はじめしゃちょーのYouTube動画によって、トレーディングカードの二次流通価格がわかりやすく一般層に広く知られることに。本動画の再生数は25年6月時点で500万回再生されている。(画像は、はじめしゃちょーのYouTube動画「ポケモンカードにハマってしまいました。助けてください、」より)
――コロナ禍に前後して、異常なまでの過熱を見せるトレーディングカードゲーム(TCG)業界。近年には『ガンダム』や『ディズニー』など、超強力IPタイトルが続々と新規参入を果たしている。なぜ、これほどまでにTCGビジネスが盛んなのか。業界関係者らの証言を基に、その歴史とビジネスの裏側に迫る。
トレーディングカードゲーム(以下、TCG)ブームがにわかに騒がれている。日本玩具協会の「玩具市場規模調査」によれば、コロナ禍以前に1000億円規模だった国内TCG市場は、2023年度には2700億円を超える規模へと爆発的に成長。また、同年に『ポケモンカード』(以下、『ポケカ』)のカード、通称「がんばリーリエ」が二次流通市場で約1000万円の値が付くなど、投機的なバブルも巻き起こり、TCGの存在は広く周知されることとなった。
「22年から23年にかけての、いわゆる〝ポケカバブル〟は正直、異常な状況でした。それが23年の秋頃に一気に潮目が引き、業界内だと今は流通を含めて〝健全化した〟というのが共通認識です。それでも今なお盛り上がっているように見えるのは、新規タイトルが次々と出ているからでしょう。昨年には『名探偵コナン』『ウルトラマン』『ディズニー』、今年は『ガンダム』に、VTuberや配信者を起用した『Xross Stars』など、毎月のように新規タイトルがローンチされています」
近年のTCGブームをこう振り返るのは、大手TCGメーカー関係者A氏だ。『ポケカ』が異常な高値で取引される投機熱は沈静化したものの、その盛り上がりは新規TCGタイトルの参入ラッシュという形で続いている。
TCGの歴史に詳しく、自身もTCGのゲームデザイナーを務めるJey.P.氏も「現在はTCGのゲームデザイナーに対する、新規プロジェクトの誘いが増えています。その需要の高さからも盛り上がりを感じます」と話すなど、新規タイトルの増加に伴い、TCG開発者の引き合いも後を絶たない状況がある。
なぜ今、TCGはかように盛り上がっているのか?その背景を見ていく。
TCGの歴史とブームの着火点
TCGの歴史は、1993年にアメリカで発売された『マジック:ザ・ギャザリング』に端を発する。ランダムなカードパックから出てきたカードを組み合わせ、自分だけのデッキで対戦するという、それまでのゲームになかった画期的なコンセプトが受け入れられ、世界中でヒットを飛ばした。
「日本でも90年代後半から、『週刊少年ジャンプ』(集英社)や『コロコロコミック』(小学館)といった人気マンガ雑誌と連動する形で、『ポケカ』『遊☆戯☆王OCG』『デュエル・マスターズ』といったタイトルが市場に深く根づいていきました。日本のマンガ・アニメのメディアミックスの一環として、TCGとの相性は抜群だったといえます」(Jey.P.氏)
その後、08年にはブシロードがさまざまなアニメIPを起用した、いわばプラットフォーム型のTCG『ヴァイスシュヴァルツ』を成功させ、市場は成熟期に入った。全体的に売り上げが振るわない〝冬の時代〟やデジタルカードゲーム(DCG)の隆盛などを経て、20年代前半の『ポケカ』やTCGバブルへとつながっていく。
「『ポケカ』バブルが起こる直接のきっかけは、18年にYouTuberはじめしゃちょーが公開したポケカ開封動画でした」と、前出のメーカー関係者A氏は指摘。この動画では「このパックは何円で、このカードは3000円」というように、TCGの価値を誰にでもわかる〝日本円〟に換算して見せた。
「それまで二次市場でのカードの価値は、界隈外の人間には不透明でした。そんなカードの価値を、発信力のあるYouTuberが公にアナウンスしたことは非常に大きかった」(A氏)
この流れが、コロナ禍による世界的な〝金余り〟で行き場を失った投機マネーをTCG市場へと向かわせ、ポケモンカードを中心に「TCG=儲かる」というイメージが形成されていくことに。嗜好品だったTCGが投機商材として見いだされた結果、未曾有のバブルを引き起こすこととなった。