>   > 虐待を生き延びたサバイバーたちの素顔/「親にジョッキで殴られた」あなたの隣にも、被虐待児はいる――。
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【premium連載】声を殺して泣く理由 ~虐待を生き延びたサバイバーたちの素顔~第1回 

「親にジョッキで殴られた」あなたの隣にも、被虐待児はいる――。

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――虐待を受けた「わたしたち」に残ったものとは? よじれてしまった家族への想いを胸に、果たして、そこに再生の道はあるのだろうか。元・被虐待児=サバイバーである筆者が、自身の体験やサバイバーたちへの取材を元に「児童虐待のリアル」を内側からレポートする。

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自分はまともに育つことができたのだろうか?

「親にビールジョッキで殴られて2回流血」
「親父と面と向かって話そうとすると、身体が震える」
「ある程度の年齢になるまで、自分の家がおかしいということに気づかなかった」

 数年前から、こんな書き込みの絶えないサイトがある。『あるある祭り』という掲示板に設置されたスレッド『ガチで親に虐待されてた奴にしかわからないこと』だ。投稿者は文字通り、家族から身体的・精神的な暴力やネグレクト(育児放棄)を受けてきた被虐待者たち。2013年の開設以降、2700件を超える「切ない実体験」で埋めつくされている。

 未成年向けの掲示板かと思いきや、オトナたちの参加も目立つ。20代半ばの男性や子持ちの主婦、中年と思しきユーザーまでもが投稿し、共感を示す「あるあるボタン」のクリック数に「この悲しみは自分だけではなかった」と安堵しているのだ。

 彼らは、虐待を生き延びた人。カウンセリングの世界などでは「サバイバー」とも呼ばれることもある。わたしもその中の一人だ。「サバイバー」というと、無人島で昆虫でもかじっていそうな響きだが、ある意味、危険な生物(親や家族)と同じ空間でどうにかこうにか生き延びてきたのだから、やはりこれ以上ぴったりの言葉はないだろう。

 さて、わたしは今まで「同志」に会いたい一心で、他のサバイバーたちにも取材を重ねてきた。そこでわかったのは、彼ら彼女らは成人した今もなお、虐待の後遺症と闘っているということだ。

「大声を出されると体がすくんでしまう」「真夜中になると、ふとした瞬間に“あの時”の恐怖が蘇り、涙が止まらない」「自分はまともに育ったのか不安」「いくつになっても親の存在がしんどい」など挙げればキリがない。

 東京の大学に通っていたフクちゃん(仮名・当時21歳)は「小学生のときに母親からよく包丁を向けられていたので、今も怖くて包丁に触れないんです。肉や野菜を切るのはもっぱらハサミですね」と、日常生活の悩みを打ち明けた。中にはうつ病やパニック障害、解離性障害などで心を病んでしまい、精神科の薬が手離せないケースも珍しくない。

 もしかしたら、あなたのそばにもいるかもしれない。人知れずひっそりと闘っている「サイレント・サバイバー」が。

「え、身近では聞いたことないけど!?」

 そうおっしゃるのもごもっとも。サバイバーたちは、親しい友人や恋人にさえ、虐待の過去をカミングアウトすることがほとんどないからだ。暴力のない「普通の家の子」には理解されないと諦めているし、同情されるのもいたたまれない。だからこそ同じ境遇の「仲間」が集い、なおかつ匿名で本音を吐き出せるインターネットに、彼らは引き寄せられていくのだろう。

決して統計にカウントされない被虐待児たち

 では実際、虐待を受けたことのある人は、日本にどのぐらいいるのだろうか?

 平成27年度の間に、全国208カ所の児童相談所が「児童虐待相談」として対応した件数は、過去最多の10万3286件。これは同年の18歳未満の人口で計算すると、200人に1人の割合となる。

 しかし、これはあくまで児童相談所が把握している案件。つまり氷山の一角だ。

 都内にある「子ども家庭支援センター」施設長の女性が、現場の肌感覚について話す。支援センター(自治体によって名称は異なる)は全国にあり、児童相談所の「前段階」として虐待予防や相談窓口の役割を担っている。

「センターでは、普段から親御さんたちと気軽に話せるような態勢をとっています。日々の業務中に、お母さんから『今、子どもをぶっちゃったんです!』と泣きながら電話がかかってくることはしょっちゅうですね。その場合は、すぐに虐待として対応するのですが、精神的虐待やネグレクトを含めると、児童相談所と連携されないケースは全体の3分の2ほどあります」

 さらに、親が自らの行為を隠蔽し、周囲の大人にも発見されなかった子どもたちを含めると、膨大な数に上るだろう。

 わたしを含め、出会ってきたサバイバーたちがそうだった。我が家の場合、ある時期から「顔は目立つから」と服で隠れる部分への殴打が増え、母親の機嫌を逆なでしないよう、声を出さずに泣く術を習得した。一方で、親の監視がない「家の外」はまさにパラダイスだったから、幼稚園や学校では常に「明るく元気な子」。先生や友人の親御さんたちは、まさかそんな子が家でボコボコにされているなんて夢にも思わなかったであろう。

“見つけてもらえなかった”子どもたちは、やがてオトナになり、今もどこかで孤独に闘っている。

 この連載では、取材に協力してくれたサバイバーやわたし自身の体験をもとに、「内側から見た虐待」をレポートしてみたい。と同時に、虐待を克服するための道も探っていきたいと思う。サバイバーの中には、辛かった過去や親との関係に、自分なりの「落とし前」をつけて幸せをつかみ取った人も存在するからだ。

 次回、まず始めに「誰も気づかなかった虐待」=わたし自身のケースを紹介しよう。父は会社員で母は専業主婦という、一見どこにでもある普通の家庭だった。

(文/帆南ふうこ)

帆南ふうこ(ほなみ・ふうこ)
1980年生まれ、ライター。4歳ごろから高校生まで実母から身体的・精神的な暴力を受けて育つ。13年間にも及ぶ反抗期を経た後、結婚を機に母親と和解。ここ数年は元・被虐待児である「サバイバー」たちのオフ会を開いたり、取材を通じてサバイバー仲間との親交を深めている。趣味はお酒と田舎暮らし。


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