――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
[今月のゲスト]
橋本健二(はしもと・けんじ)
[早稲田大学人間科学学術院教授]
1959年、石川県生まれ。82年、東京大学教育学部卒業。88年、東京大学大学院博士課程満期退学。博士(社会学)。静岡大学教員、武蔵大学社会学部教授などを経て2013年より現職。著書に『新しい階級社会』(講談社現代新書)、『中流崩壊』(朝日新書)など。
参院選では自民党が大幅に議席を減らし、参政党や国民民主党が躍進した。早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二氏による大規模調査では、日本に新たな階級社会が出現し、非正規労働者中心の「アンダークラス」が拡大しているという。彼らはどのような状況に置かれ、また格差を縮小するために政治がすべきことは一体何なのか?
神保 今回は、日本の格差社会の構造が政治にどのような影響を与えているかをテーマにお送りします。ゲストには早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二先生をお迎えしました。最新の調査(2022年)をもとにした『新しい階級社会』(講談社現代新書)という本を6月に上梓されています。
橋本先生の今回の調査は、東京、名古屋、大阪の都市部に住む20~69歳の住民4万3820人を対象にしたもの。詳しいことは後ほどお伝えしますが、6つの質問に基づいて調査対象者の政治意識を「リベラル」「伝統保守」「平和主義者」「無関心層」「新自由主義右翼」の5つのクラスターに分け、それぞれのクラスターに属する人たちの考え方や社会との関わり方などを調査しています。そのデータの意味をより深く理解するために、まず先の参院選の結果を見ておこうと思います。
自民党は改選前の52議席から13議席減らして39議席に、公明党も14議席から8議席に減らしています。一方、大きく議席を伸ばしたのが国民民主党と参政党で、国民民主党は4議席から17議席、参政党は1議席から14議席に増加。この結果について橋本先生から何かありますか。
橋本 安倍晋三政権から今日に至るまでの政治の中で重要なアクターとなってきたのが、私が「新自由主義右翼」と呼ぶクラスターだと考えています。これに属する人は比較的学歴と収入が高く、圧倒的に男性が多い。「憲法を改正して軍隊を持つべきだ」というような伝統保守的な信念を持ちながら、排外主義的傾向が強く、格差拡大を容認して所得再分配に反対するという、非常に顕著なイデオロギー的特徴を持っています。
彼らは有権者の10%少々に過ぎないのですが、政治参加の意識が強く投票率が高いため、現在の日本の国政選挙の投票率が50%前後であることを考えれば、投票者に占める比率はおそらく2割程度にも達する。国政選挙の比例区での自民党の得票率は35%ほどですから、このクラスターの人々の票が約半分を占めていたわけです。つまり、彼らは少数派であるにもかかわらず、特に安倍政権下の自民党を操ることができる人たちだった。
ところが新しく首相になった石破茂さんは、新自由主義右翼から見るとどうも煮え切らない。そこで参政党が出てきたので、そちらに流れたという図式ではないかと思います。【編注:この鼎談は、石破首相退陣表明以前の、今年8月に公開されたものです】
神保 本題に入る上で、現代の日本の階級構造も教えてください。