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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第5回

データと専門知を駆使してもっとマシな政治を始めよう!【後編】

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実効的な政治システムを作っていくために

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菅原琢氏の著書『世論の曲解』

荻上 分析のための言葉を再提案することで、政治観察過程におけるエラーを縮減したい、ということですね。しかし今の日本の政治制度では、しばらく「スローガン競争」は終わりそうにありません。

菅原 そもそも政治家というものが、とにかく選挙のために生きている点に大きな問題があるわけです。個々人の資質の話ではなくて、「〇時〇分の新幹線で地元に帰って盆踊りを踊って」みたいな生活を毎日続けていれば、誰だってまともな政治判断をするためのスキルや知識の獲得に時間がかかるし、結局政策がわからない「選挙の専門家」のまま政治家人生を終えてしまうかもしれません。

荻上 票取りの名人が民意の代弁の名人であるとは限らず、政治過程や政策提言のプロフェッショナルになる時間は限られてしまっていますね。菅原さんの本来のご専門である選挙制度論を踏まえると、現状をどのように「改革」すべきと思われますか。

菅原 方向性としては、政党を、会社組織のような継続的で内部統制が取れるものに変えていく必要があります。今は、政治家とその個人所有組織の集合体が、便宜上政党を名乗っているようなものです。だから、自民党にいた議員が民主党に移ったり、民主党の公募に落ちた人が自民党で当選したりということが起きてしまう。政党をより強く、組織的にして政治家と選挙を適度に引き離す必要があります。例えば、拘束名簿式の比例代表制はこれを実現するひとつの手段。政党が、終身とは言わないまでもある程度長く雇用できるシステムを備え、官僚制を内部に作ることが必要です。専門的知識を持つ政策スタッフを増やし、活躍の場を確保することも重要。必要に応じて外から人材を呼ぶ、リボルビングドアみたいなことをしてもいい。そうして、政策をある程度内製できるようにする。

荻上 党自体の民意代弁機能を高め、同時に各省益を重視する官僚にも対抗し得るプレイヤーを育てると。

菅原 政党や選挙を含めた政治制度を再設計していく必要があります。そのためにはまず、候補者の名前を書いて当選させる現行制度を、地方も含め全部やめること。本来、政治資金規正法とか政党助成法は政党のパワーやプレゼンスを高めるために作られたのですが、抜け穴がたくさんあって全然機能していない。だから、選挙制度としては比例代表でも小選挙区でも、政党や政党ブロックに対して投票するようにしないと。

荻上 非常にラディカルなご提案ですね。参院選を終え、トータルの得票で民主党が優っていたことや、何度も繰り返されている「一票の格差」への判決結果などを受けて、よりマシな仕方で政治制度を設計し直したほうがいいのではないかという声もある。政治学が、社会科学としてのみならず社会工学として、これから果たせる仕事は多くあるはずですが。

菅原 その時、「マシな設計」とは何か、という価値基準が議論として残るでしょうね。例えば政治学では、比例代表制で死に票を少なくすればよいというような単純な議論は、とっくに廃れています。死に票が多く政党数が絞られる小選挙区制であっても、各党が細かいニーズを掘り起こしつつ政権交代を繰り返せば、細部の声を政権に届けることは可能です。入り口=要求部分の公平性だけでなく、出口=政策実施の部分の公平性も考えないといけません。完全な比例代表制で死に票が出ずに、細かい声が単独の政党として代表されていたとしても、常にその政党が政権から排除されていれば、その声は政府の政策過程に届きません。

 政治というのは、さまざまな利害や意思を持った人々が、それぞれの影響力を高めようとあらゆる手を尽くして蠢いている、非常に複雑な営みです。だからこそ、それをわかっている人が権力を握り、既得権が保たれたままになったりする。そういった澱んだ政治を改善していくためには、まずこの複雑さを一つひとつ紐解き、構造や関係がどうなっているのかを明確にする必要があります。つまり、日本の政治のパフォーマンスは、日本の政治学のパフォーマンスの結果だといえる。だから、もっと政治学者に注目して、注文をつけていただければと思います。

[対談後記]
メディア環境の激変の中、社会科学や自然科学に基づくメディアチェックが世代的ムーブメントになっている──この認識は、領域を超え若手論客に共有されている模様。だが、本格的な発信が不足している分野もまだまだある。「政治」はまさにそうで、人々の関心とは裏腹に、確かな分析が流通しにくい最たる分野だ。アカデミックが持つべき「中立性」は、「デタッチメントのすすめ」ではない。「大衆の欲望」を可視化するためのデータと分析を抱え、現行メディアと政治の「真の姿」を暴くのだ!(荻上)

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すがわら・たく 1976年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。専門は政治学(政治過程論、日本政治)。著書に『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書)などがある。〈twitter ID:sugawarataku〉


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おぎうえ・ちき
1981年生まれ。テクスト論、メディア論を中心に、評論・編集活動を行う。思想系メールマガジン「αシノドス」編集長。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)『社会的な身体』(講談社現代新書)『いじめの直し方』(共著/朝日新聞出版)など。


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