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哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」第54回

【哲学入門】存在の世界全体にとっては、人間存在は決して特別な存在ではない。

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(写真/中山正羅)

『技術への問い』

マルティン・ハイデッガー(関口浩/訳)/平凡社ライブラリー/1500円+税
1953年にハイデガーがミュンヘン工科大学で行った講演をもとにした表題の論文のほか、「技術」をテーマにした計5本の論考を収録。
現代技術の本質と人間の関係、存在のあり方を考察する後期ハイデガーの代表作。

山番は森で伐採された木を測定する者だが、外見上、彼は祖父と同じやり方で同じ森の道を見回っている。しかし、そのことを自覚しようとしまいと、今日、彼は木材を利用する産業によって用立てられている。彼は木材繊維の用立て可能性の一部として用立てられ、そして木材繊維のほうは紙の需要によって挑発され、紙は新聞やグラビア誌に送り届け〔zustellen〕られる。しかし、新聞やグラビア誌は、印刷物をむさぼり読むように世論を仕向ける〔stellen〕。それはそれらの印刷物が、用立てられた世論操作にとって用立て可能となるためなのだ。まさに人間は自然エネルギーよりもいっそう根源的に用立て〔Bestellen〕へと挑発されているのだから、けっしてたんなる一用象にとどまることはない。技術に携わることによって、人間は開蔵のひとつのあり方としての用立てに参加する。しかし、用立てが展開される領域としての不伏蔵性それ自体は、けっして人間が作り出したものではない。
『技術への問い』より引用

 ハイデガーは存在論を深めることで現代の哲学に大きな影響を与えました。存在論とはその名のとおり、人間やモノなどが存在するとはどういうことかをめぐる哲学の議論のことです。そのハイデガーの思索は前期と後期に分けられます。これまで2回にわたってとりあげてきた『存在と時間』は前期における代表作です。では、後期になってハイデガーの存在論はどのように変化したのでしょうか。今回はそれを考えていきましょう。

 上の引用文をみてください。これは1953年に発表された「技術への問い」と題された論考の一部です。冒頭には山番の話がでてきます。この山番は、祖父の代から受け継いできた仕事として、山林を見回り、伐採された木を管理しています。

 しかし、彼がどれほど主観的には祖父の代と変わらない仕事をしているとしても、彼はいまや、大量の木材から紙を生産し消費する、巨大な産業機構のなかに組み込まれています。そこにあるのは、大量の木材がパルプへと加工され、さらに紙となって消費されるという、一連の物質の流れです。その物質の流れからみれば、山番は大量の木材が供給されるために徴用されている一つの人的要素にすぎません。

 ポイントは、物質の流れから人間をみる、という点です。人間から物質の流れをみるのではありません。

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