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クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第53回

【クロサカタツヤ×宍戸常寿】漫画村が開けた「ブロッキング」のヤバさを当代一の憲法学者に聞く

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

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●罪種別の被害児童数の推移(SNS)
出典:「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」(警察庁)

――「ブロッキング」と聞いてもなんのことやらという読者も、「漫画村」なら知ってるはず。ここ数カ月にわたり世間を騒がせていたマンガやアニメの海賊版サイトの問題。しびれを切らした出版社の働きかけで政府も対策を打ち出した。ところが今度はその対応策「ブロッキング」に法律家や通信事業者が猛反対。「漫画村」に端を発した「ブロッキング」と「著作権」と「通信の秘密」のこんがらがった議論を、当代一の憲法学者に解きほぐしてもらおう。

クロサカ 今年4月に政府が、マンガやアニメなどの海賊版サイトにスマホやPCから接続できなくする「ブロッキング」をインターネットサービスプロバイダー(ISP)に要請すると明らかにしました。これを受けてNTTグループが、その実施を発表する事態になっています。そもそも何が問題なのかを読者と一緒に改めて考えてみるべく、情報通信分野に詳しい憲法学者の宍戸常寿先生をお招きしました。

宍戸 海賊版サイトのブロッキングには、いくつか問題があります。インターネット上にある違法または有害なサイトによって、プライバシーや著作権が侵害され、不利益を被っている人がいる。これは私も問題だと思います。ただ、そのような違法有害サイトへのアクセスを遮断するためには、「通信の秘密」という問題をクリアしなければならない。今回のブロッキングは、その問題を十分に検討せずに「臨時的かつ緊急的な措置」として、法律の根拠がないまま実施しようとしている。だから私たち法律家や通信事業者が強く反対しているんです。

クロサカ 海賊版サイトへの対抗措置としてブロッキングは、実効性や遵法性を棚に上げれば、技術的にはひとつの方法ではあります。しかし、政府や権利者側が「ブロッキングであらねばならぬ」と議論を組み立てているように見えました。本当にほかの手段も吟味したんでしょうか。

宍戸 海賊版サイトは広告で利益を上げていたので、そうした広告を規制したり、サイト運営者を刑事罰で処罰したりするなど、いくつもほかの手段は考えられます。実は、ブロッキングについては先例があって、2009年頃から児童ポルノサイトへのブロッキングが検討され、11年から実施されています。この時も法律家や通信事業者、ユーザ代表を巻き込んで詳細な議論が行われました。その頃からコンテンツの権利者サイドに、著作権侵害サイトもブロッキングできないかと考える人たちがいたようです。

クロサカ そうだったのか。最近になって突然出てきたわけじゃなかったんですね。

宍戸 どちらも違法なコンテンツを掲載するサイトを見られなくする点では同じ。ただ、政府や私たちが児童ポルノのブロッキングについて法的に整理した当時から、著作権侵害のブロッキングは難しいということも見えていたんです。

クロサカ 児童ポルノがブロッキングできるなら著作権侵害も同じ、と権利者側からは見えてしまう。しかし、児童ポルノは被害に遭った児童の人格権に関する問題で、本件は財産権です。両者は同じ価値として扱ってよいのでしょうか。

宍戸 児童ポルノは児童の人格権の侵害で、海賊版サイトは著作権という財産的な利益の侵害ではありますが、クリエイターにとって自分の内面を表現したものでもあり、職業として生死がかかっているので、直ちにどちらの権利が上か下か、という問題ではないと私は思っています。両者には、児童ポルノがネットで見られる状況と海賊版サイトの状況の違いがあります。児童ポルノに関しては、法律があろうがなかろうが、現実に存在する児童が性的な被害を被っている動画がインターネット上で見られるために、被害者は人間としての尊厳が蹂躙され続けているわけです。だから、ある意味で法律以前の問題として、今すぐ対応が必要だということに広く同意が得られるだろうと思います。

クロサカ 児童ポルノへの対応は、ほとんどすべての人が直感的に合意できることですよね。

宍戸 これに対して著作権は、それがあったほうが社会全体に良い影響があるだろうという判断に基いて、人為的に作り出した権利です。人間の尊厳の侵害のようにパッと見て善悪が決まるものでもなくて、政策的な判断によるところが大きいのです。だから、ブロッキングをするならば政策的な議論をした上で、法律を作って対応すべきです。それを児童ポルノと同じ構造で論じるのは、そもそも無理があります。

クロサカ なるほど、両者の違いがよくわかりました。その上で、今回の騒動で注目されている「通信の秘密」なのですが、そもそもこの権利はどういったものなんでしょうか。

宍戸 通信の秘密は、憲法21条2項に書かれています。憲法21条1項に書かれている「表現の自由」を補うものですが、表現の自由そのものとは違います。もともと通信とは1対1の親密な情報のやりとり、具体的には郵便、電信、電話などです。これらについて政府が内容を見ない、誰が誰に郵便を送っているかということを調べたり悪用したりしない。それが同項で書かれている「検閲をしない」ということです。

クロサカ 日本国憲法は戦後にできたわけですが、その当時から長らく郵便は郵便局、電話は電電公社と、いずれも国営事業でした。

宍戸 近代国家が、社会インフラとして郵便や電話を整備することは、社会を発展させ国民の生活を豊かにするための、ある種の公共事業でした。ただ、郵便事業や電話事業は、悪用すると国民監視にも使えます。それでは皆が安心して利用できず、郵便や電話が普及しないので、国自身が悪用しないことを明確にした。それからもうひとつは、人々のプライバシーを現実的に守るということです。これが憲法の「通信の秘密」で保障されています。

クロサカ 一方で、今日では郵便も電話も民営化されています。それにもかかわらず、通信の秘密は憲法に規定され、電話や通信については電気通信事業法の4条にも規定されています。憲法が制定された頃とは、だいぶ状況が変わっていますよね。

宍戸 もっともな疑問です。郵便や電話はほとんどの国で官営でしたが、情報化社会が進んでいく中で経済的に非効率になってきた。そこで、市場原理を導入して民営化することによって、郵便や電話事業、電気通信事業を発展させようというのが、80年代の世界的な新自由主義の流れであり、日本でも85年に通信が、また21世紀に入って郵便が民営化されました。

 それまで通信サービスは、プライバシーが保障されるから皆が利用してきたわけですが、民営化でさらに発展させようとしたときに、引き続き保障する必要があった。それで、通信事業者に対して「通信の秘密」を守りなさいと、国民に代わって法律で命令したんです。

 だから、通信の秘密というのは、利用者の通信内容や送り先・日時等のメタデータ【1】を見ないということを国がISPに課すだけでなく、国自身が通信事業者に通信の秘密を侵害させない、ということでもある。通信事業者の側からみれば、利用者の通信の秘密を守る代わりに、法律や憲法に従った行為として、政府の介入からも国民の通信を守る。そういう二面的な位置に通信事業者は置かれています。

クロサカ 民営化した通信事業者が、それ以前からある「通信の秘密」を守るのは、政府が国民に代わって公共の利益のために通信事業者に命じているから。一方で事業者にとっても、憲法と法律の下で、政府の無用な介入から自らを守ることができる。通信事業者にとって制約であるけれど、またそれがあるが故に、政府から自由にビジネスができるわけですね。

宍戸 電気通信事業法では、利用者の「通信の秘密」を侵害した者に刑事罰を課しています(179条)。事業者は、刑罰が怖いから、「通信の秘密」を守っている。ただ、刑法の一般理論の問題として、法律で形式的に禁止されているけど、実質的には違法とはいえない例外的場合には、処罰されないという局面があります。それが違法性阻却事由です。

 これには、被害者本人が同意している場合を除くと3つあります。ひとつ目が正当行為あるいは正当業務行為、ふたつ目が正当防衛、そしてみっつ目が緊急避難です(刑法35~37条)。例えば医師による手術は、他人の身体を刃物で切り裂いており、傷害罪か場合によっては殺人罪に該当します。ですが、医師という社会的に認知された職業で、仕事に必要な行為として手術をしているのに、それを傷害罪に問うのは、社会的に不利益です。だから、このような場合は違法ではないというのが、正当業務行為です。通信事業者が利用者の通信を成立させるため、送り先をチェックするのも、正当業務行為です。

クロサカ それは確かに整理できそうです。しかし今回の論点は「緊急避難」でしたね。

宍戸 緊急避難というのは、ある意味ではお節介をしても例外的に処罰しないという事例です。例えば、横断歩道をお年寄りが歩いているところに自動車が突っ込もうとしているのを見た。危ないと思ってお年寄りを抱えて反対側に走り抜けたところ、その先には人が居てぶつかってしまった。しかしその人に怪我をさせたとしても傷害罪に問われません。本来はやってはいけない行為だけど、仕方がない、ということです。

クロサカ 最初のブロッキングの疑問に戻ると、つまりバランスの問題であるわけですね。

宍戸 緊急避難というのは「お節介を認める」ということなんです。今の例だと、お年寄りを助ける義務はなかったけれども、わざわざやるもの。これを安易に認めると、皆がよかれと思っていろんなことをやり始めて、どんな結果をもたらしても「よかれと思ってやった」と言い訳できてしまう。だから、緊急避難というのは極めて例外的なバランスの取り方なんです。ブロッキングの話に戻ると、著作権と通信の秘密とのバランスを取ることは必要ですが、もともと緊急避難というのは例外的なバランスの取り方だから、海賊版サイトがうまく乗らない。立法という別のバランスで解決すべきなんです。

クロサカ 著作権と通信の秘密のバランスではなくて、緊急避難というやり方がバランスとしてどうかということなんですね。自分なりに調べたり考えたりして、緊急避難は簡単に持ち出せないんじゃないかというのは薄々わかっていたんですが、改めて解説いただいて、自分でもようやく理解できました(笑)。

宍戸 法律家は難しい言葉を弄して社会を幻惑させている印象がありますが、もともと法律は常識を構造化したものなんです。逆にいうと、法律が常識に根本的に反することはないんです。

クロサカ 今回のブロッキングは、議論が不十分なまま持ち出されました。一方で、通信の秘密が制定されたことから、あまりに多くのことが変わりました。現在の通信産業、政府と事業者、あるいは政府と市民の向かい合いなど、見直す視点も含めて、正直に皆で議論すべきだと思います。宍戸先生から見て日本の「通信の秘密」の在り方は、今後どうあるべきでしょうか。

宍戸 私自身も今後の情報化社会における通信の秘密について、根本的な組み替えが必要な時期が来ていると考えています。一番わかりやすいのが、サイバーセキュリティの問題です。この瞬間にも日本の重要インフラはいろんな攻撃にさらされ、あるいはネットワークを通じて個人情報や営業秘密の漏えいが後を絶たない。そういったネットワーク上のいろいろな問題を防ぐには、本当に大切な価値なり自由・利益を守るために、「通信の秘密」を限定することも、考えないといけない。

 今は、利用者からきちんと同意を取って、マルウェアがパソコンやIoTデバイスにアクセスしようとしたときに、事業者が遮断するということが行われてきています。ですが、今後、IoTデバイスがいっそう増えると、すべてのデバイスについて利用者の同意を取ることは非現実的です。その場合に、利用者やネットワーク全体を守るためには、「通信の秘密」をある程度限定する必要があるわけです。

クロサカ 今のインターネット接続は、通信事業者が提供するホームゲートウェイ【2】が境界線になって家庭の内外を切り分けて、そこが責任分界点になることが多い。すなわち、ホームゲートウェイから内側はユーザの責任で、接続事業者には手が出せない。しかしユーザが攻撃されると、事業者のネットワークにもダメージがある。これは、セキュリティの面で大きな問題です。仮想化技術によってネットワークインフラの形が大きく変化しようとしている中、対策が必要という事業者は今後増えそうです。

宍戸 インターネットあるいは通信分野においてイノベーションを起こすためには、「通信の秘密」に非常に厳密にコミットする事業者だけでなく、最低限だけ守るという事業者も認める。それによって競争を促しイノベーションを起こす、という考え方もあるはずで、これもきちんと議論しなければならない。

 さらに、本当に守るべき価値とは何か。プライバシーであったり、ビジネス上の利益であったり、ナショナルセキュリティであったり、そのへんをきちんと調整した上で、「通信の秘密」が必要以上に侵害されないようにすることが大切です。これは一朝一夕でやれるような問題ではなくて、皆で議論しなければならない。

 とりわけ、今の政府はSociety5.0【3】といって、IoT、ビッグデータ、ロボット、シェアリングエコノミーによって、社会を活性化させようとしていますが、そこでは安心して安全に使えるネットワークは社会のインフラそのものです。それを、一部の事業者の利益を持ち出して、安易に壊すようなことは、すべきではない。新しい社会を実現するためにこそ、「通信の秘密」を重く受け止め、そして必要な場合は議論によって組み替えていくべきだと思っています。

―対談を終えて―

 本件に関する私のスタンスを表明しておきますと、海賊版サイトへの立法以前のブロッキング措置には、反対です。その理由は、本文、そして4月11日に一般財団法人情報法制研究所(JILIS)から発表された「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表」をお読みいただければと思います。私も、賛同者として名を連ねさせていただきました。

 本件は、単に「通信の秘密」の蹂躙というだけでなく、立法府を無視しているかのようにも見える行政府の動きがありました。本連載にも登場いただいた、自由民主党の橋本岳衆議院議員も、与党の立場でありながら明確に異議を申し立てており、前号で触れた「日本政府のガバナンスの危機」が正しく本件でも地続きであることを感じさせる、そんな展開でした。

 また、何より対象の海賊版サイトが行政府により名指しされた直後に事実上閉鎖したという事実をもって、「じゃあブロッキングなんかしなくていいじゃんか!」と実効性に疑義が示されたのも、当然のことです。とにかく「万事ダメダメ」という感じで、物事が進行しています。

 一方、私自身は、本件とは別の文脈で、「通信の秘密を見直す時期に来ている」と以前から考えてきました。本文中で触れた通り、電電公社や郵便局が民営化され、しかもインターネットやモバイルが全盛の時代において、憲法制定時と同じ価値と構造のままでいいのか、ということは、結論ありきではなく議論を進めるべき時ではないか、と思っています。

 しかし、そうした疑問は、現在の法制度を無視して解決・突破できるものでは、当然ありません。「通信の秘密」は、国民の権利に関する公益を対象としており、科学的・産業的な実態や、人工知能(機械学習による学習機会としてのデータ収集の必要性)を含めた、将来的な可能性に基づきながら、時間をかけて合意形成を図らねばなりません。

 実際、そうした問題意識の下に、丁寧な議論と手続きを進めようと考えていた良識ある方々も、存じ上げています。しかしその努力も、今回の粗雑さの前に吹き飛ぶとしたら、この国で建設的な議論など、もはやほとんど期待できないのだろうか――そんな徒労感を覚えつつ、それでもなんとか前を向きたいと思っています。

宍戸常寿(ししど・じょうじ)
1974年生まれ、東京大学大学院法学政治学研究科教授。首都大学東京社会科学研究科助教授、一橋大学大学院法学研究科准教授、東京大学大学院法学政治学研究科准教授を経て、2013年より現職。専門は憲法学、国法学、情報法。近著に『ロボット・AIと法』(有斐閣、共編著)がある。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

【1】メタデータ
情報そのものではなく、情報に関する情報のこと。手紙なら宛名や宛先の住所、パソコンのファイルならファイル名や作成日時、ファイルサイズなどがこれに当たる。

【2】ホームゲートウェイ
インターネットを一般家庭に接続する際、屋外から引き込んだ光ファイバーやADSL回線をLANやWi-Fiに変換してPCやスマートフォンを接続できるようにするための機器。

【3】Society5.0
安倍政権が2016年から実施する科学技術・産業政策の基本指針で、サイバー空間と現実空間が高度なITでつながった超スマート社会のこと。狩猟社会、農業社会、工業社会、情報社会に次ぐ、5番目の社会の在り方という意味。


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