――「食材」と呼んでもいいのかわからないものを食した経験は、皆さんおありでしょうか……? ここでは、そんな“珍”食材の危険度を探るべく、その流通ルートをたどっていこう。
『「ゲテ食」大全』(データハウス)
2012年3月、イギリスのデイリー・メール紙によって、スターバックスの商品に含まれる着色料に“虫”を原料とするコチニール色素を採用していることが報じられた。自社商品に含まれる人工着色料を減らすという取り組みの一環で、「ストロベリー・フラペチーノ」の淡いピンク色を出す染料として、コチニールカイガラムシ、いわゆる「エンジムシ」から抽出した赤い色素を使っていることが明らかになったのだ。これに対し、完全菜食主義者からの批判が殺到。同社は、段階的に同着色料の使用を中止する事態に至った。
しかし、このコチニール色素は、ハムや魚肉ソーセージ、かまぼこの赤、ガム、イチゴジャムなど、さまざまな食品に使用されている定番素材であり、人体に影響があるものではない。しかし、今回の報道を受け、「“虫の死骸”を使っている!」と強調されたことから、完全菜食主義者に限らず、世論に“嫌悪感”を与えてしまったのだ。とはいえ、こんな虫の着色料ひとつで大騒ぎになったのも、やはりスタバという大手チェーンが大々的に使用したから。同社に抗議した完全菜食主義者なら卒倒してしまいそうな“珍”食材が、我々の手に届くところでいくらでも出回っていることなど、読者諸氏もとうにご存じのことだろう。
カエルに猿、サソリにゴキブリ、豚の脳みそから睾丸まで。正直言って、もはや“自然のもの”で食せないものなどないのでは? と思うほど、さまざまな生き物が、“食べ物”として多くの飲食店で提供されている。
例えば、今回最初に訪れた新宿の某有名中華料理店では、裏メニューというわけでもなく、豚の脳みそ炒めやサソリの唐揚げのほか、カエルの唐揚げにアヒルの血、ハトの姿焼きなどの多種多様な珍食材を堪能することが可能だ。金額は、1皿1500~3500円程度。しかし、“いつ”“どこで”“どうやって”食用として入手されたのか……その点については明らかに怪しい空気が漂っている。
「食材はみんな中国から輸入してるヨー。穴子の下に、輸入しちゃダメな亀を敷き詰めたり、大きい魚の中に入れ込んだり、検閲を潜り抜ける方法はいくらでもあるからね。ペット用なら生きて運ぶ必要があるけど、食用なら食肉加工しちゃえばなんだかわからなくなっちゃうし」(某中華料理店店主)
さらに、昆虫類に関しては、ペットショップからの“横流し”品も出回っているとか。
「売れる前に死んじゃった虫とか、どうせ破棄するだけなので、タダで昆虫食を扱う店に横流ししてますよ。大手ペットショップチェーンのコジマさんとか、ああいうお店ではさすがにやってないと思いますけど」(昆虫系ペットショップ店員)
「これはネットでも買える“食材”ですが、ペットの餌用に飼育されたピンクマウスを提供している飲食店もあります。ピンクマウスは、小さいもので30~40円くらい。ペットショップから流れてくるような “食材”は、1円から、せいぜい数十円程度でしょう」(別のペットショップオーナー)
「中国からの違法(?)輸入」「ペットショップからの横流し」と、珍食材の出どころは、やはり怪しいものばかりなのだろうか。
「例えばウーパールーパーは、今は食用として養殖しているところがいくつかあるので、非合法でもなんでもないですよ。高知県の『ウーパールーパー丼』が一時期盛んに取り上げられましたからね。また、富山県の日本生物教材研究センターなど、中国向けの輸出食材としてウーパールーパーを養殖しているところもあります」(獣肉料理店店員)
確かにウーパールーパーに関しては、アマゾンでも1匹1000円ほどで食用の冷凍パックを購入することができる。珍食材といえど、すべてが怪しい流通ルートをたどっているとは限らないようだ。
ペニスも胎盤もOK? モラルに任されたリスク
そして、もうひとつ。もっとも「オエェ」と吐き気を催す“超激レア”珍食材といえば、人体パーツではないだろうか。12年6月に、東京・阿佐ヶ谷ロフトで開催された男性器食事件は、読者の記憶にも新しいだろう。この事件については、あくまで提供者自らペニスを切断し調理を行っており、主催者を含む逮捕者たちの容疑は「わいせつ罪」。保健所の立ち入り調査はあったものの、人体を食すこと自体について、罰則はなかった。
また、子持ちの方なら耳にしたこともあるかもしれないが、例えば産後に娩出される女性の胎盤は、一部の病院で調理までしてくれるという(レバーに似た味らしい)。本当に食べる人がいるかどうかは定かではないが、胎盤に含まれる栄養成分プラセンタの疲労回復・
美容効果に期待する女性たちの間で、ネット上などで日々情報交換が行われていることは確かだ。
ともあれ、一般的な食品として流通していない“食材”たちは、知らぬ間に食べさせられている……というケースはほとんどないはず。好奇心を取るか、流通・衛生上の危険リスクを取るか──。少なくとも筆者は、その金で吉野家の牛丼を食べたいと思う。
(編集/村田らむ)