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哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第17回

いくら口で立派なことをいっていても行為がともなっていなければダメである

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(写真/永峰拓也)

『ニコマコス倫理学』

アリストテレス(高田三郎訳)/岩波文庫/上・下、940円+税
哲学だけでなく、自然科学や生物学、政治学、芸術など広範な仕事を残した古代ギリシアの哲学者アリストテレス。そんな知の巨人が人間の究極の目的は最高善を手にすることとし、その方法について論じた倫理学の古典。

『ニコマコス倫理学』より引用
 かくして、ひとは正しい行為を行うことによって正しいひととなり、節制的な行為を行うことによって節制的なひととなるということは妥当である。かかる行為をなさないでいては、誰しも善きひとたるべきいかなる機会も持たないであろう。

 しかし、実際はかかる行為をなさないで言論に逃避し、そして、自分は哲学(フィロソフェイン)しているのであり、それによってよきひととなるのであろうと考えているひとびとが多いのであって、彼らのかかるやりかたはいわば注意して言葉を傾聴しながら少しもその命令を守らない病人に似ている。それゆえ、かかる仕方で手当を受けている病人が身体についてよき状態でありえないだろうと同じように、このような仕方で哲学をするひとたちも、彼らの魂についてよき状態であることはできないであろう。

 みなさんのまわりにもいませんか? 口ではエラそうなことをいうけれど、実際の行動がまったくともなっていない人が。

 たとえば会社で「自分が出世できないのは上層部がバカだからだ」などと批判ばかり口にする人っていますよね。でも、そんなに上層部がバカなら、さっさとその会社を辞めて自分で起業して、自分が経営者になればいいのに、って思いますよね。辞めた会社での経験を活かして同じ業種の会社を設立すれば、辞めた会社は上層部がバカでしょうがないんだから、すぐにその会社のシェアを奪えるはずです。

 もちろん実際はそんな簡単な話ではないでしょう。会社を辞めて独立するといったって、銀行がどれぐらい融資してくれるかわかりませんし、たとえ融資してくれたとしても新規参入の立場でどれだけうまくいくかはわかりません。だからみんな安定を選んで、たとえ上司や経営幹部に不満があっても、がまんして会社にいつづけるわけです。上層部の批判をするのは、そうした自分ではなかなか動かせない現実に対して不満を吐き出すことで、少しでも精神的なバランスを保とうとする、やむにやまれぬ行為なのでしょう。

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