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対中制裁の裏にあるアメリカの真の意図

日本全国で導入済!――中国製監視カメラ【米輸出規制】は手遅れ

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中国制裁対象企業と日本の気になる関係

ハイテク製品の開発で勢いを増す中国と、水をあけられ始めているアメリカ。人権保護や安全保障などを理由として、中国企業への経済制裁を進めている。だが、日本の大手企業や自治体ではすでに、中国ハイテク製品を導入し、協業したり、部品の納入が進められている。果たして、日本が今後取るべき道はどちらにある……?

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『AI・人工知能エキスポ』でのセンスタイムのブース。中国ではすでに深センの公安当局にもサービスを提供するほどの大企業となっている。

 暴力的な衝突の現場に幻想的なスモークや青と緑のレーザーが飛び交うさまは、何かのショーを見ているようだ。戦場と化した2019年秋の香港で、デモ隊の間で活用された“武器”のひとつに高出力のレーザーポインターがある。暗闇に包まれた街中を照らし、警官隊の視力を奪うためだけではない。街頭や地下鉄内などあらゆる場所に設置された監視カメラに照射して、内部のセンサーを焼き切って無力化することができる。

 監視カメラを潰すことは、デモ隊にとってハイテク監視国家・中国に対する抵抗の象徴でもあったのだ。

 中国は今や2億台以上の監視カメラを稼働させており、2020年代に6億台を突破する見込みだ。都市部においては自室以外ほぼすべての場所に監視カメラがあるほどで、個人のあらゆる行動を当局が把握できるシステムがすでに出来上がっている。一方で、AI(人工知能)技術を活用した顔認証が世界一普及するこの国では、地下鉄の改札から飲食店での決済、ホテルのチェックインまで、すべて顔認証で行われる。先進国が実現できていないテクノロジー社会が、“開発独裁”だからこそ実現できたと指摘する声は多い。

 こうした中、19年10月に発表された「対中制裁」が話題を呼んだ。米・商務省は中国・新疆ウイグル自治区に住むイスラム教徒のウイグル族やカザフ族に対する人権弾圧に関与したとして、中国の民間企業や政府機関を制裁措置の対象となる輸出規制リストに加えたと発表した。だがリストに加えられた企業は、いずれもAIを使った顔認証やビッグデータ解析、防犯・監視ネットワークを得意とする中国を代表する先端テック企業ばかりだったのだ。

 新疆ウイグル自治区は、“ジョージ・オーウェル”の予想を遥かに超えた監視社会の実験場と化している。街頭の監視カメラはもちろんのこと、行政サービス提供の名目でウイグル族住民にはスマホに専用アプリのインストールを義務づけ、顔写真登録や位置情報の提供をさせている。また“無料健康診断”と偽り血液や指紋、虹彩、遺伝子情報の採集も行っており、同自治区内では、9割の情報がすでに取得済みだという(「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」17年発表)。

 ウイグル族をめぐっては、職業訓練センターという名の強制収容所の存在が世界的に批判を浴びているが、国際調査報道ジャーナリスト連合が19年11月にスクープした治安当局の内部文書によると、AIを駆使した常時監視システムを利用して1週間で約2万人の不審者を特定し、うち約1・6万人を収容所送りとすることに成功したというのだ。

 高度なテクノロジーが独裁強化のために活用されている現実は、世界の人々に絶望を抱かせる。「自由と民主」を標榜するアメリカによる制裁も、こうした声にこたえてのことだろう。しかし、くだんの輸出規制リストに挙げられた企業を見てみると、違った一面が見えてくる。

「AI顔認証で世界有数の技術力のあるセンスタイム(商湯科技)、音声認識で米国勢を凌駕するアイフライテック(科大訊飛)などが入っていたからです。AI関係者の間では超有名な企業ですし、すでに日本にも進出したり、日本企業とも提携しています。制裁のニュースを聞いたとき、真っ先にアメリカの“中国ハイテク企業潰し”【1】だと思いましたね。性能が高くコスパが良いファーウェイの5Gが排除されたのと同じ構図でしょう」(工業専門紙の記者)

 制裁対象企業にはほかにも、監視カメラのシェア世界一のハイクビジョン(海康威視)や同2位のダーファ(大華科技)、さらにAIを活用した防犯・対テロ対策や金融から医療などインフラ管理システムを提供するイートゥー(依図科技)、ECガード(頤信科技)などが含まれる。

MEMO『米輸出規制』
中国とのテクノロジー開発競争が熾烈を極める中でアメリカは、部品などの輸出を制限。これらは、「中国AI企業つぶし」を狙ったものとして、米国内外からも批判を浴びている。

「制裁の真の意図には、急成長するパブリック・セキュリティ産業で中国勢を世界市場から排除したい思惑がある。米・カーネギー国際基金が最近、『(制裁された)中国の企業が世界60カ国の人権懸念国に監視システムを輸出している』と発表しました。ベネズエラやミャンマー、ジンバブエなど独裁システムを支えているという趣旨のレポートなのですが、米国も冷戦時代から今に至るまで独裁国に武器などを売りまくってるわけですから、完全な言いがかりでしょう。要は欧米企業と中国勢の世界シェアの奪い合いが起きているのです」(同)

 パブリック・セキュリティの世界市場規模は22年までに5324億ドル(約57兆円)に達すると予想されている(MarketsandMarkets調べ)。

「先進国で成長が期待できる分野は今や環境保護系とパブリック・セキュリティ系のみになっており、前者はグレタさんを、後者はウイグル問題を前面に立てた情報戦が行われている印象」(金融関係者)だと言う。

 カメラを含めた監視システムを手掛けるハネウェル、GE傘下のGEデジタル、監視カメラ大手のペルコなどの米企業が、今回制裁を受けた中国企業のライバルだ。いずれも米国防省や州政府との結びつきが強い。

 なお日本企業に関しては、NECやパナソニックの独壇場で、前者はすでに世界約40カ国に500以上のパブリック・セキュリティ関連システムを輸出しており、後者は監視カメラの世界シェアで上位を占める。アメリカによる中国ハイテク企業制裁は日本の“国益”にもかなうという見方もある。しかし、話はそう単純ではない。

「昨年、東京で開かれた『AI・人工知能エキスポ』では、センスタイムが大きなブースを出展して日本進出をアピールしていました。同社の持つ画像認識技術は性能も高く、ホンダや商船三井、DeNAなどと共同開発や提携を行っています。京都市や常総市などとも連携しており、自動運転分野などで今後、日本の自治体に積極的に売り込んでいくはずです。一方、監視カメラに関してもダーファの製品は日本国内に代理店が多数あり、例えば東京・青砥などをはじめとした全国の商店街などですでに運用されています。商店街などで監視システムを作る場合、国産・米国製よりはるかに安いコストで導入できるのです」(前出の記者)

 さらにハイクビジョンに関してはソニーやシャープが、画像センサーなどカメラ部品を供給していることが明らかになった。商業面でも治安維持という面でも、日本はむしろ制裁対象となった中国ハイテク企業の恩恵を受けているのだ。

 安全保障や人権を理由にグローバル市場になだれ込む中国製を食い止めようとするアメリカ。既得権者の強固な抵抗や開発資金の少なさ、決断スピードの遅さがイノベーションの足を引っ張る日本において、今のところ中国製の製品やサービスの部分的導入は新しい成長をもたらす唯一の近道となっているのだ。日本は厳しい選択を迫られることになるだろう。

(出水鴻正)

【1】アメリカの“中国ハイテク企業潰し”

制裁対象になった8社は以下。
●Hikvision(海康威视)/ハイクビジョン(海康威視)
防犯・監視カメラシステム・ネットワークを提供。監視カメラの世界シェア1位。
●Dahua Technorogy(大华科技)/ダーファ・テクノロジー(大華科技)
防犯・監視カメラシステム・ネットワークを提供。監視カメラの世界シェア2位。
●SenseTime(商汤科技)/センスタイム(商湯科技)
AIを活用した顔認証システムを提供する企業。自動運転分野ではホンダとの共同開発も。
●Megvii(旷视科技)/メグビー(曠視科技)
AIを活用した顔認証システムを提供。同社の顔認証ソフトウェア「FACE++」は世界的に有名。
●iFLYTEK(科大讯飞)/アイフライテック(科大訊飛)
AIを活用した音声認識ソフトウェアを提供。技術力は世界トップレベルと言われている。
●YITU(依图科技)/イートゥー・テクノロジー(依図科技)
顔認証システムのほか、AIを活用した防犯・医療・金融システムを提供。
●Meiya Pico(美亚柏科)/メイヤピコ(美亜柏科)
ネットの検閲システムやデジタルセキュリティ関連システムを提供。
●Yixin Science(颐信科技)/ECガード(頤信科技)
AIを活用した防犯設備や対テロ対策システム、通信設備などを提供。政府や軍との関係が深い。

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