはまだまだ不透明だ。

【1】『沖縄ダークサイド』
編・野村旗守/宝島社文庫(06年)/690円

「癒しの島」という表層の下に隠された、裏事情の数々をレポート。沖縄の悲劇がいかに利権のネタにされてきたか、その「逆説構造」の分析に果敢に挑んでいる。

【2】『米軍再編』
久江雅彦/講談社現代新書(05年)/735円

漂流する日米同盟の内幕モノ。沖縄問題だけでなく、防衛スキャンダルの下地になったともいえる、防衛施設庁の中央への造反、防衛庁VS外務省の綱引きの様相がわかる。

【3】『防衛疑獄』
秋山直紀/講談社(08年)/1575円

防衛スキャンダルの「本命」とも見られていた秋山直紀による、衝撃の手記。普天間問題についても、元防衛長官らによる「秘密会合」の事実が明かされている。

【4】『検証「沖縄問題」』
百瀬恵夫・前泊博盛/東洋経済新報社(02年)/1575円

日米安保の「維持装置」としての沖縄振興策が、いかにして沖縄経済を「パラサイト化」させてきたかを検証している。大田県政と稲嶺県政の徹底比較も行っている。

【5】『癒しの島 沖縄の真実』
野里 洋/ソフトバンク新書(07年)/735円

著者は沖縄の日本返還前に琉球新報記者となり、半生をこの地の人々とともに過ごしてきた。そのまなざしは沖縄への愛にあふれているが、だからこそ率直な指摘が公正さを帯びる。

【6】『沖縄イメージを旅する』
多田 治/中公新書ラクレ(08年)/924円

青い海、白い砂浜、ビキニの美女に代表される南の楽園像は、いかにして作られてきたのか。旅行者が当たり前のように目にする風景を入り口に、「癒しの島」のルーツをたどる。


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