サイゾーpremium  > 特集  > [鼎談]富田克也×開沼 博×磯部 涼ーー...
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写真は、山梨を拠点に活動する田我流演じる日本人ラッパー(上)と、対立するブラジル人ラッパー(下)。(c)KUZOKU

──甲府を舞台にした『サウダーヂ』という一本の映画が間もなく公開される。崩壊寸前の土木業、ブラジル人労働者、ドラッグへの逃避……劇中のそんな風景に絶望を味わうのは、私たちが避けてきた"地方"の姿が暴かれているからだ。その実体について、この3人が迫る!

 空洞化する地方都市・甲府の真実に迫った話題の映画『サウダーヂ』。そこに描かれた人々の姿を切り口に、監督である富田克也氏と、『「フクシマ」論』(青土社)で中央と地方のコロニアルな構造に迫った開沼博氏、若者のストリートカルチャーに造詣の深い音楽ライター・磯部涼氏の3人に、地方都市の現状について語り合ってもらった。今、地方に巣くう〈絶望〉の正体とは、いったいなんなのか!?



地方の悲劇とサブカルチャー

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こちらは富田監督の前作『国道20号線』より。これが現在の地方のリアルな風景だろう。(c)KUZOKU

磯部 『サウダーヂ』は非常に面白かったです。「地方」という問題に照らし合わすと、よくぞここまで盛り込んだなと。若干、教科書的な嫌いはありますが、それも実際に甲府で生活する人たちを役者に起用し、ドキュメンタリーの手法を取り入れることで乗り越えてると思いました。

富田 地元を巻き込みたかったんですね、映画づくりに。それで雇用を生み出すとまではいかなくても、映画づくりのような文化的なものが、生活の側に当たり前にあるのはいいんじゃないかなと思って。

磯部 ただ、映画のラストで、問題の解決を提示しないですよね。それどころか、とても絶望的な終わり方で。地元を巻き込んでおいてあれはちょっと厳しいのでは?

開沼 その絶望にこそ、ズシンと腑に落ちるものがありました。その点では、映画『フラガール』と対照的。あちらはまさに福島原発もある福島の浜通りにあった常磐炭鉱をモチーフに、輝かしい希望を描いていた。でも、実際には劣悪な労働環境や朝鮮人労働者の問題などが根深くあり、炭鉱労働者の中には閉山の後、北海道や九州の炭鉱に渡った人もいますが、財政破綻した夕張が象徴的なように、今その地はどうなってるんだ、それぞれ現代的な地方の困難の最中にいるんじゃないかって話がある。つまり、一見「希望」に見えた物語の裏物語を見れば、悲劇を外部化したにすぎないんじゃないかと。本当は悲劇の物語があそこから始まっていることすら想像せざるを得ない。戦後の経済成長を背景に夢を見て、でも夢に近づこうとするほどに全然違う姿になった。その成れの果てとして『サウダーヂ』があり、今の地方の状況があると思うんです。

富田 それはありますね。今回主演を務めた鷹野毅は昔からの同級生なんですが、中学を卒業してすぐに土方になりまして。僕らのその時代は、勉強できなくても最後は土方やればいいんだからという感覚があった。あいつらがまた稼ぐんですよ。俺たちが高校に通ってる傍らで、16~17歳ぐらいでクルマを買ったりして、「すげーじゃん!」みたいな。で、さっそく車高低くして、ホイール入れてって具合に金をかけて。とにかく最後は土方の仕事をやればいいやって安心感がずっとあったけど……。

磯部 その安心感が崩れたのが、ロスジェネと言われる僕らの世代ですね。非正規雇用の比率は今年は過去最高の34・4%を記録してますが、地方では非正規雇用の仕事すら簡単には見つからない。

開沼 高度経済成長期には、都会に出て夢破れても、地元に戻りそこにある仕事に就けば、それなりに生きていけた。でも、当時から「そこにある仕事」は、福島の双葉・相馬地域なら原発だったり、それ以外の場所でも工場労働や農業だったり、大きな発展の見込める産業ではなかった。今となっては、その中で漠然と満たされない人たちが、映画のように「ユートピアたネットワークビジネスや薬物に走ることがあると思います。

磯部 薬物といえば、『サウダーヂ』に登場する中年世代は「バブルよ、もう一度」と願っていますが、そこで超人的な力をもたらすスピード(覚醒剤)がメタファーになっている。一方、下の世代はエクスタシー(MDMA)という、スピードに比べたらオモチャみたいなドラッグにハマってますが、その辺にリアリティを感じました。あるいは自分たちでマリファナを育てちゃう自炊感(笑)。

富田 というか田舎はね、山に入ると逆にすごいキノコとか生えてて、「なんだこれ、やべえじゃん!」って食ったらエラいことになったりするからね(笑)。

開沼 かつては「一歩踏み出せば、ここではない世界があるはずだ」みたいな感覚があったと思うんです。「東京に行ってひと旗あげる」的なものもあれば、沢木耕太郎の『深夜特急』的な意味での外国に夢を見たり、ホリエモンみたいにITで一山当てたり。でも、東京も元気じゃないし、無駄に外国に行っても金稼いでもどうにもならず、ここにいるしかないのか、でもこのクズな状況どうすんだってところに、音楽が、人によっては薬物が入ってくる。音楽も薬物も、自分の内へ内へと入っていくものになってますよね。

磯部 ドラッグも音楽もネットも、うまく使えばいいと思うんです。『サウダーヂ』に、しょぼいリサイクルショップでレコードを掘りながら「ここに俺たちの宝があるぜ」というシーンがありましたが、ああして一見退屈な場所を自分たちの遊び場に書き換えている。実際、若い人たちには音楽やサブカルチャーが最後の砦になってるところもあると思う。

開沼 4月以降、地元の福島で各方面に取材していますが、リアルだったのが、いわきにヒップホップ・カルチャーが細々とあり、そこの彫り師が教えてくれた話でした。原発が爆発した直後に警察・検察が捕まってる人を逃がしたという話で、その裏で当局がどんな動きをしたかっていう。そのヒップホップのコミュニティからは原発に働きに行ってる人たちもいて。そんな経験をした上で映画を見て、富田さんもヒップホップに、地方に暮らす者のリアリティを感じたのかなと。

富田 ヒップホップでは、「レペゼン」という言葉を使って、自分たちでその土地を代表しようとするイメージがありますよね。映画にも出てくるstillichimiyaというクルーは、一宮町という地名が町村合併でなくなることへの異議申し立てを込めて、名前に地名を入れているほどですし。

磯部 そこはヒップホップでもレゲエでもトランスでも、あまり変わらないと思います。例えば福島だったらヒップホップよりもハードコア・パンクの印象が強い。この間も、いわき市のバンドが中心になって原発20キロ圏外ギリギリのところで小さなフェスをやったんですけど。あと、Bボーイもパンクスもファッションで「俺はこういう文化が好きなんだ」という、ある種の武装をする。それは自分の住む地域への違和感の表明でもあると思う。自分たちはサブカルチャー的コミュニティの中で暮らすんだという。

開沼 そういった意味では、そのコミュニティの中にいる限りはすごく気持ちいいけど、映画でも描かれた通り、やっぱりコミュニティ同士がぶつからざるを得ない瞬間にはすごく高度なコミュニケーション能力が求められますよね。当然そこでは、『サウダーヂ』に出てくるイベンターの女の子のように、一見みんなとうまくやってるようで、しかしメンヘラになってしまう人も出る。そこは紙一重かもしれません。

生まれた場所でただ生きることの困難

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『サウダーヂ』では、こんな"グロウ部屋"のシーンもリアルに描かれています。(c)KUZOKU

富田 コミュニティ以前に、ハコモノなんてかなり終わってるしね。映画の中で、広大な空き地にイオンが建つ話が出てきますが、撮影後にこれが本当にドーンとできた。あの周りは昭和ニュータウンという住宅街なんで、ショッピングセンターができて便利でしょと。でも便利かもしれないけど、飽きるでしょって話で。そのうちまた新しいのができ、人はそちらに流れ、結局廃れる。

開沼 僕の地元のいわきは、90年代後半にダイエーや長崎屋が進出した。でも結局ダイエーは撤退し、長崎屋はドン・キホーテになり、一方で各地の商店街はシャッター街化。もう、日本のあらゆるところで起きてることです。ここ15年ぐらいは、それでよかったのかもしれない。でも、一時的な活気を作るネタすら尽きてる。

富田 原発というネタはどうなんですか?

開沼 この状況が今後5年10年続くなら、また原発を求めてしまうシナリオがあります。そもそも福島では、佐藤栄佐久前知事が、国や東電は情報を隠蔽しているし、地域経済にとっても麻薬的だから、原発をゆくゆくは止めなくてはと考えたら、むしろ立地地域のほうから止めないでくれと要請された。で、まあ経済どころか、物理的な破滅に至りましたが。それでもなお、地元の原子力ムラを維持しようとする力が働いている。

富田 まさに薬物中毒的ですね。

磯部 上関原発の件も、東京で反原発を訴える人は祝島に感情移入するけど、実際に原発ができるのは対岸の田浦であって、しかも祝島は自給自足を目指してるけど、上関町全体は原発を造る前提ですべてが進んでる。先日の上関町市長選も推進派の圧勝という。

開沼 事故の記憶が新しい中ですらそうなんです。麻薬といえばネガティヴだけど、彼らにとっては生き延びるための薬かもしれず、それを切ったら……ということですよ。土木業も製造業もただでさえダメになっている中で、それを言う残酷さを想像すること。そこをいかに喚起するのかを考えなければと思っています。

磯部 とはいえ、原発の恩恵を受けている人たちにとってはそうでも、福島県は広いじゃないですか。例えば会津だったら、恩恵はそれほどないのに、風評被害だけは被ってる。

開沼 その通りで、僕も2~3日前に会津に行きました。会津の物が「福島産」とされて困っている話はよく言われますが、原発に怒っているのかというとそうでもない。原発に限らず、輸入農作物の問題にしろ、地方の産業はここ何十年と痛めつけられ、諦念のほうを強く感じます。

磯部 原発も、「ああ、また新しいパターンが来たか」という感じで。

開沼 「怒って放射能がなくなるなら怒るけど、そうじゃないでしょ?」くらいの感覚。住む場所を離れるわけにはいかない人の腹の据わり方。もちろん複雑な思いはありますが、それを乗り越える諦念があって。『サウダーヂ』に出てくる人たちが、これからそこでどう生きていくのかという問題にも通じることでしょう。

富田 生まれた土地でただ生きることが、簡単にいかなくなってしまった。この状況はなんなんだろうと、ひたすら考えざるを得ないですね。
(文/九龍ジョー)

富田克也(とみた・かつや)
1972年、山梨県甲府市生まれの映画監督。都内で配送業に従事しながら製作した処女作『雲の上』を03年に発表。07年、『サウダーヂ』と同じく甲府を舞台に地方の悲惨さを描いた『国道20号線』は、各所で話題に。

開沼博(かいぬま・ひろし)
1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍。専攻は社会学。修士論文をベースにした『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)を今年6月に刊行し、大きな反響を呼んだ。

磯部涼(いそべ・りょう)
1978年、千葉県生まれ。ライター。主に日本のマイナーな音楽について執筆。近日、『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)『PROJECT FUKUSHIMA!~いま文化に何ができるか』(K&B)を刊行予定。

『サウダーヂ』
中心街がゴーストタウン化した甲府を舞台に、そこで生きる土方やブラジル人労働者、右翼ラッパー、タイ人ホステス、引きこもり、パチンコ依存症といった人々を通して、文化摩擦、経済格差、その他諸々の地方に潜在する問題を描いた傑作ムービー『サウダーヂ』は、10月22日より渋谷ユーロスペースで公開。

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