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友達リクエストの時代【第11回】

若者たちを覆い尽くす「コミュ力万能思想」に物申す

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SNS隆盛の昨今、「承認」や「リクエスト」なるメールを経て、我々はたやすくつながるようになった。だが、ちょっと待て。それってホントの友だちか? ネットワーク時代に問う、有厚無厚な人間関係――。

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『コミュ力』

 個人的な話をすると、私は田舎に住んだことがない。

 生まれてこのかた、50数年の人生のほぼまるごとを、東京の場末のゴミゴミした町で暮らしてきた。

 一度だけ、20代の頃に、大阪で一人暮らしをしたことがあるのだが、その折に、ほんの半年ほど住んでいたのも、大阪の中心地から地下鉄で20分ほどのところにある町中のアパートだった。

 だからなのかどうなのか、私は、人口密度の低い土地が苦手だ。海も山も、観光で通りかかる分には好きだし、広い空の下にいると、気分がせいせいすることも確かなのだが、そういう場所に3日もいると、もう帰りたくなる。この時の気持ちは、恐怖感に近い。あるいは、広所恐怖みたいなものが若干介在しているのかもしれない。とにかく、都会の何が好きだというわけでもないのだが、人の気配が希薄な環境の中に投げ込まれると、どういうものなのか、急激な寂寥感に襲われて逃げ出したくなるのだ。

 電車の窓から、谷間の集落の小さな屋根だとか、雪国の夜の底に光っている一軒家の窓を見ると、

「ああ、こういうところにはオレは住めない」

 と、つくづく思う。

 もっとも、人混みが大好きだというわけでもない。

 休みの日に渋谷あたりに出かけると、2時間でオーバーフローの状態になる。特に重労働をしたというわけでもないのに、大勢の人間が集まる空間を歩きまわると、それだけで、人疲れしてしまうのだ。

 要するに、対人的な設定についての要求が細かいのだと思う。こういう性質を「繊細」というふうに表現して積極的に評価することも可能ではある。が、最近はあまりそういう言い方はしてもらえない。

 昨今の風潮では、この種の対人的な適応能力の低さは「コミュ障」(←「コミュニケーション障害」の略らしい)という言葉で切り捨てられる。

 むごい言い方だと思う。

 が、この言葉は、無慈悲な決めつけである一方で、非常に使用頻度の高い、強力な差別用語になっている。

 で、若い人たちは、自らのコミュニケーション能力(これにも「コミュ力」というイヤな略語がある。「こみゅか」ではない「こみゅりょく」と読む。読みにくさといい、発音のしにくさといい、実に劣悪な用語だと思うのだが、それでも、とてもよく使われている)を高めるべく、セミナーに通ったり、ビジネス書籍を買い集めたりしている。

 バカな話だ。が、バカな話ではあっても、「コミュ力万能思想」は、この国をすっかり覆い尽くしている。

 原因は、おそらく、長らく続いた20年来の不況と、その間に定着した就活ミッションの異様な過酷さに由来しているのだと思う。

 そんなこんなで、意識の高い学生は、自分が気さくで、フレンドリーで、友だちの多い、快活で、ポジティブで、機転の効く、輝くような若者であるというふうに見せかけるべく多大な努力を払っている。

 なんと哀れな話ではないか。彼らは、そういう島耕作の若手時代みたいな青年でないと企業に評価されないと思い込まされているのだ。

 今回は、コミュ力の話をする。

 私自身は、先ほどの話とは別に、実際にはまるでコミュ力のない人間ではない。やればできるといえば、やればできないこともない男ではある。

 が、やりすぎると壊れるということもまた事実ではあるわけで、結局のところ、

「その気になればそこそこ器用に人当たりの良い人間を演じることも可能なのだが、そういう無理を続けていると、じきに神経がイカれてしまう」

 ぐらいのところを、行ったり来たりしているわけだ。

 まあ、因果な性分だということです。

 それでも、私が若い者であった時代、コミュ力の低さは、必ずしも致命的な欠点とは見なされていなかった。小難しい本を読んで暗い顔をしている男が女にモテる時代は既に終わっていたが、それでもまだ、

「明るいだけのヤツはバカだぞ」

 という思想は、根強く残存していた。

 であるからして、就職面接でうまく自分を表現できない寡黙で不器用な学生であっても、寡黙さに見合った勤勉さを期待されたりつつ、それなりに評価されていたものなのである。

 若い人間の多くは、一定のタイミングで、死になくなるような暗い気分に襲われているものだ。これは、昔も今も変わらない傾向だ。というのも、若いということは、ほぼそのまま「心細い」ということだからだ。

 とすれば、若い者が暗い顔をしているのは、本当はごく当たり前なことで、むしろ、あらまほしき、正常な反応といっても良い。

 ところが、この国は、ある時期から、暗い若者の評判が急激に悪くなり、孤独な青年は孤独であることを理由に排除されるという、どうにも八方塞がりな世界になってしまった。

 と、前向きで快活な人間でないと、社会人として失格だといった風潮が定着せずにはおらず、かくして、若者は明るくなったのである。

 本当に明るくなったのか、単に明るいふりをするようになっただけなのか、そこのところはわからない。

 が、ともあれ、態度についてだけいうなら、2010年代の若者は、私が若者だった時代の若者とくらべて、3割増しぐらいの感じでフレンドリーになっている。

 全体として、無理にでも明るくふるまう負荷がかかったことは、あるいは、世の中のためには、良いことだったのかもしれない。

 でも、弊害もある。

 一番のデメリットは、若い人たちの間に、奇妙な格差が広がっているように見えることだ。

 ここでいう格差は、必ずしも経済的なものではない。強いていうなら、「人脈格差」といった感じのものだ。

 私の見るに、ごく一部のやたらと調子の良い世渡り上手の兄ちゃんと、それ以外の戸惑いながら生きている普通の若者の間には、ある不穏な溝が刻まれつつある。もしかすると、この傾向は、とても感じの悪い未来につながって行くかもしれない。

「オレ、3年以上行き来のない古い名刺は、悪いけど捨てちゃうよ。人脈はストックじゃなくてフローだからね。そうやって自分の人脈をアップデートしてないと、相手にも失礼でしょ?」

 的な、およそぶん殴りたくなるようなツイートをカマしながら、それでいて権力のあるおっさんたちにけっこう可愛がらている若者がいるかと思うと、反対側の極には、他人と話す時に決して相手の目を見ることのできないタイプの若い人が増殖していたりする。

 結論を述べる。対人折衝能力は、重要な能力ではあるが、うさんくさい資質でもある。だから、うちの国のような流動性の低い社会では、長い間、「軽薄才子」の人格属性として、軽んじられていた。

 が、時代のスピードが加速し、社会構造や情報環境が千変万化することになった世の中では、多くの職業がサービス業化し、手を使ってモノを作ったり、足を使って商品を運んでいる人間よりは、口先を以って差益をカスる人間のほうが優遇されるようになっている。

 かくして、ナンバーワンホストにコミュ力を学ぶみたいなセミナーが客を集める、どうにも不愉快な時代が来てしまったわけだ。

 職業柄、編集者と行き来することが一番多いのだが、この20年ほどの彼らの変化について言うと、平成以降入社の比較的若い世代の編集者は、それ以前の編集者に比べて圧倒的に腰が低い。

 私自身が馬齢を重ねて、先方にとって年長の存在になったということを差し引いて考えても、マナーの根本が、銀行の窓口の人間じみてきているのだ。

「かしこまりました。至急手配します」

 と、こんな言葉づかいは、20世紀の間は、聞いたことがなかった。特に大手の出版社の社員は、おしなべて、非常に「感じの良い」若者が多い。というよりも、なんだか呉服屋の手代さんみたいに物腰がこなれていて、私は、いつも圧倒されるてしまうのである。

 おそらく就職倍率の高さがああいう空気を読む能力に長けた、流線型の編集者を生んでいるのだと思う。

 彼らの態度がいけないというのではない。

 感じが良いことは、良いことだ。

 ただ、わがままをいわせてもらえればだが、編集者との間で、時に殺伐とした会話をかわさなければならない立場の人間としては、彼らのあの余裕の構えは、なんだか小面憎いのである

 大きくない出版社の編集者の、おどおどしていたり、ぶっきらぼうだったり、不器用だったりする電話をもらうと、私はほっとする。

 人間というのは、不完全なものだよ。

小田嶋 隆(おだじま・たかし)
1956年、東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。営業マンを経てテクニカルライターに。コラムニストとして30年、今でも多数の媒体に寄稿している。近著に『小田嶋隆のコラム道』(ミシマ社)、『もっと地雷を踏む勇気 ~わが炎上の日々』(技術評論社)、『場末の文体論』(日経BP社)など。

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