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連載
神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第78回

日本人が知らない、日本国憲法の国際的意義

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

──現自民党政権は、今夏の参院選に向け、選挙公約に憲法改正を掲げており、大きな論点となっている。だが、同党が提示した憲法改正案は、前時代的な国家主義を体現したものだという。1947年の施行以来、一度も改正がなされていない日本国憲法の国際的な意義について、映画監督兼ジャーナリストのジャン・ユンカーマン氏と議論していく。

[今月のゲスト]
ジャン・ユンカーマン[映画監督・ジャーナリスト]

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ユンカーマン氏監督作『映画 日本国憲法』

神保 憲法改正を公約に掲げる現政権が非常に高い支持率を得ている中で、5月3日の憲法記念日を迎えました。最近の世論調査などの結果を見ても、憲法改正に対する一般市民の抵抗感は明らかに弱まってきているように見えます。安倍首相はまず手始めに、憲法改正の国会発議に衆参両院のそれぞれ3分の2以上の賛成を求めている憲法第96条を改正する意向を示していますが、これがやや曲者です。憲法第9条などの具体的な改憲論になるとまだ抵抗がある人でも、改憲の手続きを定めたに過ぎない96条だけなら、「それくらいならいいかな」という感じで、それほど抵抗を感じない人が多いように思います。

宮台 96条改正からの着手は、考えられたやり方です。憲法をどういう方向に変えるかという「内容」を議論すると面倒なので、改正手続きという「形式」に集中する。「形式」だけと言いつつ、改正手続きのハードルを低くできます。加えて、「形式」だけとはいえ、従来タブーだった「憲法改正」自体の実績を作れます。

 96条改正が実現して憲法が変えやすくなれば、憲法論争が活性化します。でも日本人の大半は憲法(constitution)とは何かを理解しません。「憲法」という表記に問題があります。憲法は法ではありません。大切な覚書です。その証拠に、イギリスは立憲体制ですが成文憲法がありません。そう。皆が覚えていれば覚書はいりません。

 何の覚書か。統治権力を市民がどう樹立(constitute)するかの覚書です。なぜそんな覚書が必要か。巨大な悲劇をもたらした統治権力の横暴を二度と繰り返させないように、統治権力の操縦を志す市民が連帯するためです。どんな悲劇か。法外な税金や、宗教弾圧や、出鱈目な戦争です。だから憲法は、市民から統治権力への縛りです。

 憲法は市民自治への政府(統治権力)の介入を縛ります。政府が介入できない市民の行為領域を定めるのが人権。だから憲法の中核は人権です。中国にも旧ソ連にも、憲法と名の付くものはあった。でも人権規定がないので憲法とは名ばかり。あってもなくても同じで、機能していない。自民党憲法改正案も、人権規定を抜くので、憲法廃止案と同じ(笑)。

「憲法は自治の要だから人権を中核とする」。これを日本人は理解しない。憲法の名宛人が国民だと思う輩さえいます。名宛人は国家=統治権力。国民は憲法に違反できません。納税義務や教育義務はどうなんだと叫ぶ馬鹿もいますが、これら規定にはas provided by law(仔細は法で定める)とあります。フリーライダーを許すなという国家への命令です。

 憲法の何たるかを国民の大半が弁えない。自民党の憲法改正案を書いた東大法学部出身を含む輩でさえ弁えない。このような状況では憲法改正のハードルは高いほど良い。高いハードルを超えるには、国民の集合的沸騰が必要だからです。集合的沸騰は、「悲劇の共有」を前提とし、かつ「子子孫孫が先祖の意志として参照する一般意志」を帰結します。

 なぜ日本人がこれらを弁えないか。「悲劇の共有」の欠落で「一般意志」が不在だからです。宮沢俊義八月十五日革命説があるものの、形式的には日本国憲法は大日本帝国憲法第73条に基づく旧憲法改正です。最後の帝国議会総選挙である1946年第22回衆院選で改選された議会で成立しました。旧憲法の手続きなので、国民投票は要件ではなかったのです。

 要は「主権者だった天皇が、主権者が国民でないのは憲法の名に値しないとして、自ら主権を国民に譲渡することを決意された上、正統性の調達を行うべく旧憲法の改正手続きを踏まれ、憲法を改正された」という形式です。幣原喜重郎首相と松本烝治国務大臣による天皇への草案奏上も、天皇が臨席する枢密院本会議での最終案裁決も経ています。

 まあ、僕がここでこうした「常識」を語る機会が与えられるのを含めて、96条改正問題で憲法に関する議論が活発化することで、自民党憲法草案の如き愚昧な提案の背後にある民度の低さが少しでも改善するのであれば、安倍首相による96条改正問題の投げかけは、まさに福音かもしれません。民度の低さに閉口したアメリカの意を受けた戦略かも(笑)。

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