『ゲ謎』『近畿地方』大ヒットの源流 “因習村”が再燃させる 「金田一耕助」の現代性

(絵/村林タカノブ)

閉鎖的な村で起こる陰惨な事件、古くから続く血縁のしがらみと呪い──。近年、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』や『変な家』といった作品が“因習村”というキーワードと共にエンタメ界を席巻している。その源流として今、再び注目を集めているのが、横溝正史が生み出した名探偵・金田一耕助のシリーズだ。我々が“因習村”の物語に惹き付けられる理由を探っていく。

近年、特定の共同体が持つ独自のルールや信仰が引き起こす恐怖を描く作品が立て続けにヒットしている。今年8月に公開された映画『近畿地方のある場所について』は、ネットの断片的な情報をつなぎ合わせてひとつの地域に隠された謎を探るモキュメンタリーとして、公開から約1カ月で観客動員数100万人を突破。また、2023年にはアニメ映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(以下、『ゲ謎』)が興行収入30億円に迫るスマッシュヒットを記録。SNSでは作中に登場する閉鎖的な村の因習や旧家の禍々しい人間関係が話題を呼び、多くの観客を惹き付けた。同様に、YouTube動画から小説、映画へと展開し、映画の興収が50億円を突破した『変な家』(24年)や、洋画ではアリ・アスター監督の映画『ミッドサマー』(19年)もSNSを中心に話題をさらっていた。

こうした作品群は、主に20年代頃から“因習村”というミームで語られるようになった。このブームと呼応するように、その源流ともいえる横溝正史の「金田一耕助」シリーズにも再び光が当たっている。NHK BSでは池松壮亮主演のドラマ『シリーズ横溝正史短編集』が第4弾まで制作・放送され、今年4月にはミステリーパズルノベルゲーム『金田一耕助シリーズ 本陣殺人事件』が発売されるなど、新たなファンを獲得しつつあるのだ。

約50年前に日本中を席巻した金田一耕助と現代の〝因習村〟ブームはどのようにつながっているのか、その関係性をひもといていこう。

“因習村”というミームの誕生

そもそも、近年の“因習村”ブームとはいかなるものか。『ジャパン・ホラーの現在地』(集英社)などの著書を持つオカルト研究家の吉田悠軌氏は、その現状を冷静に分析する。

「ここ数年で“因習村”コンテンツが昔より明らかに量が多くなったかというと、実はそうではありません。そもそも“因習村”的な民俗ホラーに属する作品は、数十年にわたりコンスタントにさまざまな媒体で作られてきました。その上で、今で言う“因習村”が指し示すコンテンツ群の源流としては、やはり1970年代の金田一耕助シリーズのブーム、そのきっかけとなった市川崑監督による角川映画『犬神家の一族』(76年)や野村芳太郎監督の松竹映画『八つ墓村』(77年)などが挙げられます」

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