日本代表の指揮を執る、岡田監督に選手はどう思うのか......。
──本誌が発売される頃には、サッカーワールドカップ日本代表選手も発表され、多少なりとも大会報道は盛り上がりを見せているはずだろう。だが、グループリーグの対戦相手を見ると、やはり日本代表の"0勝3敗"は既定路線のようだ。そんな下馬評の中で、日本代表はどのように戦うべきなのだろうか? 専門家らの分析と共に、サッカー専門誌ではなかなか書けない「本音の日本代表戦予想」を行ってみたい。
6月11日、アフリカ大陸では初となる「2010 FIFAワールドカップ」(以下、W杯)が南アフリカ共和国(以下、南ア)で開催される。地区予選を勝ち上がった世界32カ国の代表チームが約1カ月間、サッカー世界一のタイトルをかけて戦う祭典に、もはや説明の必要はないだろう。もちろん、アジア地区の激戦を勝ち抜いた日本代表も出場する。
だが、筆者は1986年のメキシコ大会から24年間6大会、カメラのファインダーを通して強豪チームやスター選手の姿を追ってきたが、今回の日本代表には明るい材料がまったくない。
6月、南半球の南アは冬。天候にもよるが、昼は春のような暖かさでも、日が沈むと0度近くになる場合もある。だがこれは、特にヨーロッパのサッカーリーグで戦う選手にとっては、それぞれの実力を十分に発揮できる最も適した環境であるといえるのだ。94年のアメリカ大会や02年の日韓大会のうだるような暑さや湿気がないことは、逆に日本には不利な条件で「奇跡も番狂わせもない」と思ったほうがいい。
サポーターも岡田監督のふがいなさには呆れ気味?
もちろんコンディションだけではない。日本では岡田武史監督の想像を超えた不人気ぶりが、4年に1度の祭典に水を差しているのが現状だ。代表戦でのスタンドはガラガラ、テレビの視聴率は下降の一途。また、戦績も散々たるもの。今年2月の東アジア選手権では、4カ国中3位(日本の下には香港だけ)。客は容赦ないブーイングを浴びせ、スポーツ各紙には「岡田解任」や「岡田ジャパン解体」の見出しが躍った。4月にはセルビアの「2軍」相手に0-3で惨敗。今後、5月24日に埼玉スタジアムで韓国代表と、30日にオーストリアでイングランド代表と、さらに6月4日にスイスでコートジボワール代表とテストマッチ(親善試合)を行うが、これに全敗すると4連敗。さらに本大会で"既定路線"の3連敗となれば、「ベスト4」をブチ上げた岡田ジャパンが、7連敗という不名誉な記録を残してしまう。
今大会、日本代表の取材を続けている身としては、ファンの8割以上が岡田監督の辞任を願っているというのが実感だ。だが、彼は辞任しない。
「勝てない監督はクビが当然」
そんな世界の常識が通用しない日本は、サッカー後進国といえよう。なのに本気で「2022年のW杯を招致したい」と願っているその姿勢には呆れてしまう。
では、今大会の日本代表に、ひとつでも勝利の可能性はあるのだろうか? 詳細分析は当特集【2】~【4】の、ジャーナリスト・杉山茂樹氏、元サッカー日本代表・北澤豪氏、芸能界一のサッカー通・土田晃之氏らに譲るが、その可能性は限りなくゼロに近い。日本代表が戦うグループリーグEの、オランダ、デンマーク、カメルーンは、名門クラブで活躍する選手が多数在籍する強豪ぞろいだ。
とはいえ、日本のサッカーファンにとって「退屈な大会か」といえば、そうではない。前述の通り、ヨーロッパで活躍する選手にはベストコンディションということもあり、日本代表戦でたまったフラストレーションは、国の威信をかけた他国のスター選手たちの妙技で吹っ飛ぶことだろう。また、彼らのプレイを追う映像技術も特筆に値する。今大会から、ソニーの最新技術を駆使した3D撮影用のカメラが持ち込まれるのだ。
この撮影技術は「W杯の中継では、まだテストの領域を出ない」といわれるが、『スカパー!』では3Dカメラで収録した25試合が放送される予定。また、通常の試合中継、あるいはその日のダイジェスト番組の中には、高画質の超ハイスピードカメラを使った映像が提供されるという。実際にはどのような映像で、どのように使われるかは不明だが、このカメラの技術担当者は「FIFAからは視聴者をびっくりさせる映像ではなくて、解説ができる映像を求められている」と語っていた。
さて、ここまでは、長年W杯に足を運んだ経験から日本代表の置かれた状況と南ア大会の醍醐味を挙げてきたが、次は実際の会場の状況を見てみよう。まずは、入場チケットについてだが、これまでの大会同様、カテゴリー1からカテゴリー3まで試合のグレードによって値段が設定されており、相変わらず高額だ。
さらに、カテゴリー4が南アの国民限定で安く(140南アフリカランド=約20ドル)売り出されて、通貨は南アフリカランドのみで取引された。この安いチケットを設けた背景には、昨年に南アで行われたコンフェデレーションズカップで空席が目立ち、急遽、地元住民や子どもたちを協賛企業が「招待」したいきさつがあったからだ。また、ゴール裏にアフリカ色を出したいという主催者の狙いが見える。
4月の中旬から始まった観戦チケットの第5次(最終)セールは、50万枚がインターネットだけではなく、南ア各都市のチケットセンターの窓口での対面式販売も行った。徹夜組も出て混乱したが、チケットは順調に売れている。もし、売れ残った場合、この窓口販売は大会期間中も続けられるという。
それでも各国のメディアで懸念されている治安の問題は、やはり深刻だ。決勝戦が行われる国内最大の都市ヨハネスブルグは、世界有数の犯罪多発地区。地元警察の統計によると1日当たりの犯罪に絡んだ死者は約80人だが、通説では120人以上といわれており、多くの外国人も巻き込まれている。
この治安問題を問われたFIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長が、かつて「今、地球上に安全な場所など存在しない」と口にしたが、この発言を聞いただけでも、誰もが南アの治安に不安を抱くのは当然だ。試合観戦のファンは人の流れに乗ってスタジアムに向かい、流れのあるうちにスタジアムを離れることが最善。だが、今大会では、駐車場に車やタクシーを止めて、そこからスタジアムにシャトルバスが運行される「パーク・アンド・ライド」というシステムが導入されるのだが、昨年のプレ大会ではこのシステムが十分に機能せず、長蛇の列ができ、積み残しも出た。こうした会場の混乱も予測されている──。
こうして筆者なりに今大会について書き綴ってみると、確かに不安要素の多い大会であることに疑いはない。だが、大量得点が期待されるカードや会場外のハプニングなど、サッカーファンのみならず、野次馬的な視点などから見ても、今回のW杯は魅力的な大会ではないだろうか? そんな大会に、日本代表はどう挑むべきか? 当特集の次記事より、サッカーと縁の深い3人の分析と共に、グループリーグ日本戦をシミュレートする。
(文・写真/原 悦生)