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連載
宇野常寛の「現代用語の『応用』知識」第2回

リーマン目ムノー科シャカイハガンオタ属「自信のない35歳団塊ジュニア症候群」

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 昔、友人の先輩で、ちょっと苦手な人がいた。彼(仮にAさんとしておこう)は37歳独身の会社員。ガンダムや平野耕太のマンガが大好きなオタク中年だ。ミリオタ(軍事オタク)でもあり、サバイバル・ゲームのチームにもう10年以上参加し続けている。そのせいか妙にマッチョなキャラ売りで、日々の会話で何かと「不道徳なこと」や「社会の不正」に必要以上に憤ってみせるところがあり、周囲からは煙たがられていた記憶がある。

 まあ、悪い人ではないのだろうが、「正義感が強く男らしい自分を認めてほしい」という思いが前に出すぎているきらいがあった。たぶん、寂しかったのだろう。私は2回ほど、共通の友人宅で彼と顔をあわせて挨拶めいたことを交わしただけだったが、その席での彼のあらゆる言動に強烈な印象を受けて、その名前と存在をその後も記憶し続けていた。そして半年ほど前、偶然そのAさんとおぼしき人が運営するブログを発見、ときどき閲覧するようになった。そしてつい先日、私は恐るべき記述に出会って慄然とした。

 どうもそのAさんの知人の息子(高校生)が、尾崎豊ちっくなビョーキを発動して高校を中退した(よくある話だ)らしく、Aさんは「よし、俺の出番だ」と張り切ってその少年の更生に乗り出したというのだ。おいおい、なんかすごい話になってきたぞと読み進めると、Aさんは自慢のキャンピング・カーに少年を乗せて山中でキャンプを敢行、「自然との触れ合いの中で人生について考えさせたり」したらしい……。この時点でウンザリするセンスなのだが、まあ、これくらいの年の少年少女はちょっと文化祭で目立てば解消する程度のルサンチマンを「底なしの絶望」とか「世界に対する悪意の表現」とか思い込むことでプライドを維持するパターンが多い(ヤナシタ病)ので、「久しぶりに意外とキャンプ楽しかったぜ」的な展開によってカンドーしたり、元気づけられることも割とあるのかもしれない(その程度の傷だから)。けれど逆にそういう偶然がないと、この種のパフォーマンスは基本的に空回りすることくらい、フツーに社会人やっていたら気づきそうなものなのだが、Aさんはその辺のことを根本的に理解していないようだった。特定の人生経験を他人に、特に若い世代に共有させることで社会の規範に乗せる(通過儀礼)、みたいなことが有効に機能するのは、社会が単一の物語に駆動されているある種の安定期の話だ。イマドキそんな手が通用するのなら、なんの苦労もないのだが。

 Aさんはキャンプから戻ってきたあと、その少年に「感想文」を提出(!)させたのだが、そこには「魚釣りが楽しかった」くらいのことしか書かれていなかったらしい。

 結局、ブログにはそれ以上「人生を考えるキャンプ」の話題はなく、Aさんの「教育」がどの程度功を奏したかはわからないが、ここで重要なポイントは、このイベントはあくまでその少年のためではなくAさん自身のために企画されたものでしかなく、不幸にも彼自身がそれに気づいていないことだろう。ブログにおけるAさんの筆致は誇らしげで、熱っぽく、まるで世界の主役になったかのようだった。そして、その末尾はこう結ばれていた。「さて、俺もそろそろ就職活動するかな」――読み進めている間、なんでAさんが平日に少年をキャンプに連れて行けるのかがずっと疑問だったのだが、ほかならぬ彼自身がその数カ月前にリストラされて職を失っていたのだ……。

 私はブラウザを閉じ、ベランダに出て天を仰いだ。空はどこまでも青く、そして雲は悠然と流れていた。私にできることは何もなかったが、とりあえずAさんの心の平安と、再就職の成功を祈った。

<使用例>
(会社の給湯室で)
「うわー、○○先輩に飲みに誘われちゃったよー」
「ご愁傷様。愛されているね(笑)」
「奥さんとセックスレスらしいからね」
「自信のない35歳団塊ジュニア症候群って、なんでみんな自分の子どもはいないんだろうね」

<関連キーワード>

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『軌道戦士ガンダムUC』 「こんな時代だから、あえてカッコイイ大人に導かれる少年の成長物語を」という見え透いたイイワケ全開で、これ系のメンタリティを99%把握可能。

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『仮面ライダー響鬼論争』 「響鬼」「論争」「井上」あたりで検索すると、自信のない団塊ジュニア中年オタクたちのヒステリックなブログが次々ヒットするぞ!

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『ゼクシィ』 処方箋としては、まずは生身の女性と触れて、自分がなんで結婚できないか分析すべし! 「子どもに説教」は、その6段階あとでも遅くない!


宇野常寛(うの・つねひろ)
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。ミニコミ誌「PLANETS」の発行と、雑誌媒体でのサブ・カルチャー批評を主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)がある。本誌連載中から各所で自爆・誤爆を引き起こした「サブ・カルチャー最終審判」は、今秋書籍で刊行予定。


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