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萱野稔人と巡る超・人間学【第16回】

萱野稔人と巡る【超・人間学】――人類と薬の根源的な関係(後編)

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――人間はどこから来たのか 人間は何者か 人間はどこに行くのか――。最先端の知見を有する学識者と“人間”について語り合う。

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(写真/永峰拓也)

今月のゲスト
佐藤健太郎[サイエンスライター]

古代より人類は病苦から逃れるための薬を追い求め、それは世界を動かす原動力にもなった。人類と薬の歴史を、サイエンスライター・佐藤健太郎氏と語る。

萱野 前回、薬の歴史は人類の歴史と同じくらい古いのではないかというお話をうかがいました。それどころか、人類は現生人類として誕生する以前から薬を使ってきた可能性さえあるということでした。

佐藤 古代から現代まで、人類は常に薬を追い求めてきました。ただ、それは絶望的な努力の歴史ともいえます。僕はよく人類と薬の歴史を人気マンガ『進撃の巨人』(講談社)に例えるのですが、人類にとって病気とは、あの作品に登場する“巨人”のようなものです。その攻撃に人類はまったく太刀打ちできず、ただ蹂躙されるだけという時代が古代からずっと続きました。やがて、人類は身近な自然物の中から鎮痛効果があるものなどを少しずつ見つけ出していきます。たとえば、紀元前3000年頃のメソポタミア地方では、ケシの実からアヘンが作られていたようです。アヘンの主成分は現在も鎮痛剤として使われているモルヒネです。ただ、人類が科学という武器をもって病気という巨人に立ち向かえるようになるには、そこからさらに数千年というレベルの時間が必要でした。

萱野 人類は疾病による苦しみから逃れたいがために否応なく薬の探究へとかき立てられてきましたが、その探究はほとんど暗闇の中での手探りのようなものだったということですね。

佐藤 18~19世紀頃から薬学や有機化学が発達して、ようやく動植物から作ってきた薬がどのように人体に作用して、どうして効くのか、そのメカニズムが少しずつわかってきます。そして20世紀後半に入って、病気を治療するには、その病気に関わるたんぱく質を見つけて、その働きに作用する化合物を作ればいいことがわかった。そこからまだ100年ぐらいしかたっていません。それは人類が薬を追い求めてきた長い歴史から見たら、本当につい最近といっていいぐらいです。『進撃の巨人』でいえば、巨人にも“うなじ”という弱点があることがわかり、人類はそこを攻撃するための武器“立体機動装置”を開発するようになったというところですね。

萱野 科学的な薬の探究のはじまりにとって、何か転機となった出来事というのはあるのでしょうか。

佐藤 15世紀の大航海時代に流行した壊血病の“特効薬”の発見は大きかったと思います。壊血病は船乗りに多発した病気で、発症すると全身が衰弱して鼻や口から出血し、最終的に死に至る病でした。この病気の原因は長期にわたる船上生活でのビタミンC不足ですが、当時はそんなことを知るよしもありません。しかし、ジェームズ・リンドという英国海軍医が、画期的な方法で壊血病の治療法を発見したのです。リンドは壊血病患者を2人ずつ6組に分け、他の条件をなるべく揃えて、それぞれに異なる治療薬候補を与えました。その結果、オレンジとレモンを与えた患者は症状が劇的に改善し、「柑橘類が壊血病の特効薬になる」という事実を証明したのです。リンドの手法は今からすると当たり前のように見えるかもしれませんが、こうした諸条件を揃えて比較対象群と実験を行い、治療に有効なものを見つけ出すやり方は、現代の臨床試験の基本的な考え方と同じです。これは比較実験で薬の有効性が統計的な数字によって示された初めての例になりました。

萱野 科学的な薬の探究の根底には、比較実験と統計学的観点があるということですね。

佐藤 ただ、当然ですが、そこからすぐに科学的、統計的な薬の開発が確立されたわけではありません。ちなみにビタミンCが食品から抽出されて、その効果が実証されたのは1932年のことです。

人体と病気の可視化と創薬技術の進化

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