>   >   > オトメゴコロ乱読修行【29】/【サプリ】「こじらせ女子」とは社会に立ち向かう女性たち
連載
オトメゴコロ乱読修行【29】

【『サプリ』】2010年代、「ブラック企業」糾弾時代到来でさまよう「こじらせ女子」の来し方行く末

+お気に入りに追加

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

1709_otome_sapuri_200.jpg

 広告代理店の若手女性社員が激務の末に自死を選んでしまった悲劇が人々の心を痛める現在からすると、隔世の感を覚える「働き女子マンガ」の金字塔的作品がある。2003年から09年にかけて連載された『サプリ』だ。主人公は連載スタート時で27歳の大手広告代理店社員、藤井ミナミ。制作局で激務にいそしむ彼女の仕事ぶりや恋愛模様を、同僚や後輩や上司、仕事先との人間関係を絡めながら描く物語だ。

 本作最大の特徴は、とにかく登場人物の皆が皆「働きすぎ」だということである。広告業界という性質もあるだろうが、深夜の呼び出しや徹夜明けの出勤、休日出勤、理不尽なクライアント対応は日常茶飯事。それらを喜々としてさばき、華麗に完遂するミナミたちの勇姿が誇らしげに、基本的には肯定的に描かれる。

 ミナミをはじめとした主要登場人物(とくに女子)は全員、掛け値なしのデキる奴。見惚れるほどの、プロの仕事人だ。彼女たちは全身全霊をかけて仕事に取り組み、激しく衝突し、心が折れそうになってもめげずに食い下がる。いきおい本作は、個々の人生が過剰なまでに仕事中心で回っており、彼女たちのセリフを集めるだけで、ビジネス格言本があっという間にできあがる。

 この超仕事至上主義は、「女子たちは人生における選択権をできるだけ多く確保するために働いている」という最終回終盤の主張で最高潮に達する。それが本作の最終結論だ、と言わんばかりの勢い。『サプリ』に登場する女子たちの「人間の尊厳」はほぼ100%、仕事によって担保されているのだ。

 連載時、本作は20代の働き女子たち、あるいはキャリアウーマンワナビーたちの絶大な支持を得た。彼女たちは「仕事ができる女は、何をおいてもかっこいい」というドグマを胸に染み込ませ、会社という戦場に意気揚々と出征していった。こうして「仕事邁進女子」は、ゼロ年代女子の生き様バリエーションのなかで、もっとも華々しい選択肢となっていく。

 本作連載2年目の04年から追いかけるようにして連載がスタートした安野モヨコの『働きマン』(講談社)人気も、仕事邁進女子トレンドを盛り上げた。同作の主人公は、週刊誌編集部で働くキレキレでパワフルなアラサー女子・松方弘子。心身ともにクタクタ・ボロボロになるまで働いた引き換えに得る仕事のやりがいや誇りの描写に、多くの読者が勇気づけられ、共感を寄せた。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミア

2018年8月号

男と女の性愛学

男と女の性愛学
    • 美人は残れない【女子アナ】新世紀
    • 世界の【女人禁制】スポットの歴史
    • 広告と【ジェンダー】の亀裂
    • 【生理用ナプキン】の考現学
    • 男子の疑問【生理用ナプキン】Q&A
    • 新たな性犯罪【ディープフェイク】
    • 【ヒップホップと尻】を科学する
    • ヒップホップ界の【尻アイコン】6人
    • 【性器形成】手術の進化論
    • 【性器形成】のプロセスを解説
    • 【ブロックチェーン】で刻む愛
    • 【信用創出】が課題の婚姻制度
    • 【女性活躍】を謳う職場の嘘
    • 【女性マンガ家】のエロ実体験
    • LGBT時代に問う【BL】の功罪
    • 【おっさんずラブ】はゲイ差別か?
    • 【ハウツーSEX本】の歴史的変遷
    • 【芸能人】と一般人の合コン最前線

橋本梨奈とギャル文化再考

橋本梨奈とギャル文化再考
    • 日本一"黒い"グラドル【橋本梨奈】登場

インタビュー

連載

    • 【都丸紗也華】ラーメン禁止なんです。
    • 【さとうほなみ】おじさまとセッション
    • 【酒井萌衣】元SKE48、夏の決意
    • パラアスリートの社会復帰
    • 【珠理奈】に傷心
    • ニッポンを救うCDOに求められる条件
    • 高須基仁の「全摘」
    • 伝統を守る【神田明神】の挑戦
    • 哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」
    • 【袴田事件再審棄却】検察と司法の体たらく
    • 町山智浩/『Leave No Trace』公園で発見された父娘の言えない傷
    • 【ゲノム編集】が侵す人類の未来
    • 小原真史の「写真時評」
    • 「念力事報」/サッカー日本代表に捧げる短歌
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ研究所」
    • 【あげくの果てのカノン】不倫にハマる卑屈女子の実態
    • 永井豪にインスパイアされた外国人アーティスト
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 和食に合う食中酒を求めて【ビール】を造る
    • 幽霊、女のいないポルノグラフィティへ。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』