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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第19回

日本のITを殺しているのは、政治か経営者か、IT業界か?

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──ネット世界とリアル社会の接続が進まない日本。その背景にあるのは、産業界や政界のトップたちのIT音痴ぶりと、新たなプラットフォームの形成を阻む、ほかならぬIT業界の内輪事情だ。ネット言論の力が強まりゆく今、日本のITはどこへ向かうのか?──。

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レガシーなものに阻害されているIT業界……でもいずれは若い希望の芽が育つ、のか?

 はてな匿名ダイアリー」に9月24日、「日本のITってどうして糞ばかりなんですか?」というエントリーが書き込まれた。次のような内容だ。

「やれブログだ、やれクラウドだ、セカンドライフだ、ツイッターだ、2・0だ、Ajaxだ いろいろアメリカ発の技術やら流行やらを追いかけて、騒いで そのたびにフラフラとしている日本のIT関係者ってなんなんだろうと思うのですが この流れはどうにかできない物なのですか?(中略)技術力云々の話じゃないと思うんです 精神論で片付ける日本をはてなの皆さんは嫌っているようですが 精神論ですら米国に負けてるんじゃないかと思うわけですが、どうでしょう」

 学生を名乗る匿名の人物が書いたこのエントリーに対して、著名なブロガー・小飼弾氏は怒った

「君みたいなクソが、匿名でクソをなすりつけてくるからに決まってる」

「てめえのクソも拭けず、それどころか人にクソをなすりつけておいて自分は通りすがりの名無しですって犬より役立たずだってことにまず気づけよ、クソ学生@増田君」 自分は何もしないで日本のITを批判していることを小飼氏は非難している。その怒りはもっともなのだが、しかし一方で、この匿名ダイアリーの指摘も間違いではない。

 日本では相変わらず、インターネットの世界とリアルの日本社会が接続されていない。ITが社会基盤となるような状況になっていないということだ。

 だからたとえば、オバマ大統領の選挙運動で見たような、選挙における徹底的なITの利用は日本では実現しない。これは単に公選法改正が進んでいないからというだけでなく、そもそも政治にITを利用しようというモチベーションが非常に乏しいためだ。永田町はITなどには興味がないのだ。

 まだ政権交代する前、自民党のe-Japan推進特命委員会に招かれ、党本部で国会議員約20人を前に、クラウドについて話したことがある。その会合の冒頭、主催者の議員のあいさつの出だしはこうだった。

「わが委員会は党の中では『オタク委員会』と言われておりますが……」

 いまだに、ネットを使いこなす人は「オタク」扱いされているのが、この世界の現状なのだ。

 これは産業界でも似たようなもので、大企業の経営層には、いまだに自分でメールの読み書きをしていない人が多い。秘書が外部とメールをやりとりして、プリントアウトをボスにうやうやしく渡すのだ。IT業界大手ではさすがにそんなことはないが、しかしハードウェアベンダーの経営者だと「ハードのことは知っているが、ネットのアプリケーションやサービスについては、からきし」という人が少なくない。

 NTTドコモを退職し、今はドワンゴやGREEの役員などを務める夏野剛さんが、以前にこう話していたことがある。

「ドコモの役員たちは、誰ひとりとして、自分たちが若者向けに提供しているiモードのアプリケーションを使いこなしてなんかいない。そういう人たちが役員会で『このサービスをいつ投入するか』といった決定をしているんだから、うまくいくわけがない」

 このように日本社会のリーダー層には、ITのもたらす破壊力はまったく届いていない。だからインターネットやITのメリットである、物事の「可視性」や「構造化」といった特徴が、いつまでたっても社会に組み込まれず、結果として曖昧で情緒的な無駄があちこちに残るという状況になっている。

 こういう状況が放置されているから、ネットの世論とリアル社会の世論も、いつまでたっても接続されないのだ。

IT業界側に残る、進展を阻む要素とは?


 背景には、ネットを日本社会がどう扱ってきたのかという歴史的経緯がある。1990年代後半にネットが普及し始めた後、匿名掲示板の2ちゃんねるに代表されるように、かなり遅い時期まで、ネットは所詮は若者の遊びの域を出ないと受け止められていた。金融危機や労働法制の改変などにより、終身雇用制の崩壊とその後の労働者の非正規雇用化という社会の枠組みの構造的な変化は起きたものの、そこに「ITを軸とした若い層の社会変革」というような流れはついぞ起きなかったのである。だから日本のネットにはいまだに「どうせオレたちが何を言ったって、社会は変わらないさ」という、あきらめにも似た冷笑的な雰囲気がまとわりついている。

 さらにはIT側の業界事情もある。アメリカのフェースブックやグーグル、アマゾンのように巨額の設備投資によって社会のプラットフォームを提供していくようなネット企業が、日本ではなかなか現れてこない。つまりは、社会構造の変化を支えるだけの基盤をIT側が用意できていないのだ。この問題にはさまざまな要因が複合的に絡んでいて、一言で説明するのは難しいが、いくつかポイントを挙げておくと、次のようなことだ。

①アメリカは投資の規模が大きい。社員数十人規模の小さなスタートアップベンチャーにベンチャーキャピタル(VC)が数億規模の投資をするのは、普通に行われていることであり、しかもその投資をホールドする期間も長い。ところが日本では、VCは育ってきたとはいえ、1案件ごとの投資額はせいぜい2000〜3000万円程度。おまけに「5年以内に上場」みたいな希望条件を付帯させたりするから、ベンチャーの側は目先の売り上げにとらわれざるを得ない。

②人材の不足。最近でこそベンチャーに理系の優秀な若者が流れ込んでくるようになってきているが、ほんの数年前までは理系学生の大半は大企業の中央研究所などに吸い込まれてしまい、ベンチャーにやってくるのは営業系の文系の若者ばかりという状況が長く続いていた。

③スタートアップベンチャーが活躍できる場所が少ない。メインフレームからミニコン、パソコン、ソフトウェア、クラウドというIT分野の大きな歴史的な流れの中でとらえると、アメリカでは古い市場が衰退するのに合わせてプレーヤー企業も退場させられてきた。古い市場を寡占していた企業は、買収されたり合併したりして消えていき、その空隙を新しいスタートアップベンチャーが埋めるというサイクルがある。70年代に設立された小さなベンチャーのマイクロソフトがITの覇者となり、そしていま、その座をグーグルやアマゾンに奪われようとしているのはその好例だ。しかし日本ではメインフレームの昔から、プレーヤーは富士通・NEC・日立製作所といった大手ベンダーがずっと中心的な位置を占め続けてきた。これはもちろん必死の企業努力もあり、そしてまた結果として従業員を路頭に迷わせずにすんだというメリットもあったものの、業界全体の活力を失わせ、国際競争力も低下させてしまったという副作用があったことは否めない。

 話を戻そう。今回の政権交代に関しても、ネットの世論が選挙結果に影響したとは到底考えられず、相変わらずマスメディア主導の世論形成が行われている。グーグルブック検索のように、アメリカ企業のテクノロジーが日本の文化へと浸蝕してきている状況もある。「将来はバラ色」とは言い難い状況が続いている。

 こういう四方八方ふさがってしまっている状況の中で、今後日本のITはどう進化していき、そしてそれは社会との間にどのような関係を持っていくことになるのか。それはこれから考えていかなければならない。


知らないとマズい!佐々木が注目する今月のニュースワード

「セカイカメラ」
カメラの画像を介して、われわれの住んでいる物理空間の中に存在している建物や店舗にタグをつけられる技術。昨年、日本のベンチャーから発表されて以来注目されていたが、ついに9月にiPhoneのアプリがリリースされ、爆発的な人気を呼んでいる。

「FitBit(フィットビット)」
アメリカで発表されたネット連動健康器具。身につけておくと、身体の動きやカロリー消費、睡眠の質や長さなどを記録し続け、自動的に無線LAN経由でデータをサーバに送信・蓄積してくれる。蓄積された情報は、ネット上のダッシュボードで確認できる。99ドル。

「グーグル・サイドウィキ」
世界中のウェブサイトに対してコメントを書き、それを共有できるという、グーグル・ツールバーに新しく追加された機能。同種のサービスはこれまでも数多く投入されてきたが、広まらずに失敗した。しかしグーグル・ツールバーという、圧倒的に普及しているアプリの機能として実装されたことで、ひょっとしたら成功するかもしれないと注目されている。


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