サイゾーpremium  > 特集  > 社会問題  > 荒木経惟#MeToo騒動の論点【5】/【田中東子】フェミニズムとアラーキー

――エロティックな女性ヌードなどで知られ、世界的な評価も高い写真家・荒木経惟。長年、彼のモデルを務めてきたKaoRiさんによる告発が、「#MeToo」のひとつとして世間をざわつかせた。ただ、この騒動をめぐる議論は錯綜している。そこで、本当に語るべき論点を整理し、問題の本質に迫りたい。

田中東子(社会学者)

たなか・とうこ 1972年生まれ。大妻女子大学文学部准教授。専攻はメディア文化論、カルチュラル・スタディーズ、ジェンダー・スタディーズ。著書に『メディア文化とジェンダーの政治学―第三波フェミニズムの視点から』(世界思想社)がある。


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『Araki: Love and Death』(Silvana)には水原希子のカットも収録。

 ポルノグラフィは、フェミニズムの大きなアジェンダのひとつです。日本では80~90年代に、ポルノグラフィに批判的なキャサリン・マッキノンやアンドレア・ドウォーキンなどラディカル・フェミニズムの議論が広まりました。女性のセクシュアリティとその身体を搾取するポルノグラフィは、たとえ世間から“アート”とみなされていてもすべて悪であり、人権蹂躙だと多くのフェミニストが主張してきました。

 それに対して、女性だってセクシュアルな欲望を抱いてポルノグラフィを消費しているし、自ら主体的にセックス産業に従事する女性もいる以上、女性すべてが性的な活動やポルノグラフィにかんして主体性のない被支配的な存在であるわけではないと主張する人もいて、どちらが正しいのか決着はついていません。

 ちょうど反ポルノグラフィの議論が日本に持ち込まれた時期に荒木さんは売れっ子になりましたが、彼が撮るヌード写真は女性の人権や発言を奪った上で成立していたのだと、先日、告発されました。その背景にあるのはインターネットの言論空間。当時は何も言えなかった女性が、ネット時代に声を上げ、それを広く伝えられるようになりました。アメリカで始まった「#MeToo」運動の事例を見ればわかるように、同国の映画産業でのハラスメントの告発運動と日本での出来事に、SNSが時間的にも空間的にも連続性を生み出しているように感じられます。ネットが普及する前の時代、フェミニズムの思想は海外留学できるエリート女性が学習し、持ち帰ることで日本にも広まり支持を得ましたが、欧米の最初の運動から日本に伝わるまでにかなりの時差があったんです。でも今は、タイムラグがあまりない。しかも、それは一部のエリートや社会の中で困窮する女性だけの行為ではなくなり、働く女性が会社で感じている不満などを手軽に発信できるようになった。そうして声を上げやすくなった時代の空気の中で、KaoRiさんも荒木さんを告発したところがあるでしょう。

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