サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 公安からのマークも!? 【首相を告発した本】のリスクと意義

──不正の告発やセックス・スキャンダルなど、首相や大物政治家をテーマにした告発・暴露本が「タブー破り」であることは、論をまたないだろう。それでは、こうした本を制作する上で、著者が抱えるリスクとはどういったものがあるのだろうか? また、これら「タブー破りの本」は社会を変革し得るのか!? その意義を検証する!

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『政治家やめます。』(角川文庫)

 政治家のセックス・スキャンダルや不正を暴いた暴露・告発本は数多く存在する。これらの暴露・告発本は、外部からの圧力や世間からの誹謗中傷、下手をすれば訴訟にまで至るリスクを常に抱えており、タブーに挑んだ本といえるだろう。その中でも、特に時の政権の首相や大統領を扱ったものとなれば、そのインパクトは大きい。昭和の大宰相と呼ばれた田中角栄を追い込んだ立花隆氏の『田中角栄研究 全記録』【1】は今でも読み継がれており、権力者の悪事を暴くという社会的な価値は絶大だ。ほかにも、「政局に影響を及ぼした告発本といえば、上杉隆氏の『田中真紀子の恩讐』(小学館)や当時『週刊文春』(文藝春秋)の記者であった松田史朗氏の『田中真紀子研究』(幻冬舎)といった田中真紀子モノが挙がります。小泉純一郎首相(当時)のサプライズ内閣の象徴であった田中真紀子が、いかにひどい人物かを先駆けて報じており、その後、小泉も彼女を更迭。一連の報道がきっかけで、“田中真紀子総理”の芽が完全に断たれたと言っていいでしょう」(全国紙政治部記者)といった事例もある。

 しかし、こうした暴露・告発本の出版は、一国の首相や大物政治家を敵に回すのだから、それなりの覚悟がいることも確か。実際に、アメリカによるイラク攻撃に反対し、外務省を事実上の解雇となった後、自身の出身省庁である外務省と時の首相・小泉を批判した『さらば外務省!』【2】の著者・天木直人氏は、「まずもって暴露本の出版は割に合わない」と言う。そこで本論では、暴露・告発本の出版の経緯やリスクを見ていくとともに、その社会的な価値をあらためて検討していきたい。

 まず、告発本の原稿執筆の際に、天木氏が気をつけたのは「内容が『私怨』になっていないか」「公務員の守秘義務に抵触しないか」という点。同氏は、外務省退職を迫られた経緯や、官房機密費や公金流用などの問題を告発したが、読者から私怨ととらえられてしまえば、その後の立場が不利になるし、守秘義務を守らなければ訴えられる可能性もあったからだ。それに加え、配慮する必要があったのが「いざという時のために権力に対抗できる“爆弾”を隠し持っておく」ことだという。権力側から圧力がかかった場合に、「裁判になったら、さらなる秘密を暴露するぞ」と、牽制力のある武器を持たなければならないのだ。

 こうして執筆した原稿を出版社に持ち込み、『さらば外務省!』は書籍として刊行された。しかし、出版後にも試練が待っていた。

「本が出た後は、公安にマークされるわ、官僚機構から『あいつはテロ組織の仲間だ』などという中傷をマスコミに吹き込まれるわ、大変でした。さらに、公金流用の問題について会計責任者が創価学会関連団体の職員だったことや、問題の調査を行った責任者が公明党の国会議員だったことから、疑惑隠しの疑いがあった可能性を指摘したことで、同議員に訴えられそうにもなりました」(天木氏)

 天木氏は告発本の社会的意義を「権力者の不正を暴き、権力を批判的に見ることにある」と語るが、同時に「日本は告発者に優しい社会ではありません。告発者を英雄扱いする社会にならなければ、今後、誰も告発本を出版しなくなるのではないか」と危惧する。

 社会への影響力という点では、政策や不正とは関係のない「セックス・スキャンダル」などを扱う暴露本も、政局に影響を与えるように見受けられる。アメリカでは、08年の大統領選に有力候補として出馬を表明していたジョン・エドワーズが、愛人との関係を取り沙汰され、著しく人気を落とした。この騒動についてはエドワーズの選挙参謀が書いた『The Politician』や、元・妻の自伝という形式をとった『Resilience』といった暴露本が出版されている。

 特に大統領制を採用しているアメリカなどの諸外国では、こうした暴露本が選挙に与える影響は大きいのではないかとも思えるが……。

 だが、メディアが大統領選に与える影響を分析した『中傷と陰謀 アメリカ大統領選狂騒史』(新潮新書)などの著書がある早稲田大学社会科学総合学術院教授の有馬哲夫氏は、暴露本の選挙への効果に懐疑的だ。

「アメリカでは、代表選の際に立候補者が家族と共にメディア露出をすることからもわかる通り、大統領に父親としてのイメージを仮託しており、家庭を守れない人物には政治能力がないと見なされます。ですから、政治家に対する女性スキャンダルは、日本よりも政治的影響力があるといえるでしょう。ただし、それは清新なイメージで売っている新人候補が対象である場合がほとんど。すでにイメージが確立している現職の候補者などには、それまでの評価を覆すようなダメージは与えられません。それに、暴露本は出版までに時間がかかることもネックです。実際には、選挙戦に影響を及ぼすのは主にテレビ報道で、スピードを考えると暴露本のインパクトはほとんどありません」(有馬氏)

 エドワーズの人気急落も、暴露本によるイメージ急落というよりは、スキャンダル自体がテレビなどで取り上げられた結果に起因すると考えられているようだ。

 実は、日本でも暴露本の価値はそう高くない。前出の政治部記者も、「事実、新聞やテレビの政治部記者からすれば、暴露・告発本は“酒の席でのネタ”くらいにしかなっていません。最近では政治家自体が小物になっていて、『田中角栄研究』の時のような大きなネタもありませんしね。だからか、告発本自体がほとんど出なくなっています」と語る。

 出版リスクが高い割に影響力を持たないのであれば、暴露本はもはや消えゆく運命なのだろうか。しかし、前出の有馬氏は、暴露本の持つ「力」をこう話す。

「本というメディアは、知識層に訴求するためには、テレビより有効と考えられます。大衆への波及力は弱いですが、政策的な問題や金脈などを綿密に暴いたスキャンダルならば、『暴露本』という形で出版したほうが効果的です。本はその場だけの報道と違って永続性があるので、その政治家の評価を後の世に問えることも魅力だといえます」

 例えば、前出の天木氏は、この7月に発売された元外務省・国際情報局長の孫崎享氏の『戦後史の正体』【3】を「アメリカの圧力と首相の対米スタンスについてつまびらかにした、戦後最大の告発本」と絶賛する。扇情的に扱われない質実剛健の暴露本にこそ、タブーを打ち破り、社会を変える力がある。テレビで報道されるセンセーショナルなスキャンダルも楽しくはあるが、たまにはリスクを背負いながらも体系立った真実を提示する骨太な告発本に興味を持ってみるのもいいかもしれない。

(文/宮崎智之 プレスラボ)

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【1】『田中角栄研究 全記録』(上下巻)
立花隆/講談社(82年)/共に730円


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【2】『さらば外務省!』
天木直人/講談社(03年)/1575円
元・外務省のレバノン特命全権大使が外務省の退職経緯から官房機密費の流用といった犯罪行為までを赤裸々に明かす。当時の小泉首相の外交政策への痛烈な批判も。


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【3】『戦後史の正体』
孫崎享/創元社(12年)/1575円
元・外交官が、日本の戦後史を、アメリカの圧力と戦後の首相たちの対米スタンスについて精緻に綴った書。従来の戦後史を一新させる事実を提示している。


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