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「マル激 TALK ON DEMAND」【163】

【神保哲生×宮台真司×渡邉芳樹】自然体「スウェーデン流コロナ対策」の凄み

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『スーパーモデル・スウェーデン 変容を続ける福祉国家』(法研)

[今月のゲスト]
渡邉芳樹[元駐スウェーデン特命全権大使]

――新型コロナウイルスが猛威を振るう中、欧米諸国が強制力の強い行動制限を導入する一方、スウェーデンはこれらを行わず、コロナへの対応を国民の自主的な判断に委ねることを選択し、話題となった。だが4月以降、スウェーデンの死亡者数が急増したため、報道は批判一色に。今回は同国の政治や文化をひもときながら独自のコロナ対策の本質を見ていきたい。

神保 今回はずっと取り上げたいと思っていたスウェーデンのコロナ対策に注目してみたいと思います。スウェーデンは周辺国が軒並みロックダウン(都市封鎖)や外出禁止令を出す中で、頑なにそうした制限をせずに、世界でも独特なコロナ対策を行ってきたことが注目されてきました。しかし、日本のメディアでは、「あれは失敗だった」などという誤った情報が多く出回っていましたので、そのあたりのファクトもきちんと押さえたいところです。それと同時に今日、ゲストの方には、コロナ対策の話もさることながら、そのような独自のコロナ対策を貫くことができる、スウェーデンの成り立ちやお国柄や政治的な背景も、ぜひ聞いてみたいと思っています。ゲストをご紹介します。コロナや感染症学の専門家ではありませんが、スウェーデンの専門家においでいただきました。元駐スウェーデン大使の渡邉芳樹さんです。

 渡邉さんは毎日新聞に「コロナにもぶれぬ『自律』の国」として、スウェーデンのコロナ対策について肯定的な見解を寄稿されていました。スウェーデンにはコロナ対策を決定する上でのキーパーソンとして、疫学責任者のアンデシュ・テグネルさんという疫学者がいるのですが、渡邉さんの記事が出た段階では、日本では彼のコメントの一部が文脈とは無関係に抜き出され、かなり誤解されている面があったように思います。その意味でも渡邉さんの記事は重要だったと思いますが、まずあのタイミングで寄稿されようと思われた理由から聞かせてください。

渡邉 一言でいうと、半分恩返しの気持ちです。もうひとつには、このコロナを通じて、やはり社会の特質というものが炙り出される。そこでアメリカ及びイギリスを中心としたスウェーデン・バッシングは是正してやらなければいけないと思いました。

神保 まず最新のデータを見ていただきたいのですが、8月25日現在、スウェーデンは感染者数がおよそ8万人、死亡者が5813人。スウェーデンの人口は1010万人ですから、100万人あたりに換算するすると575人となります。これは今、世界で死亡者が断トツのアメリカの547人よりも多く、アメリカよりも死亡率が高いことになります。ヨーロッパの中ではドイツがとびきり優等生で、100万人あたり111人しか亡くなっていませんが、イギリスやフランスあたりと比べてもスウェーデンの死亡率はかなり高いといえます。ちなみに日本の100万人あたりの死亡者は9人です。

宮台 ただ、東アジアでは日本が最も多いほうですね。ほとんどの国は5人以下ですから。

神保 いずれにしても、この数値を見る限りスウェーデンは決して優等生とは言えませんが、実はスウェーデンは感染者の高齢者率がとても高いという特徴があります。そしてこれには理由があります。

 冒頭でご紹介したように、スウェーデンはロックダウンをしなかったことが世界から注目されましたが、その一方で、特に検査を推奨せず、もし熱や咳が出たらなるべく家にいることを奨励する政策をとってきました。実際、ほとんど強制的な措置はありませんでしたが、50人以上の大規模な集会はやらないことや、高齢者はなるべく屋外に出ないこと、仕事はなるべく在宅勤務にすること、などを推奨しています。小中学校は一斉休校などは一切行いませんでしたが、高校以上は元々オンライン授業が多かったので、コロナ後もそれは継続しているそうです。

 スウェーデンが特にアメリカやイギリスからの攻撃に晒されているのは、両国はロックダウンも休校もしているので、それをやらなかったスウェーデンがうまくいってしまうと、逆に彼らのとった施策が間違っていたことになってしまうからです。元々ロックダウンなどの強制的措置に対しては、経済的な影響が大きいという理由から、不満や反対が根強くありました。また、政府が民間企業や個人に対し、そのようなことを強権的に強いることに理念的に抵抗がある人も少なからずいたようです。

 だから、スウェーデンで死亡者が多く出てくれたことが、ロックダウンを実施した国にとっては朗報になっていた面があったことは確かです。しかし、後で詳しくご説明しますが、スウェーデンで当初感染者や死者が多く出た理由は、ロックダウンをしなかったからではなく、実は別の理由がありました。そして、テグネルさんがその理由ついて海外メディアのインタビューで「誤算だった」と認めたところ、世界中のメディアが、「スウェーデンのコロナ責任者が同国のコロナ対策が間違っていたことを認めた」と報じてしまいました。しかし、スウェーデンは4月に一時死亡者が急増しても、その原因がはっきりしていたので、ロックダウンをしないという方針を貫きました。そして、その原因部分にしっかりと手当てをした後は、感染者、とりわけ重症者や死者数が次第に減り始め、今では軽症者は出ていますが、ほとんど死亡者はいない状態になっています。一度もロックダウンをしていないにもかかわらずです。宮台さん、ここまでいかがでしょうか?

宮台 まず素人でもわかることとして、「症状が出たら自宅待機」というのが最も合理的なやり方です。それは「検査は陰性だが、本当は感染していて無症候であるがゆえにうつしてしまう」ということがどこの国でも起こりがちなので、マスクと同じように検査も過信しすぎては困る。スウェーデンが他の国と違うのは、マスクをしろと脅迫しないし、検査をしなければとも言っていない。それはテグネルさんの功績だと思いますが、完全な対策というものがないので、何かを過信することはまずいし、それゆえのバッシングもまずいと。そういうテグネル流の構えというものが、今のお話だけでもわかります。

渡邉 医療提供体制に負荷が大きいので検査は当初それほど多くなかったのですが、そういう時期は過ぎて、6月からは意図的に検査を増やしています。例えば、最寄りのプライマリーケアセンターで無料検査という政策をとった。当初陽性判定が増えましたが、それも次第に減少しています。問題は重症者と死亡者で、これは的確に下方に数字が刻まれていっており、今は死亡者がゼロという日も珍しくなくなりました。

神保 日本でも同じようなことがありましたが、一時感染者数が急増した原因のひとつが、検査数を一気に増やしたからでした。ただ、その場合は確認される感染者の数は増えますが、そのほとんどが軽症者で、重症者数や死亡者数はそれほど増えません。ただし、問題は感染者が増えたのを放っておくと重篤化したり、死亡するリスクが高い高齢者にうつしてしまう危険性があります。だから、その部分の手当てをきちんとしておかないと、結局、時間差で高齢者が感染してしまい、結果的に重症者や死亡者が増えてしまいます。

渡邉 本来のスウェーデン人には、三世代同居はほとんどありませんので、家庭内で若い感染者が高齢者にうつしていくメカニズムがありません。移民難民をめぐる特段の背景から4月に多くの要介護高齢者が感染し死亡したという事態がありましたが、それも乗り切りました。またPCR検査を増やしても、陽性者が増え、重症者が増えることにはなっていません。日本や他の欧米諸国が羨む状態です。

求められる強いリーダーシップ、そして情報の透明性

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