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「マル激 TALK ON DEMAND」【158】

【神保哲生×宮台真司×松尾 匡】世界の左派が掲げる反緊縮経済政策のトリセツ

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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財務省のHPに掲載されている、歳入(税収)と歳出を表すワニの口のグラフ。

[今月のゲスト]
松尾 匡[立命館大学経済学部教授]

――安倍政権が歴代最長の政権を維持できている背景には、常にアベノミクスに代表される経済政策がある。今回のゲスト、立命館大学経済学部教授の松尾匡氏は、アベノミクスの手強さを一定認めながらも、それに対抗する経済政策を提示することは十分に可能だと語る。それが左派による反緊縮経済政策だという――。

神保 今回は立命館大学経済学部教授の松尾匡さんをゲストにお迎えして、「アベノミクスに代わる経済政策」についてうかがいたいと思います。今回、先生のご著書を読ませていただいたのですが、これまでの我々の常識を覆すような新たな視点がいくつも含まれていました。中でも、国が税収を超える支出を続ければ、いつかは借金で首が回らなくなって破綻するという従来の財政規律という考え方は間違っているという指摘が、とても新鮮でした。我々は緊縮を謳う財務省に洗脳されているのでしょうか?

松尾 そうですね。経済学者は「得をすることがあるから動くのだ」と発想しがちで、よく怒られます。

 例えば、官僚は社会保障費のようなものがどんどん膨らんでいくと、裁量的に動かせる余地が少なくなっていき、権力を振るえなくなって困るから削ろうとするんだとか、民間がさまざまなものを代替することで大金持ちが得をするから動かすのだということです。社会学者から見たら駄目ですかね。

宮台 妥当です。僕は小室直樹先生に経済学を教わりましたが、緊縮財政といっても結局、増税路線を必ず突き進むことになると。この増税が実は財務省、旧大蔵省の非常に大きな利権になっているんです。

神保 緊縮が正当化できれば、歳出削減と同時に増税もしやすくなると。

宮台 マックス・ヴェーバーの考えでは、行政官僚はポジション争いをする人たちで、日本においてそのゲームの中身は、予算と人事の獲得なんです。行政官僚たちの頭の中に公益であるとか、国民のためにという考えはない。

神保 松尾先生は、新自由主義者たちが財政危機をプロパガンダとして利用していると指摘されています。僕らはこれまで歳入(税収)が減り歳出が増える「ワニの口」のグラフを嫌というほど見せられ、このままではいずれ借金が返せなくなって破綻するというシナリオを繰り返し聞かされてきましたが、まさにそれがプロパガンダなんだと。新自由主義者たちにはどんな動機があるのでしょうか?

松尾 要するに、財政危機という話にしておけばさまざまな社会サービスを削るという話になり、それを民間のビジネスが代替することになります。緊縮すれば、基本的に経済は停滞します。経済が活況で、失業者がいなくて人手不足になれば賃金を上げなければならず、労働者が言うことを聞かなくなってもクビにできない。だから大企業の人たちは「ある程度、失業者がいたほうがいい」と考える。つまり、大きな企業を支配している人たちや、グローバルなブルジョアジーにとって都合のいいことだから、新自由主義政策の一環として緊縮が推し進められてきたという面があると思います。

宮台 日本の場合は「民営化に際してどの企業を選ぶか」ということが、天下り先、あるいはキックバック的なものも含めた利権になります。それが非常に大きい。

松尾 そうです。経済学者の中でも、新自由主義の背景になっているような新古典派などは、むしろそういう裁量的な政府介入がいけないのだということでリーズニングしてきたはずなのに、実際にやっていることは正反対なんです。

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