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第1特集
【特捜座談会】防衛利権もキヤノンも尻切れに......しかも、小室事件はマッチポンプ!?

小室逮捕で満足する特捜検察 トップ交代で次に狙う大物は?

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──日本最強の捜査機関「特捜検察」だが、近年は大物政治家や財界人の摘発が少なく、最大のトピックといえば、ジリ貧の小室哲哉の逮捕くらい。08年も防衛利権やキヤノンの疑惑が注目されたが、尻切れトンボ状態に。強きをくじくべき特捜の体たらくを現場記者たちが叱咤する!

[座談会出席者]

A......全国紙社会部デスク
B......司法クラブ記者
C......週刊誌事件記者

A さっそくだけど、昨年2008年の後半を彩った特捜検察事件の総ざらいからいこうか。

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B ようやく、あの防衛フィクサーが捕まったね。疑惑の防衛商社「山田洋行」など数社から3年間にわたってコンサルタント料2億3000万円を受け取りながら申告せず、7000万円余りを脱税した疑いで、秋山直紀が7月下旬にご用となった。

C 秋山は、いかにもフィクサー然としていたね。自民党の大物議員たちが事務所を構える国会議事堂裏の高級マンション「パレロワイヤル」の最上階11階に事務所を持ち、美人秘書を何人も雇い入れて、低音を響かせるコワモテの話しぶりだった。「日米平和・文化交流協会」専務理事として、福田康夫ら歴代首相や久間章生ら防衛族をはじめ、米国要人も理事に迎え、ミサイル防衛構想を推進した大物だった。

A でも、フィクサーはあくまでフィクサー。肝心の政治家の摘発は不発だったじゃないか。

B 確かに。元防衛事務次官の守屋武昌が捕まったのが07年11月。これを「防衛汚職・官僚ルート」と位置づけた特捜部は、「防衛汚職・政界ルート」の足掛かりとして秋山を昨年の年明け早々に逮捕し、じわじわと政界ルートに突き進むはずだった。

C そのつもりで、私は「政界ルートの最終ターゲットは『原爆はしょうがない』発言で辞めた久間章生前防衛相!」って、雑誌の見出しまで用意していたんだから(笑)。

B 久間ルートは確かに狙っていたんだ。九州や沖縄に検事を派遣して、山田洋行もかかわった港湾事業だとか、米軍再編に絡む米兵住宅建設利権などを捜査していた。そうそう、久間の地元・長崎の地元銀行にも事務官が訪れ、口座をいくつも調べ上げたりも。なぜかというと、久間がタイの投資話に乗っかった疑惑があって、その投資資金や収益を調べたようだ。あとで話題になると思うけど、いま特捜部がやっている西松建設事件も、舞台はタイ。あれも久間につながるという話だよ。

新特捜部長は長銀事件で大失態

A 前の特捜部部長、八木宏幸は昨年1月早々に秋山逮捕に踏み切り、いち早く久間ルートに進みたがったのに、当時の検事総長の但木敬一は、通常国会中だったことを理由に「国会に火種を与えることはできない」と逮捕の許諾を拒んだんだ。しかも、八木を宮崎地検検事正に飛ばす人事も画策していたね。

B "永田町の傀儡"と呼ばれる但木の執念は、すさまじかったね。八木は5月下旬にも、再び秋山にチャレンジしようと決裁をもらおうとしたら、「脱税額が低い」と難癖がつき、これも一蹴された。あの頃の八木は、辞表を忍ばせていたんだ。結局、6月末で福井の検事正に異動。秋山逮捕の手柄をモノにしたのは、後任の佐久間達哉。特捜経験はあるけど、今や永田町寄りの法務官僚派。八木とは正反対の人物といわれるようになったね。

C 八木が事件にできないものを、着任したばかりの佐久間が挙げるなんて「変だ」と、事件記者なら誰もが感じたよ。実際、久間にも届かなかったわけだし。八木が飛ばされ、不満タラタラの現場の"ガス抜き"をしたというのがもっぱらのウワサだよ。

A ここで、7月に着任した佐久間部長の人とナリを検証しておく必要があるね。佐久間は10年前に特捜部に配属され、4大証券による総会屋への利益供与事件に取り組んでいるね。その後、日本長期信用銀行の粉飾決算事件(98年)では主任検事になり、頭取ら3人を逮捕したんだが、08年になってこれが無罪判決を受けた。

B その無罪判決が最高裁で出たちょうどその頃に、佐久間は特捜部長に着任しているんだ。最高裁は「もう審理する必要はない」と検察の上告を門前払いにし、検察の面目を丸つぶれにした判決だよ。

C よくもそんなキャリアの検事を特捜部長なんかにしたもんだ。

A ここに、佐久間特捜部の誕生のナゾが浮上してくるわけだが、その答えをひとつ。彼を特捜部長に任命したのは、東京地検トップの岩村修二検事正。彼こそ、長銀事件を特捜部ナンバー2の副部長として担当した責任者なんだ。長銀の頭取たちを逮捕した頃、岩村は「将来の特捜部を背負うのは佐久間しかいない」と絶賛だった。2人はあれ以来のコンビだから、無罪判決なんて我関せずなんだろうね。

B 長銀事件というのは、破たんした責任を当時の経営陣にだけ押しつけ、スケープゴートにしたことから、検察ぐるみの「国策捜査の走り」といわれた。でもね、岩村も佐久間も「捜査効率」を優先させるところが似ていて、あらかじめ決められた答え通りに事件化するクセがある。その答えが大きく外れ、無罪を出してしまったんだから、大きな疑獄に発展する可能性があっても、このコンビでは事件を小さく小さくまとめようとするんじゃないか。その第1弾が、政界ルートなしの防衛フィクサー・秋山直紀の逮捕劇なんだよ。

C それよりも、法務・検察は、政界ルートをやらせないために佐久間を特捜部長に任命したんじゃないの。だって、知ってる? 佐久間は、長銀の頭取たちを逮捕した後、法務省に異動して、人権擁護局調査課長を4年もやっているんだ。ここで、メディア規制をふんだんに盛り込んだ悪名高き人権擁護法案を作ったわけ(同法案は03年に廃案になったが、再提出を検討中)。

A この法案は、たとえ社会正義をうたう報道であっても、人権上の被害があると認められたら規制をかけることができるんだったね。「人権」の定義があいまいで、政治家にも有利に働くいわく付きの法案だった。佐久間はメディアに対してマイルドな印象があるけど、やってることは結構エグイいんだよね(苦笑)。

C メディア受けするといえば、大阪地検特捜部が11月に仕掛けた小室哲哉の逮捕劇。音楽著作権800曲を譲渡するといって5億円を個人投資家から受け取ったんだけど、本当は他社に全部譲渡されたものを二重譲渡しようとして詐取しちゃったわけで、借金苦に苦しむ小室のなれの果てがクローズアップされた事件だった。東京特捜部がサエないのをよそに大騒ぎになったけど、逮捕の前の週にはすでに着手情報がマスコミにダダ漏れだったよね。

A あれって、大阪特捜部長に近い、あるヤメ検が持ち込んだ案件だったんだ。このヤメ検は、同和事件で騒がれたあのハンナン事件のとき、弁護人についた大物。どうも、今度の小室事件は、大阪地検特捜部が手柄を取りたいために大物ヤメ検と仕組んだマッチポンプのような気がする。わざわざ特捜部が手掛けるような案件とはいえないのに、被害者からの刑事告訴を喜々として受け入れたきらいがあるからね。

C なるほどね。だから、小室に同じようにだまされたと主張するイーミュージックなどの第2、第3の企業が刑事告訴の動きを見せたのに、このときは検察に相手にされなかったわけだ。

B 木から落ちた猿を叩くような真似はよして、大阪特捜部は目の前にいるトンデモ府知事の周辺をしっかり捜査してほしいね。政界捜査なんて、すっかり音沙汰ないんだから。

A マスコミ批判も激しい知事だけど、そこまで言うことはないだろう。ただ、大阪特捜は橋下知事が就任したとき、実力不明のタレント知事が気に入らなかったのか、「(強制わいせつ罪で起訴した)横山ノックのときみたいになるかもしれん」と息巻いてたからね。府民の支持率が落ちると、検察に付け入れられるかもしれないな。

09年注目は西松建設 裏金1億円が政治家に!?

A 期待度はいまひとつの東西特捜部だけど、09年に検察が取り組むはずの事件をここでみていこうか。

C ほら、小泉政権の悪弊をうがつ事件になるとウワサだった「クールビズ疑惑」の行方は?

B 小泉政権時代、地球温暖化対策のひとつとして環境省が呼びかけた「クールビズ運動」のことだね。この広報事業を請け負った博報堂の役員と、環境省の担当局長クラスの癒着があったという話。実際、佐久間が特捜部長になったばかりの頃、環境省の局長クラス周辺に家宅捜査を入れているんだが、まだ結果が出るには時間がかかるみたいだね。

A 日本経団連会長の御手洗冨士夫が率いるキヤノンの大分工場事件も、もう1年もたつが一向に動きがない。脱税容疑のかかった御手洗の周辺者から消えた資金が、同和団体の関係者に吸い取られていたという話で、どうも筋悪らしい。それに、不景気が深刻になり、輸出産業の雄であるキヤノンを叩くことに検察が弱腰になっているという情報がある。すると、本命はやっぱり......。

B 西松建設事件だね。特捜部は昨年11月に20カ所を捜索し、本社や社長宅まで手を掛けたんだが、それには訳がある。ODA事業を獲得するため裏金を4億円作り、タイのサマック首相(当時)を買収した疑いが出たんだ。しかも、そこで作った裏金のうち、国内に1億円が持ち込まれた疑惑もあり、日本の政治家にばらまかれたのではないかと。

C 関西地区選出の自民党大物議員たちに、カネをばらまいたといわれているね。彼らと西松建設をつないだ「S」なる政界フィクサーも浮上し、海外に逃亡したとも聞いた。

A いや、Sはもう帰国したらしい。特捜部がずっとマークしているよ。ところで、東京以外の検察はどうなの?

B 名古屋地検が政界ルートを狙っている。地元選出で民主党の前田雄吉衆院議員がマルチ業界から寄付金や講演料名目で1000万円近いカネを受け取り、マルチ商法を擁護する国会質問をしていた問題。前田議員が付き合っていたマルチ業界には、民主党の石井一副代表や山岡賢次国対委員長もベッタリだったから、もし事件化したら国会を揺るがすことにもなりかねない。ただ、名古屋特捜部にそんな力量があるのかどうかが、問題だが。

A いずれも、期待値は低そうかな(苦笑)。本誌の誌面活性化のためにも、ぜひでっかい事件の花火を1発上げてほしいものだね。

(構成/編集部)

特捜検察最大の"敵"が消えた!?
捜査派の検事総長が誕生 今こそ特捜部の力量が試される!

 検察ウオッチャーにとって08年に起きたショッキングな"事件"といえば、特捜部長の交代劇だったことに間違いない。しかし、それと同じくらい重要な人事交代が検察庁内外の注目を浴びていた。6月、「検察のがん」とまで揶揄された但木敬一に代わり、特捜経験のある樋渡利秋が検事総長に就任したことだ。  検事総長といえば、最高検察庁のトップとして、東京地検特捜部をはじめ全国にある地方検察庁と高等検察庁の上に立ち、絶対的な権限を持つ。裁判官のようにそれぞれの「独立」を認められない検察官は、「検察一体の原則」に従って上層部の決定に従うしかない。極端な話をすれば、地方の殺人事件ひとつから中央政界の汚職まで、検事総長1人の差配で起訴もできれば、逮捕を断念することだってできるのだ。

 実は、法務省の経験ばかり長いことが検事総長の要件に思われてきたが、樋渡は違う。検事生活40年のうち10年近くも東京地検特捜部に籍を置き、戦後最大級の疑獄「リクルート事件」を担当。旧文部事務次官を逮捕し、さらに文教族として知られた元官房長官・故藤波孝生も立件、政界ルートを切り開いた立役者だった。異例の検事総長誕生といっていいだろう。

 捜査派の経歴を持つ検事総長が誕生したのは、ロッキード事件の主任検事、吉永祐介以来だけに、弱腰の佐久間特捜が大化けして"できる特捜部"になるとしたら、樋渡総長の支援の結果だろうと期待も寄せられる。というのも、防衛フィクサーの秋山直紀を逮捕できたのは、検事総長が交代した直後のことだからだ。

 本文にある座談会では「政界ルートなしのガス抜き」と酷評しているようだが、秋山立件を阻止した但木がいなくなり、樋渡がゴーサインを出しただけのこと。そこから先、政界ルートに進めないのは、ひとえに特捜部の力量のなさに起因するのではないか、という声もある。


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