――ダンスフロアからの新たな刺客。DARUMAとJOMMYの画期的音楽探究。
(写真/岩澤高雄[The VOICE])
――本日は音楽ライターの渡辺志保さんにお越しいただきました。
渡辺志保(以下、W) お招きいただきありがとうございます。おてやわらかにお願いいたします。
DJ DARUMA(以下、D) 今回志保さんに来ていただいたのは、音楽をどうやってディグっているのかな? というところをお聞きしたくて。まず、ひとくちにヒップホップと言っても、多岐に渡り、ジャンルとしての幅もだいぶ広くなりました。僕もチェックはしているけど、まったく追いつけない。志保さんはどういったルーティンでチェックしているんですか?
W 国内の主要サブスクのプレイリストをチェックしたり、若手ラッパーがインスタに投稿したストーリーズで新曲を知ったりしますが、私も正直なところ全然追い切れていないんです。とはいえ、中でも重宝しているのがTuneCoreが提供しているプレイリスト。いわゆる“どインディ”のアーティストの楽曲が並ぶんですが、気になったアーティストはSNSやSoundCloudをチェックするようにしています。以前はクラブのバーカンで「これ聴いてください!」とかコミュニケーションを図れるやりとりもあったんですけど、コロナ以降はその機会もなくなってしまったので。
JOMMY(以下、J) 海外はどうですか?
W 海外も同じように信頼しているプレイリストと、あとはニュースサイトを3~4つチェックするくらいで、それ以外は拾い切れてないですね。
J それだけの数がリリースされてるってことだもんね。これだけ増えちゃうと趣味だったヒップホップも仕事的な感覚になっちゃうんじゃないですか?
W そうなんですよね。よくないなと思いつつも、どこか義務感のようなものもありまして。
D でも、その作業工程の中に「きゃー! むちゃくちゃかっこいい!」って瞬間が訪れるわけですよね。
W それが楽しくて続けています(笑)。
J 数年前から「これからくるんじゃないか!?」と思わせてくれる地方のラッパーをディグるのが超好きで、「このアーティスト知ってる?」って志保さんに聞いたりするんだけど、「知らなかったです」って言われるとうれしいもんね。
――ヒップホップあるあるの「先に見つけましたマウンティング」ですね。
J 舐達麻が出てきたときなんか超盛り上がったもん。
W 私の旦那も同席で「舐達麻お茶会」やりましたもんね。
J こうして日本のヒップホップマーケットが拡大して、それを扱うメディアも増えてきていると思うんですけど、志保さん的にはどう映っていますか?
渡辺志保(わたなべ・しほ)
1984年、広島県生まれ。ヒップホップを主とした音楽ライター/ラジオ・パーソナリティ。国内外を問わずアーティストのインタビューやライナーノーツを手がけ、今回の対談当日はうっかり遅刻という薄いミスをかますも、音楽業界からの信頼は非常に厚い。ツイッター〈@shiho_wk〉 インスタグラム〈shiho_watanabe〉
W ニュースサイトをはじめ、個人ブログやYouTubeチャンネルで解説動画を公開されている方もいますが、ライターやフォトグラファー、まとめる編集者がチーム一丸となって「ヒップホップに心血注いでいます!」といった、かつてのヒップホップ専門誌『blast』(シンコーミュージック)のように誌面上でバトルが繰り広げられるような熱いメディアはないんですよね。だったら自分がやれよ、とも思うんですが、こうしてヒップホップの裾野が広がり、興味を持つ人口も増えて、「ヒップホップ入門」的に機能するメディアはたくさんあるものの、考察や議論を促すメディアがない。このままだとヒップホップがまたブームで終わってしまうんじゃないかと不安になっちゃいます。
D 以前の連載で来てもらったkZmの話で印象的だったのは、「そろそろヒップホップ・ブームの終わりが見えている」と言っていたことなんです。僕はそんなふうに感じていなかったけど、ど真ん中にいる彼が危惧しているなら、それは十分にあり得ることなんだろうなと。
W 産業的にいえば、「小波~中波が続いていて、ビッグウェーブが来るぞ! それが去ったあとには熱いものが残る!」という思いをめぐらせてはいるんですが、それってそもそも“去る前提”で考えてしまっているんですよね。その理由として、現在の日本のヒップホップシーンに明確なロールモデルがいないことが挙げられると思うんです。全国各地のフッド(地元)のキッズが憧れるロールモデルは存在するんですが、バリエーションが少ない。ラップは好きだけど「海外のアーティストは聴かない」「カルチャーには興味がない」という世代が増えてきているので、もっと自然な形で文化にも興味を持つ子が増えていけば健康的だと思うんですけどね。
D ね。ラップもうまいし曲も前衛的でかっこいいのに、なぜ教養を得ないんだ!……ってこれが「うるせぇおっさん」なんだろうなあ(笑)。
W もはや私もそう思われがちです……(笑)。
D だけど、知識も大事な要素ですよね。その知識が邪魔をするからなのか、若い子のリリックを聴きながらクラブで「イエー!」ってなれる自信がないんですよ。そんなことを話していたらJON-Eから「DARUMAさん違うっすよ、若い子たちのラップは映画を見ているようなファンタジーとして聴くんすよ。ほら、だって若者のストリートギャング映画って、めっちゃ面白いじゃないですか!」って言われて。
W ラップは若者が自分たちを表現するツールであることは間違いなので、一歩退いて「なるほどね、そうそう、こうした表現がね」と、親心的な気持ちで接しないといけないのかもしれません。私事ではありますが、去年出産しまして母ちゃんになったことも、少なからずパラダイムシフトを起こしている要因になっているんじゃないかと。なので、今後ヒット曲をどう受け止めていくのか、ティーンのラッパーのドラッギーな生活をどう受け入れていくのか、私自身の新たなフェーズだと感じています。
D たとえリリックの内容がそうであっても、出来上がった曲が魅力的でかっこいいサウンドだったりするわけで、そうしたときに子どもを持つ親として、国内での“ペアレンタル・アドバイザリー”の存在も考えちゃいますよね。
W 海外ではラジオでプレイするときはクリーン・バージョンですけど、日本はまだそうした対策はしていないですもんね。実際に子どもが知らない間に幼稚園で言葉にしてはいけないことを発したらどうしよう……とか考えちゃいます。
D うちの子どもは(曲の影響で)Fワード言っちゃったりしてる。
J 「意味を知らなかった」は言い訳にならない時代だもんね。
W 今後国内でもヒップホップが一層拡大するのであれば、歌詞に対してアドバイザリーのセンサーシップを作る措置も考えねばいけない。ジャンルは違いますが、Adoさんの「うっせぇわ」の歌詞が問題視されていたニュースを見たとき、過剰に反応しすぎと思ったんですけど、「こういう措置は取っていますよ、親御さん」という大義名分があればといいと思うんです。そもそもヒップホップに限らず、フラストレーションを晴らすための歌は必要だと思いますから。
J こういうやりとりって大事だと思うんだよなあ。志保さんが新たなフェーズに入ったのであれば、志保さんがタッチできない音楽をしっかりキャッチできる新世代の音楽ライターが登場するのもシーンの活性化につながるしね。
W ぜひぜひ。ラジオ番組もやっているので、そうした新世代の人を招いてディスカッションしていきたいですしね。
(構成/佐藤公郎)
(写真/岩澤高雄[The VOICE])
JOMMY(じょみー)
10代からストリートダンスを始め、東京のダンスシーン/クラブミュージックシーンを牽引する存在。〈DJ DARUMA & JOMMY〉として、2019年からスタートした新世代ハウス・パーティ『EDGE HOUSE』のレジデントも務める。Instagram〈jommytokio〉
DJ DARUMA(DJだるま)
ヒップホップの魂を持って世界各国のダンスフロアをロックするDJ/プロデューサー。DJ MAARとのユニット〈DEXPISTOLS〉として、EXILE HIROの呼びかけによって集結したユニット〈PKCZ®〉のメンバーとしても活躍。Instagram〈djdaruma〉