――「美術手帖」(美術出版社)の「2020年代を切り開くニューカマーアーティスト100」にも選出された、注目のアーティストが作り上げる世界観の源とは?
(写真/斎藤大嗣)
「テーマカラーがあるほうが、インスピレーションも湧くんですけど、去年は何色か定まらないまま終わっちゃいました。でも、今のヘアスタイルに変えたら、二次元の男性みたいな雰囲気がしっくりきたので、今年は寒色系かな」
そう語るのは、音楽アーティストの田島ハルコ。2018年に「奇跡コントローラー」などが収録されたアルバム『聖聖聖聖』で注目された彼女は、19年のアルバム『kawaiiresist』でヒップホップに接近。「ちふれGANG」や「遅咲きGAL」などの楽曲で、ギャルのようなポジティブなヴァイブスと、MVのヴェイパーウェイヴ的な世界観を多くの人に印象づけた。
「学生時代からバンド活動をしていたのですが、15年頃から本格的にDTMを始めて、徐々に音数が減ってトラップっぽくなり、歌い方もラップに寄っていきました。普段は自分が何から影響を受けているか意識していなさすぎて、後から気づくことも多いのですが、中高生の頃はギターロックとか、YMOや平沢進もよく聴いていました。地元にいた頃からオタク的でしたけど、どこのファンダムにも属さない孤独感みたいなものもあって、それが今の作品づくりにも反映されている気がします。当時は単に自分が何を好きなのか知りたいって感覚でしたが、それはそれで好きなものへの独自解釈が発生するため、今となってはよかったと思います。だからこそ、作る側になれたのかもしれないし、少し変なアウトプットになっているのかな、と(笑)」
楽曲に限らず、アートワークの2000年代カルチャーなどをコラージュ的に張り合わせ、心象風景を表現する作風が彼女の特徴だ。その独特なMVは自宅でiPhoneのインカメラを使い、自前の衣装で撮影しているという。
「YouTubeやニコニコ動画で80年代のインディーズ音楽やMTVを掘っていた時期もあり、謎のオリエンタル感やCGのクソ合成みたいなものも含めて、そうした音楽や映像の影響はあります。MVの撮影は自撮りの延長で、その場のグルーヴをそのまま映像に落とし込めるので、油断すると撮影から編集まですべてひとりでやっちゃいますね」
“ニューウェーブギャル”を活動のコンセプトに掲げてきた田島だが、昨年は6人の女性ラッパーによるギャルサークル「Zoomgals」も話題となった。
「そもそも私含めてZoomgalsのメンバーって、みんなわりと陰キャなんですけど、『ギャルってなんかいいよな!』という共通認識があるんですよね(笑)。ギャルに何かを背負わせるのはよくないと思いつつ、ギャルへの共鳴は多大にあります。ニューウェーブギャルも漠然とした共感覚的なイメージで言い始めましたが、不思議としっくりくる言葉なんです」
さらに、12月にはZoomgalsで共に活動するMarukido、valkneeとの楽曲「未来世紀ギャルニア」をリリース。自身のオタク的テイストを存分に詰め込んだ同曲は、『kawaiiresist』以降のアーティストイメージを、自ら振り切るかのような仕上がりになっている。
作品によってジャンルを軽々越境する田島のサウンドは一見捉えどころがないが、アーティストとして独自の世界観を確立することに成功しているようにも思える。“しっくりくる”という表現からは、あらゆる違和感に対する彼女の真摯なスタンスも窺えるが……。
「もともと、自我がかなり流動的で、そこに抗わないほうがラクだし、同じ私なんだから、どこかで一貫はするだろうとは思っています。この1年ほどは『ピンクの髪の強い女』みたいなセルフイメージに引っ張られることが少しつらかったんですけど、今後はどうなるのか、自分でも楽しみです」
(文/伊藤綾)
(写真/斎藤大嗣)
田島ハルコ(たじま・はるこ)
1992年10月26日生まれ、新潟県出身。インディペンデントなDIY精神でワックな社会に波風を立てるシンガーソングライター/ラッパー。トラックメイクのみならず、アートワーク・映像などもしばしば自身が手がける。女子美術大学では洋画専攻だったが、「映像編集のほうが性に合っていた」とのこと。