(写真/Jun Sato・「GettyImages」より)
高畑充希がケンタッキーをV字回復させた――。
5月、コロナ禍の外食産業には珍しく明るいニュースが舞い込んだ。日本KFCホールディングスが発表した2020年3月期決算の営業利益は前年に比べて116.9%増。要因のひとつとしてあげられたのは原価率の改善や、500円ランチ導入といった低価格化。クリスマスのような特別な日以外にもケンタッキーを日常利用してもらうイメージ戦略に成功した格好だ。
そしてそんな新たなケンタッキー像をお茶の間に定着させた立役者が、俳優の高畑充希だ。高畑がCMに起用されたのは2018年6月。CM放映から業績は右肩上がりで「今日、ケンタッキーにしない?」のキャッチコピーと一緒にケンタッキーは生まれ変わったとも見られている。
これはマスコミや広告業界としても嬉しい話題だろう。録画や動画メディアでの視聴が増えたことにより、リアルタイムでテレビが観られることが少なくなってきているとはいえ、まだテレビCMには企業をV字回復させるだけの訴求力があり、それだけ大きな金も動くことを証明したとも言える。当然、タレントにとっても最も美味しい仕事となる。
無論、そこで重要になるのがタレントの“イメージ”だろう。この言葉、実に抽象的だが、実際にそのイメージの良し悪し、あるいは商品に見合うか否かはCMを作るさまざまな過程で議論される。特に食品系CMに出るタレントはその業界で息が長く活躍できるというが、こうしたタレントのキャスティングには一体どのようなやり取りが繰り広げられているのだろうか?
「まず高畑充希の起用例を見ると、ファーストフードのCMは単純にターゲット層への印象が良い人が当てはまります。高畑は、若者向けファッション誌に引っ張りだこで連ドラの主役も張る一方、NHK朝ドラ『とと姉ちゃん』に主演していることから主婦層からの支持も高い。単身者向けの商品でも、ファミリー向けの商品でも訴求できるというのは強いですね。
また小売の場合は、スーパーで食品を売るというステップが入るので、流通問屋のバイヤーからの印象も大切になるのですが、ここでもやはり高畑は人気でしょう。だいたい食品系CMで人気なタレントは、『日経エンタテインメント』(日経BP社)のタレントパワーランキングと変わりません。あとは、当然事務所の強さもありますよね。高畑が所属するホリプロも力がある部類の事務所ですが、やっぱりジャニーズは最強。タレントを選ぶプロセスは今も旧態依然としており、プランナーや広告主の主観と芸能界の政治力なんです」(代理店プランナー)
特に食品系CMでは基本、「全方位的に好感度の高いタレントが起用されやすい」(同)とのことだ。ただし、キャスティングにあたっては、世間的な“イメージ”だけではなく、“CMの演出に当てはまる”かどうかも重要になるという。
「車や家電に比べて食品系は、確実に契約年数が長くなりやすい」(CMディレクター)ものの、年齢を重ねると、購買ターゲットとのイメージとが合わなくなると、人気CMであっても打ち切りになる。
「長らく和田アキ子が務めていた永谷園のCMが終了した理由は、もともとお母さん役がハマっていたのですが、さすがに70歳を越えてしまったことが理由だとか。なのでCMの中で、母親という立ち位置なのかよくわからない存在になってしまったんですよね。メーカーへのプレゼンの時はそういうのが大事です。年齢とは別ですが似た例でいうと高畑充希も人気と好感度だけではダメだったことがあります。クリアアサヒのCMはもともとトータス松本と本田翼が出ていましたが、現在では高畑と嵐の櫻井翔がやっている。ですが、売り上げが全然伸びてないんです。業界ではそのメンバーでのCMはもうすぐ終わるという噂も囁かれていますよ。友達とワイワイ集まる場所にクリアアサヒがあるか、ケンタッキーがあるかの違いで、全体の構成は一緒なんですけどね……。要は、購買ターゲットに合わなかったということなんです」(同)
ケンタッキーの救世主となった好感度抜群の高畑充希であっても、CMの内容がターゲットに刺さるものになっていなければ、結果は伴わないわけだ。
しかしそんな中、いま食品系CMの中で失敗しにくいと重宝されている“パッケージ”があるという。
「嵐の松本潤がキッコーマンの『うちのごはん』に起用された時も、当初は葉山の別荘みたいなところで、友達や家族を呼んで食事を振舞うという演出でした。ですが、だんだん『これは不自然だな』という話に。であれば『家庭用の調味料なんだし、家族のイメージが強い藤本美貴など、そういうタレントを起用したほうがい良いのでは』という意見も出る始末。しかし、結局松潤が『うちのごはん食堂』を開店して、そこのオーナーとして料理を振る舞うCMに落ち着きました。
この『○○食堂』というコピーは、宮崎あおいの『シーチキン食堂』もそうですが、食品CMでは入れやすく、重用されています。家族の定義が多様化している昨今、ひとくくりに“家族”で訴求しても、消費者の実感が得づらくなってきた。であれば、だれもが行く可能性がある“食堂”のほうがわかりやすく美味しさを表現できるんです」(CMディレクター)
一方で、CMを取りたい芸能事務所側もさまざまな策略を練っている。
「トップ女優が出ている大手企業のCMにキャスティングされるのは、やはりハードルが高い。なので、基本的にはドラマで人気を得るなど、高感度を上げつつステップアップすることが必須。1番良いのはNHK朝ドラへの出演。業界では定説ですが、朝ドラに出演するとCMのギャラが上げやすくなる。要は、知名度があがってイメージが良くなるということですね。これがバラエティ番組だけの出演となると、CM企業のランクも出演料もある程度までしかいかない。なのでバラエティ番組などで露出させて、ある程度知名度を上げてから女優に挑戦するという戦略を芸能プロはとりたがります」(芸能事務所マネージャー)
タレントの不倫が報じられると、報道とセットでC M降板による損害が取りざたされるが、これは“CMにはイメージが大事”という証左だろう。ただキャスティングの段階で実際にタレントに求められる好感度というのは決して可視化出来るようなものではない。つまるところ、スポンサー企業、代理店、制作会社などによる主観が入り乱れることで、複雑に形の見えないものになっているのだ。
(文/編集部)
(写真/Jun Sato・「GettyImages」より)