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第1特集
可視化されずスキルが求められる職種

ビートメイカー・TOMOKO IDAが見る音楽業界 “制作現場”のジェンダーバランス

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――女性プロデューサー/ビートメイカーとして活躍の場を広げるTOMOKO IDA。彼女が手がけたSixTONES「ABARERO」は、Billboard JAPANが発表する「Top Singles Sales」での初週売り上げ40万枚超えで首位を獲得、同じく女性プロデューサーであり、LiSA「炎」を手がけたことで知られる梶浦由記が持つ売り上げ記録を塗り替えた。こと音楽業界においてプロデュースや作曲/編曲を担う女性クリエイターは数少ない。しかし、作詞家には女性が多い。こうした制作現場におけるジェンダーバランスについて、TOMOKO IDAに内情を問うた。

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国内を代表するアーティストからアイドル、K-POPまで幅広く手がける。最近ではラテン圏のトッププロデューサー、タイニーとの共作「obstáculo」が配信されたばかり。(写真/河本悠貴)

――もともとは〈@djtomoko n Ucca-Laugh〉というガールズ・ユニットのメンバーとしてデビューし、いわゆるヒップホップのアンダーグラウンド・シーンで活動されてきました。それから名義を〈TOMOKO IDA〉に変え、ビートメイカー(トラックメイカー)として舞台をオーバーグラウンドに移したきっかけはなんだったのでしょうか?

TOMOKO IDA(以下、IDA)ダイレクトに言うと「“音楽”で稼ぎたい」。それまではユニットのための楽曲制作やクラブでのライブを中心に活動していたんですが、稼げるレベルの上限を知ってしまったんですよね。もともとビートメイカーとしてさまざまなアーティストにトラックを提供したい意志が強かったので、ユニットを休止してからはSMP(ソニー・ミュージックパブリッシング)と作家契約を結んだんですが、それからメジャー仕事を依頼されるようになりました。一番最初の仕事はEXILE THE SECONDのツアートラック【編註:既存の楽曲ではなくパフォーマーがダンスパフォーマンスするためだけに制作する独自のダンストラック】で、依頼されたきっかけは所属レーベルのディレクターがアングラ時代からの友人ということもあったんですが、かなり音楽的スキルが求められる仕事でした。そこで妥協せずに完成させたからこそ、今も仕事が継続できていると思っています。

――楽曲制作においてクリエイティブに携わる立場から、その職務に従事する女性の割合は少ないと思いますか?

IDA トップライナー(ソングライター)は国内外問わずたくさんいるんですが、プロデューサーやビートメイカー、レーベル・ディレクターやA&Rに就いている女性はほとんど出会ったことがないですね。

――今も昔も作詞家に女性は多く存在しますが、なぜ作詞家以外の職種には女性が少ないのでしょうか?

IDA 一般的に女性は「説明書を読んで配線を接続し機器を使う」というのが苦手な部類だと思うので、純粋に男性脳と女性脳の違いなんですかね。幸いにも私は昔からそういった作業が好きだったので、まったく苦じゃない。ただ、ビートメイカーは機材の扱いに長けていないと即戦力にはなれませんけど、メロディだけを作るトップライナーであれば、機材を熟知していなくても重宝されます。かつ、そこで歌唱力もあればなおさら。なので、中には良いメロディメイカーであり鼻歌スキルも高いけど、コードやキースケールなどの音楽理論を理解していない人も多いんです。でも、そうした理論を理解できていないと、梶浦由記さんが手がけるようなJ-POPや壮大なバラードを作ることはできません。作詞家に女性が多いのは、恋愛経験で思うことがたくさんあるからでしょうね。もちろん、男性の作詞家もたくさんいますが、女々しい歌詞のほうが刺さりやすい。強さだけが全面に出ていたところで、あまり共感には向かないような気がしますし。

――昨今、その“女々しい”という言葉の使用も危ぶまれる時代ですが、制作の現場において男女の性差を感じる場面などはあるのでしょうか?

IDA 「男勝りですねえ」とか言われることがありますけど、全然気にならないです。その現場を“男社会である”と意識している女性が気にしているというか、当事者よりも外側の人のほうが気を遣っている印象があります。私は「女性ビートメイカー」と“女性”を付けられることも特に気にしていません。正直、その風潮が息苦しく感じちゃう面もあります。本当の実力で然るべき位置にいる人は、必然的にその位置に辿り着いてると思うんですね。なので、「男性ばかりだから女性も活躍させろ!」というのは、ちょっと違うんじゃないかなと。作家契約を結んだのは2016年からなんですが、「IDAさんが女性ということで仕事をお願いします」と依頼されたのは1件か2件で、「お互い女性同士で強い女性像の曲を作りましょう!」という発注だったような気がします。それ以外は性別ありきで依頼されていないと思う。

活字で読むと乱暴に聞こえてしまうかもしれませんが、男女問わず己に自信があれば、不平不満を口に出さないというか、「女性進出=手厚いおもてなしを」と自ら言いに行っているような気すらしてしまうんです。

――例えば、特に音楽的知識がなく、容姿端麗で男性受けを自ら狙っている女性がいたとします。明らかに仕事はできていなく、異性の支持は高いが、同性からの支持は壊滅的である──という事例があった場合、クリエイティブに携わる女性としては、本質を下げられている、同じ部類と思われたくないという不満は生まれたりするのでしょうか?

IDA 仮に私が「次のシングルも、私を使ってくださいね~♡」と、レーベルの男性のヒジにおっぱいを当てながら言ってる、みたいなシチュエーションですよね。クリエイティブの仕事、特に私の仕事においては、「良いビートを作らなければ、何も始まらない」んです。性を武器にできるのは、“見られる”職業であった場合、そういった事例もあるかと思いますけど、私たちのように「普段は目に見えないところにいる勢」は、ガチでスキルだけが評価の値になるんです。私が取材を受けるときに顔面を出しすぎないようにしているのは、サウンドありきで認識してもらいたいからなんです。音だけでジャッジしてもらいたい。男性のプロデューサー/ビートメイカーのBACHLOGICさんは、いまだに顔を見たことがない人も多いと思うんですが、リスナーは「どんな顔してるんだ!?」とか思わないですよね。音に信頼を置かれている人は、求められる部分がそこじゃないですから。ひとつ要望があるとしたら、男女問わずブラインドテストを実施してほしいんです。ビートメイカーの名前を伏せて、聴覚だけでジャッジしてもらう。すでに名の立つプロデューサーやビートメイカーの名前が出た上でサウンドを聴くと、どうしても先入観が邪魔しますからね。

――それは性を武器にしていない証明でもありますよね。すると、女性であることが不利に働いた経験は特にない、ということでしょうか?

IDA むしろ有利に働くことが多かったかもしれません。コライトキャンプで海外によく行くんですが、欧米では実年齢より10歳前後若く見られることが多いんですね。そうなると、「なんでこんな若い女が?」「たいしたキャリアなさそうだな」のような目を向けられるんですよ。いざセッションをしたとき、「ティンバランドっぽいビートを……あ、ティンバランドってわかる?」みたいな感じで言われたことがあるんですが、私ももう長いことやっているので、サラッとティンバのようなビートのサンプルを作るじゃないですか。すると、「え、キミ、いくつ?」みたいなリアクションをしてくるのが大概なので、そこでキャリアを明かすと、ギャップも相まってかなり食いつきがよくなるんです。

――海外は「若さよりもキャリア重視」ということがわかる好例ですが、ここ日本においては何を重視される傾向にあるのでしょうか?

IDA 日本は年齢を意識しますよね。表舞台に立つアーティストやアスリート、芸能人に関してはわかる気もするんですが、ビートメイカーの年齢を聞いて、音をジャッジされるようなら、年齢は公表しないほうが賢明かなと思っています。私の場合、年齢不詳に見えるのか、ネットで「TOMOKO IDA」で検索すると、サジェストで「年齢」が出てくるんですけど、それも日本らしいですよね。年齢に関しても、顔面と一緒でサウンドから想像してもらえればと。

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