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【premium限定】東京と外国人の食とイスラム

東京に息づく異文化の食――足を運んで考える、日本の移民問題

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『「移民列島」ニッポン 〔多文化共生社会に生きる〕 』(藤原書店)

 先日起こったイスラム国による日本人人質殺害事件は、国内外に長きにわたって衝撃を与え続けている。この事件に対する日本政府の対応によって、日本もイスラム過激派テロの標的になった、とする報道もあった。特に首都・東京は2020年の夏季オリンピックも控え、圧倒的にその危険度は増すばかりだ。多くの外国人が住む東京では、どこにイスラム過激派が潜んでいるか、当然のことながら一見しただけではわからない。以前から、公安はすでにイスラム教徒をマークしているというが、今回の外事三課の不手際を見ると、信頼していいものかは疑わしい。

「日本の都道府県の中で最も外国人が多いのが東京都です。2011年末の外国人登録者数は約40万6000人と、2位の大阪(約20万6000人)を大きく突き放し、全国の19.5%を占めています」

 と、長年移民問題を取材し続けてきた『「移民列島」ニッポン 多文化共生社会に生きる』(藤原書店)の著者である北海道教育大学・藤巻秀樹教授は語る。

 東京都内にいる外国人は、国籍もさまざまだ。最も多いのは中国で約16万4000人、次いで、韓国・朝鮮が約10万5000人、以下フィリピン、アメリカ、インド、ネパール、タイの順となっている。インドやネパールの人たちのなかには、イスラム系の人たちも含まれる。インドやネパールだと、ヒンズー教をイメージする人が多いかもしれないが、例えば、インドでは、イスラム教人口が数%でも母体が大きいため、2009年の時点で1億6000万人ものイスラム教徒がいるとされている。

 こうした外国人たちは、ただ単に散らばって生活しているのではなく、人種ごとや宗教ごとに特定の街に集まって、コミュニティを作り一緒に生活していることが多い。

「代表的な場所をあげれば、池袋(中国)、高田馬場(ミャンマー)、大久保(韓国、台湾、ネパール、パキスタン)、西葛西(インド)、神楽坂(フランス)などです」(同)

 これらの街では、どのようなコミュニティが形成され、何を食べて暮らしているのか? 生活の中心たる食事情を見ることで、東京に暮らす外国人たちの生活を知ることができそうだ。

 まず最初に向かったのは豊島区・池袋。駅の北口を出ると、陽光城というケバケバしいビルがいきなり目に入ってくる。ここは中国食材を売るビルで、ひっきりなしに中国人が出入りしている。日々の生活の食材を買うためだ。このビルは池袋チャイナタウンのランドマークとなっている。池袋を中心とした豊島区に住む中国人の数は約1万2000人(豊島区HP平成26年国籍別外国人住人数より)。そのほとんどは、80年代以降に留学生として日本に来た新華僑と呼ばれる人たちだ。このビルを中心として、周辺の食材店が1万2000人の胃袋を補っている。このビル以外にも、中華料理店、旅行代理店、不動産屋、美容院など、中国人向けに中国人が経営する、ありとあらゆるジャンルの店が約200店舗もあるという。しかし、堂々と表通りに開いている店は少なく、雑居ビルに店を構えるところが圧倒的に多いため、一見さんにはわかりにくい。日本人にはなかなか見えないところで、中国化が進んでいるのだ。

 かつてここで、「東京中華街構想」というものがあったことをご存知だろうか。ここはほかの中華街のような、日本人向けにアレンジされた中華料理店はなく、現地のままの料理が出される。それがかえって評判を呼び、通な日本人の観光客が多く詰めかけたのだ。それを見たある中国人が、この街を一大観光地に仕立てあげようとしたが、日本人を中心とした地元商店街の猛反発により、頓挫してしまった――というのがその顛末である。外国人コミュニティと古くからの地元日本人コミュニティがうまくいっている例は、なかなか少ないようだ。

 次に足を向けたのは新宿区・高田馬場。ここはリトル・ヤンゴンと呼ばれ、約1000人近くのミャンマー人が住んでいる。周辺にはミャンマー料理店をはじめ、食材・雑貨店などミャンマー人が経営する店が約20店舗もある。多くが政治的迫害を受けて、本国を逃れてきた難民たちだ。なぜ高田馬場にそうした人々のコミュニティができたのかといえば、交通の便がよくその割に家賃が安いから。これは他国からの移民が住む街にも多く共通しており、池袋もこの先紹介する大久保も同じことが言える。ここ高田馬場でミャンマー人の胃袋を支えるのが、駅前にあるタックイレブン(TAK11)という黒塗りのビル。駅からも目立つランドマークだ。なかでも有名な料理店が「ノング・インレイ」。インドシナ半島に広く居住しているタイ系諸族・シャン族の料理を出し、ミャンマー人が集まる店として有名だ。代表的なミャンマーの麺料理「モヒンガー」や川魚の蒸し物などメニューも豊富で、食材はミャンマーに直接仕入れに行っているという。本場の味を出せるのはそのためだと店長は語った。

 最後に訪れたのは、最もカオスな新宿区・大久保。韓流ブームもあって韓国系のイメージが強いが、実は、台湾、ネパール、パキスタンなど、多くの外国人が住む街でもある。なかでも特筆すべきは、イスラム横丁の存在だ。ここにはハラール(イスラム法で許可された調理法や加工の作法で処理された食品)専門店やハラール料理を出す店が立ち並んでいるという。新大久保駅を出て、そのまま信号を渡り、少し歩くとイスラム横丁にたどり着く。さっそくハラール食材店を見つけて、中に入る。店主に国籍を訪ねてみると、ネパール人だという。宗教は、と聞くと、イスラムではなくヒンズー。ハラール食材店はビジネスでやっていると語る。なるほど、必ずしもイスラム教徒がやっているわけでもないらしい。隣にあるモモ(ネパール風餃子)の店もハラールを使っているので、イスラム教徒に人気の店だという。全て回った結果、ハラール食材店は3軒発見することができた。

 もちろん大久保はイスラム横丁だけではない。前述の通り、韓流ブームが巻き起こっていた2010年代初頭よりは小さくなったものの、やはり今でも韓国人街が一番大きい。最盛期には、日本人が経営する店の連なる古い商店街が韓国人経営店に次々と入れ替わり、日本人と韓国人との軋轢が絶えなかったという。日本人側にしてみれば、このままでは街が乗っ取られるという危機感もあったのかもしれない。韓国人が増えると、それまでの日本人のルールが通用しなくなる。彼らはコミュニティを作り、韓国人がつくったルールで動く。話し合いもあまりうまく行かなかったようだ。

「移民コミュニティの問題は、閉鎖的だということ。祖国の食材も自分たちで確保しており、日本料理も滅多に食べない。どこでもそうですが、地元のコミュニティとの交流も少ない。これから人口減少に向かう日本は、遠からず、移民を受け入れていくことになる。そのとき、このような状態では、いつか軋轢が起こる危険性は高い」(同)

 こうした問題の背景には、日本が同質社会で、外国人に対して消極的だということも当然ながらある。変化を好まず、同調圧力が支配する日本社会で、どうすればうまく移民とつきあっていけるのか。巷間報じられた通り、欧州、特にフランスは移民政策の失敗が、極右政党の台頭やシャルリー・エブド誌襲撃事件をもたらしたとされている。主にイスラム系移民を多く受け入れ、文化闘争やアイデンティティの問題に発展したためだ、というのは今更言うまでもないだろう。それはやがて訪れる日本の未来の似姿なのかもしれない。そうなってしまわないために、日本社会も対策を講じねばならないときがやってきているということなのだろう。

(取材・文/神田桂一)


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