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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第7回

角川とドワンゴが日本のコンテンツ産業と世界のヘタレを救う?

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

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――5月に発表されたKADOKAWA(旧・角川ホールディングスグループ)とドワンゴの合併は、多くの人に驚きと同時に期待も与えた。それは旧来のマスコミをネットがのみ込んだという構図だけでなく、コンテンツにおける新しい何かを生み出すことをたやすく想像させてくれたからだ。しかし、その本質は日経が煽るような「クールジャパン」ではなく、多くの「ヘタレ」を幸福にすることにあるのだ。

クロサカ 5月に発表された角川とドワンゴの合併【1】は、大きな反響を呼びました。これまでマスコミの一角と目されてきた大手出版社と、マスコミに変革を迫ったネットの代表格である企業の対等合併。新会社のトップにドワンゴの川上量生会長が就くこと。いずれも大きなインパクトがあります。そこで今月は、コンテンツ産業に造詣の深い境さんをお招きしました。境さんは、行政側からコンテンツ産業を俯瞰する立場であり、また角川とドワンゴの両社にも深くかかわっていらっしゃいます。

 今回の合併ですが、識者やアナリストは異論を唱えていないですよね。それくらい、あまりにも“はまっている”んだと思います。

クロサカ 確かに両者が抱えるユーザーのセグメントは相互補完関係にあります。ただ、コンテンツ産業の現状と将来を考えると、ドワンゴが角川を助けてあげたようにも見えます。

 いや、一般にはあまり認識されていませんが、ドワンゴはキャッシュフローがそう強いわけじゃないように見えます。だから、角川の資本力はとてもありがたい。一方角川は、マンガやラノベなどのオタク系コンテンツに強くて、それはドワンゴが持つ有料プレミアム会員のユーザー層と親和性が高い。例えば、ニコニコ動画で角川のコンテンツに対して、100円払って見てくれる可能性が非常に高い。そういう意味では、ドワンゴは今を乗り切るために、角川は将来発展するために、お互いが必要だった。

クロサカ 確かに時間軸でも補完関係にあります。今回の件で、ビジネスとしてどういう形になるか細部はまだ見えていないけど、一緒になること自体は僕も賛成。でも、まだ絵に描いた餅にすぎません。ビジネス開発をしっかりやらないと思惑通りに行かないと思います。理想はいいけど、果たして現実はどうなんでしょう?

 僕は、やるべきことは見えていると思います。ニコニコ動画関連のサービスは、モジュール化されているので、角川側の事業とくっつけやすいからです。例えば、電子書籍プラットフォームのBOOK☆WALKER【2】ニコニコ静画【3】は、以前から提携しており、購入したコンテンツを横断して利用できるなど、一部で統合されています。また、ニコニコチャンネル【4】では角川の雑誌がそれぞれチャンネルを作り、全コンテンツをそこに載せられる。そしてチャンネルをベースに、今の角川にいる編集者がプロデューサーの形をとって、どんどんエコシステムを作っていけます。角川の中でもメインストリームに入る分野は心配していません。

クロサカ でも、角川はオタク系以外にも多くのコンテンツを持っていて、中には負債とすら呼べるようなものもあります。いずれなんらかのリストラは必然です。

 その通りです。そして、おそらく川上会長が思っている以上に、角川の正社員の存在は重いです。例えば、角川とドワンゴでは社員の平均年収がかなり違う。給料という意味で人の重みに直面して、川上会長が大なたを振るえるのかどうか。ただ、個人的な感覚でいえば、あまり心配していない。ひとつには、川上さんはビジネスのバランス感覚に優れていて、ある面では角川歴彦さんよりも上だと思うからです。

クロサカ 川上さんはニコニコ超会議【5】をすでに3回にわたり開催し、成功させています。この功績は大きいですね。

 角川さんも、その点を大きく評価しているはずです。彼自身も、ファンと一緒に遊ぶ場を作りたかったけど、それができなかった思いがある。そこに川上さんが、一歩進めたものを作って見せた。あくまで私の推測ですが、そこに虚を突かれたと思うし、川上さんを後継者だと確信した要因のひとつが超会議のはずです。

クロサカ それはとても腑に落ちる解釈です。ただ、参加者や当事者から話を聞くと、今年の超会議は評価が分かれています。去年までは、行った人は全員「楽しかった」と満足していた。ところが、今年になってからは不満の声が、少数ですが聞かれるようになったんです。僕には、これは大きな変化に見えます。

 あれほどの非日常的な場を継続することは、とてつもなく難しいです。昨年の第2回には安倍晋三首相まで来てしまいましたが、それゆえ次に首相が来ても「またか」と言われてしまいかねない。今年は、もしかしたらバラク・オバマ大統領の訪日と日程が重なって、会場に来ていたら、間違いなく「おもしろかった」となっていたはず。それ自体は運の問題ですが、結果的には来なかったわけで、3回目にして「わかりやすい拡大感」は打ち出せなかった。

クロサカ 「終わりなき日常」の始まり、ということですね。

 この停滞感をどうやって乗り越えて行くのか。あるドワンゴのスタッフが「10年後に運営が何もしない超会議が完成形です」と言っていました。それ自体はビジョンとして正しいと思います。あとは、そこにどうやって行き着くか。イベントの管理者と参加者の間には、管理する側とされる側という形で、支配と被支配の関係があります。これをドワンゴがどれだけ自覚的に身を正して「君臨すれども統治せず」を実現するのか。その意味では、ターニングポイントは、超会議でアクシデントが発生したときに、それをどうのみ込んでいくのかでしょう。

クロサカ ドワンゴがアクシデントを嫌うのは、「ニコニコンドーム」が配られていたことからもうかがえますね。あれだけ若い人が集まる大規模なお祭りだと、セックスにまつわるトラブルも起きて当然だから、正しいと思います。ただ、予防政策を強めていくと、単なる「企業文化祭」で終わってしまい、超会議の潜在能力を殺してしまうことになりそうです。

 ドワンゴは閉鎖的な面がある会社。それはニコニコ動画のエコシステムにも表れていて、ユーザーアカウントがないと見ることすらできない。それはひとつの個性で、だからこそニコニコの運営とユーザーとの間にある常識でまわしていけるのですが、規模が膨らんでニコニコの外の人が入ってくるとどう運営できるかわからない、外の人から注目されると評価されるかわからないという恐怖も生まれる。でも、ニコニコ動画に集まっているユーザー、すなわち「大きなものを作り出すことはできないけど、能動性があって、うまくまとめると何か大きな力になりそうだけど、放っておくとバラけてしまうような人々」を多重なエコシステムとしてまとめ上げたことは、日本のコンテンツ産業界の歴史の中で特筆すべきことだと僕は思う。ここで彼らを萎えさせてはいけない。

クロサカ でも、彼らの目指すものは、ハリウッドのように露骨にカネを生み出すシステムではないし、世界における日本の文化的地位は若干上がるかもしれないけど、他の存在を圧倒するようなものにはならない。それで彼らは生き残っていけるのでしょうか?

 これは、最近の僕のテーマである中産階級論に結びつきます。「ヘタレ」と「マッチョ」の関係性というものですが、マッチョとは成長志向や効率主義、自己責任論を好む、言わばビジネスエリート的な存在です。ヘタレはそうした競争からは降りた中産階級で、自分たちでコンテンツを作り出し自分たちで楽しむ自己充足的な活動を好む、いわゆるオタクに近い。世界ではマッチョが趨勢で、常にヘタレが虐げられてきましたが、日本ではヘタレとマッチョがうまく共存してきました。ところが、日本でもグローバリゼーション以降はマッチョ側に振れているんですがね。

クロサカ ヘタレとマッチョは、見方を変えると経済格差でもあります。でも、日本ではオタクが経済として成立している。つまりヘタレのエコシステムを作ることに成功したんですね。その一端を角川やドワンゴが担っています。

 日本では、バブル景気、すなわちマッチョ主義が侵食する以前の80年代までは、金持ちのお作法がありました。そのひとつがメディアなどに露出しない、つまり「表に出ない」というものでした。それが90年代になって、マッチョが表でドヤ顔をすることで、社会に自由主義や競争社会を礼賛するようなメッセージを与えてしまい、それが社会的正当性を帯びて、暴走を始めてしまった。

クロサカ マッチョ主義は、ひとつの価値指標しか認めない。でも別に全員がマッチョになりたい訳じゃない。さらに、本来はカネを持っているということは、別に偉いワケではなく、たまたまその時にカネを持っていたにすぎない。でもマッチョ主義は、カネがないことをディスるんですよね。

 中産階級という絶対多数の人を不幸せにして、ごく少数の金持ちがドヤ顔をできるシステムは、不穏で不安定なものになりがちです。別にマッチョ主義は、その軸の中では正しいこと。でも、多様な軸があることを、マッチョ自身も含めて、社会に参加する全員が認められなければ、社会は前に進めない。

クロサカ 僕が子どもの頃に残っていた「マッチョの作法」というのは、まさしくそれだったんですよ。だから、角川ドワンゴは、その轍を絶対に踏んではいけないと思うんです。

 角川ドワンゴがROIなどの指標において成長できるかどうかは別にして、ユーザーの手に届くコンテンツやコミュニティを作り出す流儀やスタイルに、僕はすごく期待しています。それは、世界の自動車産業において、フォードが果たしたような役割です。フォードは大量生産システムの元祖ですが、一方で「自社の社員が自社の車を買える社会」の実現を目指してきた。いわば中産階級が世の中を平穏で豊かにするという、現代社会の象徴でもある。それは、最近の行きすぎた「マッチョ主義」へのカウンターになります。

クロサカ そうか、確かにフォードは、ビッグ3の中で唯一潰れていませんね。その理由のひとつが、欧州フォードの存在かもしれません。欧州フォードは、米国フォードとはまったく違う車作りをしていた。欧州フォードにとって米国フォードは、カネは出すけど口は出さない「ダンナ」なみたいなものです。でも、アメリカでも小型車が必要な時代になって、欧州フォードの車や部品を持ってきて、アメ車とは全然違うフォード車が、受け入れられた。その多様性が担保できたからこそ、フォードは生き永らえた。

 現在のフォードは、世界一の自動車会社ではありません。ですが、フォードという会社によってアメリカは自動車産業のふるさととして永遠に認識され続ける。フォードの精神を忘れたマッチョイズムは、事業を効率化することで成長を追い求めます。でもそれって、消費者を疎外しているんです。

クロサカ だから、「君臨すれども統治せず」というのが大事なわけですね。

 でも、川上さんと角川さんも個性が強い人たちですからね、「君臨すれども統治せず」を貫けるかどうかは、ちょっとだけ心配(笑)。

―対談を終えて―
事業統合は、財務会計や会社法上で一緒になっても、達成されるわけではありません。むしろそこからが本当のスタートで、その先に多大な労苦が待っています。本当に彼らが目指しているであろうゴールまで、たどり着くのは大変です。正直に言えば、まだ彼らがどこまでやれるのか、懐疑的ではあります。ただ、今日のフォードがそうであるように、角川ドワンゴが生き残れる社会こそ、素敵な社会だと思います。そう考えると、彼らのことをゆるやかに応援したくなるのは、僕だけではないはずです。

境真良(さかい・まさよし)
1968年、東京都生まれ。国際大学GLOCOM客員研究員。経済産業省に本籍を置きながら、産官学それぞれでコンテンツ産業や情報産業、エンターテインメント産業の研究を行う。著書に『テレビ進化論』(講談社現代新書)、『Kindleショック』(ソフトバンク新書)ほか。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

【1】角川とドワンゴの合併
2014年10月に「KADOKAWA・DWANGO」としてスタート。代表権を持つ会長にはドワンゴの川上量生会長が、代表権を持つ社長には角川の佐藤辰男相談役が就き、角川歴彦会長は取締相談役に退く。

【2】BOOK☆WALKER
2010年12月に開始した電子書籍配信サービス。角川グループが発行した作品を中心に12万点を揃え、「ライトノベル品揃えNo.1」が謳い文句。

【3】ニコニコ静画
イラスト投稿と電子書籍配信サービスの複合サイト。ニコニコ動画のように、イラストや電子書籍のマンガに対してコメントを投稿できるのが特徴。

【4】ニコニコチャンネル
ニコニコ動画上で企業や団体による動画やメルマガ配信のほか、コミュニティを運営できるサービス。

【5】ニコニコ超会議
ドワンゴが主催する「ニコニコ動画を地上に再現する」をコンセプトにしたイベント。2012年4月に初めて開催され約9万2千人が参加。それ以降も継続的に10万人を超える来場者を集めている。

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