サイゾーpremium  > 連載  > 稲田豊史の「オトメゴコロ乱読修行」  > オトメゴコロ乱読修行【46】/【ちびまる子ちゃん】がその他大勢に与えた救済
連載
オトメゴコロ乱読修行【46】

『ちびまる子ちゃん』が“その他大勢”に与えた救済――さくらももこ、本当の偉業

+お気に入りに追加

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

1902_chibimarukochan17_200.jpg

 2018年8月、マンガ家・さくらももこが53歳で逝去した。彼女の代表作『ちびまる子ちゃん』が小中学生女子向けマンガ誌「りぼん」で始まったのは、1986年のことである。

 ここからは想像タイムだ。1986年当時、とある地方のとある公立小学校に通っていた、小学六年生の女子を思い浮かべてほしい。容姿は中の中か、中の下。地味で目立たない子。クラスでは、「かわいい枠」にも「運動できる枠」にも「おもしろい枠」にも「勉強できる枠」にも入らない。

 少女には、12歳なりにボンヤリした将来設計があった。校区内の公立中学に行き、まあまあの公立高校に進学して、無難な短大か、がんばって地元の四大に入れたら御の字。実家から通える会社で3つ年上の彼と2年付き合って25歳くらいで結婚して、専業主婦になって、子供は3年ほど離して2人作る(自分の母のように)。おそらくこのクラスの女子の8割が、そんな未来を歩むのだろう。ベビーブーマーの団塊ジュニア。同級生はアホほどたくさんいる。女子はクラスに20人、学年に100人以上。そのなかで「目立つ子」は相当な実力者だ。少女は自分がそのポジションには無縁の“その他大勢”であるという自覚のもと、謙虚に、細々と、悪目立ちしないように生きていた。

「私には、なんの特殊な能力もないんだから」

 しかし少女は出会ってしまう。友達の家に遊びに行った時に読ませてもらった「りぼん」に、それは連載されていた。『ちびまる子ちゃん』だ。

 少女は衝撃を受けた。自分より10歳ほど年上の作者が、彼女の小学生時代をキレキレのボキャブラリーで振り返っている。通う小学校の珍奇な習慣を変だと断言し、バカなクラスメートをバカだと言い切り、不快な大人への嫌悪感を隠さない。

「そんなこと、はっきり言っちゃっていいんだ!」

 少女が毎日の学校生活にうっすら抱いていた理不尽や違和感。ちょっと嫌だなあと思っていた友達からの同調圧力。それらはすべて、明確な言葉で糾弾してもいいらしい。

 子供は純真ではない。失敗したクラスメートを心の底から嘲笑するし、洪水や火事といった災害にはつい小躍りしてしまう。年寄りは必ずしも畏敬の対象ではなく、煩わしく、時に口うるさい存在だが、猫をかぶればいかようにも金品をせしめられる。そんなこと、子供なら皆わかっていたが、ここまでつまびらかに描かれているのを、少女は初めて目の当たりにした。うれしかった。

 少女は、『ちびまる子ちゃん』に描かれている圧倒的な「ほんとう」が特に気に入っていた。ブサイクやブスはモテないし、好かれない。心がきれいだからといって、容姿のビハインドは絶対に埋められない。バカは誰からも蔑まれ、秀才は天才に勝てない。ちょっとやそっとの努力でクラス内での地位は上がらない。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2020年2月号

新しいニッポンのタブー

新しいニッポンのタブー
    • 暴力団だけじゃない【反社】の定義
    • 【山口組分裂】報道の最前線
    • 【嵐】休止後の芸能界にタブーはあるか?
    • 本当の【氷川きよし】論
    • 【社会学者】きーちゃんを苦しめる疑惑フォーマット
    • 【湯山玲子】ミサンドリー時代に合った戦略
    • 【音楽学者】芸能の性別越境を回復する存在に
    • 【丸屋九兵衛】ヒップホップときよしの交差点
    • 【ANARCHY】初期衝動を落とし込んだ映画
    • 【SEEDA】ラッパーの禁忌な生き様を描く
    • 世界の過激な【保守派リーダー】
    • 【元芸人】が政治の世界に進出するワケ
    • 【アナ雪】ステマ問題ほんとの戦犯
    • 時代を先取りする【新・麻薬王】の肖像
    • 【医療観察法】の知られざる実態

川瀬もえ、エロくてキュートで清らかに。

川瀬もえ、エロくてキュートで清らかに。
    • 小悪魔【川瀬もえ】が脱ぐ

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

    • 表紙/華村あすか「イオンで十分なんです」
    • 【桜田茉央】ミスマガ受賞者の箱入り娘
    • 【AV界】期待の新人セクシー下着
    • 【鈴木ふみ奈】タレントと企業のカンケイ
    • 【増田と鷲見】のラブゲーム
    • 【AI】がインターネットを根底から揺さぶる
    • 【五所純子】「ドラッグ・フェミニズム」
    • 【萱野稔人】"殴り合い"はなぜ人間的なのか
    • 機構影響を受けぬ【雪まつり】
    • 【丸屋九兵衛】キアヌ・リーブスを語る
    • 【町山智浩】「リチャード・ジュエル」FBIとマスコミの欺瞞
    • 【薬物事件】をめぐる刑罰と報道の問題点
    • 小原真史の「写真時評」
    • 笹 公人「念力事報」/ゴーンの大脱出
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ博物館」
    • 稲田豊史/「アナと雪の女王」にモヤる理由
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 大手ビールメーカー出身者が【ブルーパブ】を開業
    • 更科修一郎/幽霊、闘争で情念を語る少年マンガ。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』