――SNSの一般化で、犯罪被害者やその関係者にまで、あらぬ噂が立つようになった昨今。すでに問題化している事件にはどのようなものがあるのだろうか?
『Black Box』(文藝春秋)
SNSの発達以前、犯罪被害者に対するバッシングは近所のウワサ話やあるいは5ちゃんねるなどのアングラな匿名掲示板で行われていた。しかし、SNSの一般化は誰もが情報発信をできるインフラを整えることによって、弱い立場の被害者を追い詰める「被害者バッシング」を招いている。
記事冒頭にも記載した山梨県道志村のキャンプ場の事件では、「育児疲れから美咲ちゃんを自宅で殺し、募金詐欺をした殺人事件」といったブログを投稿した男を名誉毀損容疑で逮捕。しかし、この男は法廷でも「小倉とも子が犯人じゃないっていう証拠がない」などと発言し、反省の色は見られていない。
また、被害者バッシングの典型例が、性犯罪被害に対するバッシングだ。元TBSワシントン支局長の山口敬之氏からの性暴力の被害に遭ったことを公表した伊藤詩織氏に対しては、SNS上で3万件以上のバッシングが行われ、マンガ家のはすみとしこ氏、元東京大学特任准教授の大澤昇平氏、衆院議員の杉田水脈氏といった人々が提訴されている。加害者とされている山口氏に対する民事訴訟で、伊藤さんの主張が認められたものの、山口氏側はその後控訴。一方で、伊藤氏については、21年現在でも「反日プロパガンダ女性」「売国奴」といった侮辱的な書き込みが続けられている状態だ。
19年に常磐道で起こったあおり運転事件は、車の同乗者である「ガラケー女」とともに報道され、社会的な関心を引いた。この事件で、東京の会社経営の女性が「ガラケー女」だとするデマが流れ、当時の愛知県豊田市議までもが、経営者の女性の顔写真とともに「早く逮捕されるよう拡散お願いします」とフェイスブックに投稿。その後、「ガラケー女」が捕まったことで、経営者の女性が加害者ではないことが明らかになったが、名誉毀損の慰謝料を求めるこの女性に対して、ネット上では「謝っているんだから許してやれ」「しつこい女」「金の亡者」といったバッシングの書き込みが相次いだ。
これらの事件には、すべてバッシングの対象が女性であり、かつ「被害を主張している」という共通点がみられる。被害者バッシングは、誰に対しても平等に起こるわけではなく、とりわけ主張する女性に対して向けられやすい。日本社会に根深くはびこっているミソジニー(女性蔑視)は、被害者バッシングにも影響を与えているようだ。