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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現』(日本経済新聞出版社)

[今月のゲスト]
野口悠紀雄[早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問]

14年に仮想通貨取引所のマウントゴックスで約470億円のビットコインが消失し、今年に入ってもコインチェックから約580億円の仮想通貨「NEM(ネム)」が流出した。これにより、「やっぱり仮想通貨は危ない」との印象を強くした人も多いだろう。だが、仮想通貨やブロックチェーンは新しい可能性を秘めていると野口悠紀雄氏は語る。

神保 今回は今話題になっている仮想通貨と、それを支えるブロックチェーンという技術について、掘り下げてみようと考えています。

宮台 中央銀行、あるいは国が信用を支えるようなタイプの通貨ではない、仮想通貨。コインチェックという取引所が、約580億円相当のNEMという仮想通貨を不正に引き出された問題が話題になっていますが、僕もTBSラジオ『デイ・キャッチ』で語ってきたように「人に関する問題」と「技術に関する問題」を分ける必要があり、今回の事件で直ちに「仮想通貨に技術な可能性がない」ことにはなりません。でも素人にはそのあたりの見極めが難しいですね。

神保 今回は仮想通貨の第一人者で、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄先生にお越しいただきました。昨年12月に野口先生が出された『入門 ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)という本を参考にしました。野口先生は昨年1月にも『ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現』(日本経済新聞出版社)を出されていますが、野口先生が「仮想通貨」よりも「ブロックチェーン」という言葉をより強調されるのは、何か理由があるのでしょうか?

野口 ビットコインの基礎にあるのはブロックチェーンという技術であり、つまり仮想通貨はその応用です。そのほかにも多くの応用が考えられ、そちらのほうで将来の世界を大きく変えていく可能性がある。ビットコインだけでブロックチェーンのことを判断したら間違いだ、ということですね。

神保 冒頭で触れたようにコインチェックの事件が起こり、ここにきてあらためて仮想通貨に注目が集まっています。2014年にもマウントゴックスという取引所で、約470億円分のビットコインが消失した事件があり、「やっぱり仮想通貨は怖いんだ」と受け止めている向きも多いように思います。

野口 一般の方がそのように誤解している面は、確かにあります。しかし、マウントゴックスのときには大新聞すら取引所の問題とビットコインそのものの問題を混同し、一面トップで「ビットコイン破綻」などと書いたところが、今回はさすがに、新聞のレベルではそのような誤解はありませんでしたね。

神保 これは野口先生のダイヤモンド・オンラインの記事からの受け売りですが、今回コインチェックから流出したNEMという仮想通貨を管理しているNEM財団のロン・ウォン氏は、「NEMのシステム自体はなんの影響も受けていない。したがってフォークしない」「すべての取引所が、マルチ・シグネチャ方式を採用することを勧告する」「世界市場最大の窃盗だ。犯人を突き止めるために最大の努力を行う」と語っています。

 まず、この発言の意味を理解することが、ブロックチェーンを理解する近道なのかなと思いました。

野口 ここが最も重要なのは、運用システムに問題はなく、その外にあるコインチェックというイチ取引所が問題を起こした、ということです。現金輸送車が強盗に遭ったからといって、日本銀行券の価値が下がるわけではありません。また、あとでご説明しますが、ブロックチェーンの仕組みの中では、不正は事実上できない。

神保 それでは、「したがってフォークしない」というのは?

野口 「フォーク」というのは「分岐」という意味で、仮想通貨は運営者がすべて同意すれば、歴史を書き換えることができる。つまり、流出前にさかのぼり、歴史を書き換えてしまうこともできなくはない。しかし、ロン・ウォン氏が言っているのは、「我々の問題ではないのだから、それはしない」と。

神保 ウォン氏が「すべての取引所が、マルチ・シグネチャ方式を採用することを勧告する」としているのは、逆に言うと、今回の事件の舞台となったコインチェックという取引所は、その方式を採用していなかったということですね。

野口 そうですね。2つの署名がないと送金できないようにするのがマルチ・シグネチャ方式です。NEM財団は独自にそれを開発して、世界中の取引所に「採用しなさい」という勧告を出していた。しかし、コインチェックはそれをしなかった。

神保 野口先生は、そもそも仮想通貨を取引所に預けっぱなしにしているのが問題だと言われていますが、それは仮想通貨は自分自身で管理すべきだということでしょうか?

野口 そうです。多くの人が、面倒だから取引所に預けっぱなしにしている。実は、マウントゴックス事件の最大の教訓はそこで、本来は「ビットコインはダメになった」ではなく、「取引所に預けっぱなしにしていたら危ない」と報じられるべきだった。

宮台 仮想通貨は物質的なモノではないので、「自分で持っている」というのがどういう状態かが伝わりにくいかもしれません。

野口 「ウォレット」という電子財布に入れて、送金に必要な「秘密鍵」を自分で管理する、ということです。最も安全な方法は、そのウォレットをインターネットから切断するのはもちろんのこと、紙に印刷して金庫に入れておくこと。

神保 それはパスワードみたいなものですか?

野口 20数桁ほどの数字と記号で、取引所との間のパスワードは、銀行のATMのようにずっと簡単なものです。

宮台 驚きですね。今は銀行でも、オンラインで振り込みする際にはリアルタイムで送られてくるワンタイムのパスワードを使ったり、2段階認証したりしているのに、簡単なパスワードだけで管理しているとは。

神保 続いて、「犯人を突き止めるために最大の努力を行う」という部分は、彼らが犯人を突き止める手立てを持っていることをうかがわせるような発言ですね。

野口 ビットコインもそうですが、仮想通貨はすべての取引がブロックチェーンという台帳に記録され、それを誰でも見ることができます。ですから、仮想通貨がどのアドレスからどのアドレスに移ったか、ということは追跡できる。

 ただ、先ほどの秘密鍵から作られる暗号があるため、そのアドレスを持っているのが誰か、ということは関連付けることができない。しかし、暗号も完全なものではないので、FBIが本気で追跡して、突き止められたケースもあります。

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