サイゾーpremium  > 特集  > 社会問題  > コロナ禍の犯罪と社会問題【1】/【河合幹雄×土井隆義】特別対談

――外出自粛のおかげで路上犯罪が減っているという。だからといって、DVや詐欺などは減らないため、コロナ禍で特に治安がよくなった気もしないし、至るところに自粛警察もいる。なぜ、犯罪は減っているのに不安はなくならないのだろうか? 犯罪研究の大家2人にその背景を語り合ってもらった。

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『現代 刑務所の作法』(ジー・ビー)

 緊急事態宣言が出された2020年の4月以降、刑法犯の件数は61万4000件と、戦後最小となった。

 その一方で、ステイホームや外出自粛の影響か、虐待事件の検挙が過去最多となったり、「ワクチン優先接種」を語る詐欺、「置き配」荷物を狙った窃盗、「持続化給付金」の不正受給など、コロナ禍になってから新たな犯罪も増えている。 また「同調圧力」が高まった結果、「自粛警察」と呼ばれるような他人の行動にまで過剰に干渉する者も現れ、地方では県外ナンバーの車に傷を付けたり、感染者の勤め先に苦情の電話を入れたりするなど、日本社会特有とも言えるような空気感も蔓延している。

 さらに、海外に目を向けてみると、欧米におけるアジア系に対する「ヘイトクライム」が急増していたり、イタリアではマフィアがEUの復興基金を狙っているなど、通常時とは異なる犯罪の動きが見られている。

 コロナ禍というパンデミック時における犯罪というのは、一体どのような性質を帯びているのだろうか? 国内の犯罪学の権威である、桐蔭横浜大学教授・副学長の河合幹雄氏と、筑波大学教授の土井隆義氏に語り合ってもらった。

「安心」と「安全」の問題――治安というのは体感的なもの

――今回はコロナ禍における犯罪についてうかがいたいのですが、その前にここ数年の犯罪事情について。

 近年は電話やハガキで親族や公共機関の職員などを名乗って、対面することなく、相手を信頼させてから、指定した預貯金口座へ振り込ませる「特殊詐欺」のような複雑な形態のものもあれば、逆に相手先に警察官や官公庁の職員といった人物になりすまして電話をかけ、家に現金がいくらあるかなどの情報を聞き出したあとに、強盗に押し入るという「アポ電強盗」のような短絡的かつ凶悪なものもあって、素人目には、犯罪がより多様化しているように感じます。

河合幹雄(以下、河合) 犯罪統計を先に述べておくと、警察は「路上犯罪は完全になくした」と宣言しています。これはすごく大事な話で、私なりの言葉に置き換えると「対面の屋外犯罪」はなくなったということ。逆に「対面の屋内犯罪」は今もあるし、さらに言えば、「遠隔犯罪」という新しいカテゴリを作りたくなるような傾向が見られます。

 警察が撲滅できなかった犯罪は大きく分けて2つあり、ひとつはサイバー犯罪で、もうひとつは児童虐待。どちらも警察が簡単には介入できない領域であり、コロナ禍やそれに伴う自粛警察によって、ますます屋内に閉じ込められていっている。ですので、今回の対談の大枠は「コロナ禍のせいでなくとも変化しているものが、コロナ禍でさらに変化している」ということになると思います。

 ちなみにですが、今の質問でひとつ気になったのが、アポ電強盗について。「短絡的かつ凶悪な犯罪」と述べられていましたが、これは報道のマジックで、短絡的かつ凶悪な犯罪は昔のほうが多かったんです。アポ電強盗でさえ、そこらへんで強盗をせず、「路上は監視カメラで監視されているから」と、屋内で行われているのです。

土井隆義(以下、土井) 私も基本的に河合さんと同じ認識です。犯罪学者の間ではよく「富士山カーブ」という言い方をするのですが、2000年代初頭まで刑法犯はずっと増えていたものの、03~04年頃のピークを境に、それ以降はずっと減っているんです。現在もその流れの中にあるので、河合さんがおっしゃったようにコロナ禍によって加速した面はあったにせよ、コロナ禍が原因というよりも、社会の構造的な変化が2000年代初頭に始まっていて、その流れが続いていると考えるべきでしょう。

河合 これはよく話していることなのですが、犯罪の数が減っているのは、警察の方針が変わったことに大きな要因があるんですよね。警察の予算を財務省が決める際に、「犯罪数を減らす」という政策目標が掲げられるようになって、犯罪数が減らなかったら予算が削られるようになったんです。昔は「犯罪数が増えて大変だ!」となったら多く予算がつけられたのですが、今は逆なんですね。現場からは「これ以上減らすのは難しい」という声も上がっているようですが、ただ、そんな政策的な事情を考慮しても、犯罪数が異様に下がっているのは事実です。

――そのような事情もあり、昨年認知された刑法犯は戦後最小になったということですが、詐欺や殺人などのニュースがなくなることありません。さらに、日常的にそういった報道を見ているので、特段治安が良くなった印象を抱いている人は少ないと感じます。

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