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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第24回

死後には評価が一変!? オナニー死が生む悲喜劇

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【今月の映画】

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『世界で一番偉大なパパ』
(原題:The World’s Greatest Dad)
高校で詩を教える教師ランスが、自慰行為中に誤って死亡してしまった息子のために、家族の恥を隠そうとニセの遺書を作ってしまったことから大騒動が巻き起こるブラック・コメディ。監督/ボブキャット・ゴールドスウェイト 日本での公開は未定

 今年6月4日、タイのバンコクのホテルで、ハリウッド俳優デヴィッド・キャラダイン(72歳)が死んだ。キャラダインは70年代、テレビシリーズ『燃えよ! カンフー』で人気を博したが、それ以降は不遇で、ゴミのような映画に山ほど出演して生活していた。数年前、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』二部作(03・04年)で題名になっている殺し屋ビルを演じて久々に注目を浴びたが、一般人にはほとんど知られていなかった。

 そんな往年のB級俳優である彼の死が世界のマスコミで大きく取り上げられたのは死体の状況が異常だったからだ。彼はクローゼットでハンガーをかけるパイプにロープで首吊り状態になっているのを発見されたのだ。さらにロープの反対側の端は細いひもでペニスに縛り付けられていた。警察は自殺ではなく事故と発表した。つまり、首吊りオナニーをしているうちに、ついうっかり本当に首を絞めてしまったというのだ。

 多くの人々にとって、首吊りオナニーというのは初耳だった。しかし、首を絞めて酸欠になることで朦朧とした感覚を楽しむことはアスフィクシエイション(窒息)プレイと呼ばれ、かなり昔から知られていた。日本で最も有名なのは阿部定事件(36年)だろう。

 彼女はセックス中に互いの首を絞めあって快感を得ていたが、つい絞めすぎて相手の男を殺してしまい、そのペニスを切断したのだ。

 首吊りプレイで死亡した有名人はキャラダインだけではない。80年代に一世を風靡したオーストラリアのロックバンド、インエクセスのリーダー、マイケル・ハッチェンスは97年、ホテルの部屋でベルトを首に巻いた死体で発見され、自殺と発表されたが、動機も遺書もないうえに、死体が全裸だったため、首吊りオナニー中の事故と言われている。

 笑っていいのか悲しんでいいのか困ってしまう首吊りオナニー死。それについてのコメディ映画がとうとう作られた。タイトルはなんと『世界で一番偉大なパパ The World’s Greatest Dad』という。

 ロビン・ウィリアムズ演じる主人公ランスは、50代の国語教師。女房に逃げられて、息子を男手ひとつで育てているランスの夢は作家になること。何本も小説を出版社に送っているのだが相手にされない。学校ではショボい教師として、生徒からも教師仲間からもバカにされている。彼が受け持つ詩のクラスは人気がなくて生徒が集まらない。『いまを生きる』(89年)で素晴らしい詩の教師を演じたロビン・ウィリアムズが!

 ランスの一人息子カイルは、ひどい劣等生。しかも性格が悪く、陰険なので高校では全校生徒から嫌われている。

 そのうえ性欲が異常に強く、朝から晩までネットでエロサイトを見ている。

 それもSMやスカトロとかアナルといった変態的なものばかりでオナニーしている。そんな息子とランスはなんとかコミュニケートしようと頑張るものの……。

「お前はどんな音楽が好きなんだい?」

「全部嫌いだ。音楽なんてオカマの聴くものだ」

「好きな映画は?」

「映画もカマくさいな」

「じゃあ、何が好きなんだ?」

「オマンコを見ることさ。一日中ね」

 何ひとつよいところのない息子カイルは、ある日、首吊りオナニーの事故で死んでしまう。これは恥だと感じたランスは死体を普通の首吊り自殺のように偽装し、遺書を代筆する。その遺書は地元新聞に転載され、思春期の悩みを持つ全校生徒を感動させる。生前はカイルをキモがっていた女子も、イジメていたスポーツマンも手のひらを返したように「カイルはいい奴だった」などと言い始める。そして生徒たちは目を輝かせてショボくれ教師ランスを見上げるようになる。

 いい気になったランスはさらに息子の日記をデッチ上げ、出版する。この話は最近ドイツで自殺した若者の遺書を集めた本がベストセラーになったことを元にしているらしい。カイルの日記は全米の話題になり、ランスは「世界一偉大な父親」に祭り上げられ、物書きとして認められる夢がついにかなう。そして女性からもモテモテになるのだが……。

 ただ、カイルの唯一の友人だったアンドリューだけは、本を読んで疑い始める。

「カイルはこんな本を書けるほど利口じゃなかった。それにこの本にはカイルがいつも言ってたことがひとつも書いてない。スカトロとかアナルセックスとか!」

『世界で一番偉大なパパ』をマイケル・ジャクソンの死後に観ると感慨深いものがある。生きてるうちは「少年愛の変質者」「黒人を裏切った」と言われていたマイケルが、死んだ途端に「平和と愛の天使」「人種の壁を超えた偉人」に祭り上げられちゃうんだもん!

まちやま・ともひろ
サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(日曜日23時〜)にて、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。tomomachi@hotmail.com


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