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【premium連載】声を殺して泣く理由 ~虐待を生き延びたサバイバーたちの素顔~第2回 

『巨人の星』はインドでも虐待アニメ――今、法律のウラとオモテで起きていること

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――虐待を受けた「わたしたち」に残ったものとは? よじれてしまった家族への想いを胸に、果たして、そこに再生の道はあるのだろうか。元・被虐待児=サバイバーである筆者が、自身の体験やサバイバーたちへの取材を元に「児童虐待のリアル」を内側からレポートする。

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あなたは本当に「虐待の定義」を答えられるだろうか

 2012年、スポ根アニメの草分けである『巨人の星』(原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる)がインド版アニメとしてリメイク放送された。製作当初、インド側のスタッフから「大リーグボール養成ギプスは、児童虐待に当たる」ということで拒否されたらしい。確かに筋力強化のためとはいえ、現実の小学生に拘束具を使っていたら、やはりやり過ぎだろう。だがトレーニングに苦痛はつきもの。道具を使わないにせよ、どこまでが虐待かという線引きはなかなか難しい。

 今やすっかりメジャーになってしまった「虐待」というキーワード。しかし、そもそも児童虐待とは、どんな行為を指すのだろうか?

“親”が子どもに“暴力を振るう”こと」。

 でも、これだけでは不正解。言葉で脅したり、食事を与えなかったりするなど、直接手を挙げない行為も存在するからだ。では、法律での扱いはどうなっているのだろう。虐待対応の基盤となる「児童虐待の防止等に関する法律」(通称:児童虐待防止法)では、次のように定められている。

――保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

“次に掲げる行為”には、直接的な暴力以外にも、わいせつ行為や育児放棄などさまざまな内容が記されている。つまりは「保護者が子どもに耐えがたい苦痛を負わせる」こととも言えるが、実はこれでも実態とは遠くかけ離れている。サバイバーたちに話を聞いていくと、「加害者=保護者」ではないケースも多いからだ。

 例えば、「高校生になっても、年の離れた兄から毎日グーで殴られていました」という40代女性や、「両親が離婚して父に引き取られたが、その実家で親戚一同から暴行にあっていた」という女の子もいる。

『法律家が書いた子どもを虐待から守る本』(中央経済社)の著者であり、子どもの虐待根絶を目指すNPO法人「Think Kids」の代表理事も務める後藤啓二弁護士は、児童虐待防止法上の虐待における“加害者の定義の狭さ”の弊害を指摘する。

「法律の定義では、同居して面倒を見るなどしていない限り、祖父母や親の愛人、親戚や兄弟姉妹などは対象外です。2011年に姫路市で起きた姫路市虐待重体事件では、児童相談所が法律を限定的に解釈し、“虐待行為が疑われていた母親の交際相手”について事情を聴かないままにし、この男による更なる虐待行為を防げませんでした」

 野放しになった母親の愛人、その顛末はどうなったのだろうか?

「結局、子どもを重体に陥らせた後に、警察がこの男を逮捕しました。しかし、児童相談所が細かい文言にこだわらず適切に対応すれば、防ぐことができたはずです。児童相談所のこのような消極的な対応により虐待と認知されない案件がまだまだあると思いますので、行為者の定義をもっと広げる必要があります」

 これらの発言からもわかるとおり、現在の日本の法律では、虐待を一言で定義することは非常に困難なのだ。こうして法の網目からこぼれおちる虐待や、そこから生き抜いてきたサバイバーがいる。ああ、なんてつかみどころがないんだろう。

 つかみどころがないからこそ、わたしたちは隣の家から子どもの泣き声が聞こえたときにどう行動していいかうろたえてしまうし、「自分が虐待者になる可能性」に怯えるのかもしれない。虐待の経験がある人も、またそうでない人も、得体の知れない迷路の中で迷うことがあるんじゃないかと思うのだ。

サバイバーの4つの属性

虐待の多様性を示す例は、他にもある。例えば下記は、厚生労働省による虐待行為の4つの分類である。(『子ども虐待対応の手引き』より)

・身体的虐待
→ 外傷を受ける行為や生命に危険のある暴行、意図的に病気にさせられる行為など
・性的虐待
→ 性交や性的行為の強要、性器や性交を見せる行為、ポルノの被写体への強要など
・ネグレクト
→ 衣食住を含め、健康・安全への配慮をしてもらえないこと。情緒的な欲求に答えてもらえないことなど
・心理的虐待
→ 言葉で執拗に傷つけられる、無視、他の兄弟との差別、家庭内のDVを見せられることなど

 サバイバーからすると、こんな切ない名称が自分の過去にラベリングされるのは大変不本意なのだが、便宜的にサバイバー間の自己紹介などで使うこともある。それぞれの属性によって、苦しみの種類や乗り越えなければならない壁が少しずつ違うからだ。

 ではこの4類型を詳しく見てみよう。まず多くの人が想像しやすいのは、殴る蹴る、縄で拘束するなどの「身体的虐待」だろう。しかし、全体の比率として一番多いのは、言葉での脅しや過度の監視などによる「心理的虐待」(47.2%/2015年度厚生労働省調べ)である。

 食事を与えられない、病院に連れていってもらえないなど、育児放棄ともいえるのが「ネグレクト」。2004年に上映された是枝裕和監督による映画『誰も知らない』では、1988年に実際に発覚した「巣鴨子供置き去り事件」を扱ったことで話題になった。父が失踪、続いて母が蒸発した後も、親を待ちながら健気に生きるしかない4人のきょうだいの姿を描いた作品である。

 そして、もっとも世の中で認知されることが少なく、誤解を生じやすいのが、「性的虐待」だろう。レイプのような暴力的なものを思い浮かべる人もいるかと思うが、実際はセックスが何かも知らない女の子(あるいは男の子)に「愛情表現」や「しつけ」と称して行われることも少なくない。成長して行為の意味を知ったとき、彼ら彼女らの信じる世界がガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまうのだ。

 以上の4類型は、個別にではなく「身体的」×「ネグレクト」など複合的に行われることもある。

こんな入り組んだ世界の中で、サバイバーたちは孤独に葛藤している。だからこそ、彼らは出会った同志を大切にし、属性に関係なくお互いを労おうとするのかもしれない。

 わたしが5年前にサバイバーのオフ会を開いたとき、参加者にはさまざまな虐待の経験者が混在しており、未だ継続中の子もいた。そんな中、15歳のときに母親が蒸発したというカオルさん(仮名・当時30歳)は、初対面のみんなにお守りのような小さな巾着を手渡して回っていた。手作りと思しきその袋を開けると、中から小指の先ほどのかわいらしいダルマが顔を出したのである。

「ほら、七転び八起きって言うじゃないですか。その意味は――わたしたちならわかりますよね」。カオルさんはいたずらっぽく笑った。

法や定義はもちろん必要だ。しかし、生身のサバイバーの世界は、今この瞬間もどこかで力強く回っている。

(文/帆南ふうこ)

帆南ふうこ(ほなみ・ふうこ)
1980年生まれ、ライター。4歳ごろから高校生まで実母から身体的・精神的な暴力を受けて育つ。13年間にも及ぶ反抗期を経た後、結婚を機に母親と和解。ここ数年は元・被虐待児である「サバイバー」たちのオフ会を開いたり、取材を通じてサバイバー仲間との親交を深めている。趣味はお酒と田舎暮らし。

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