サイゾーpremium  > 連載  > 精神異学~忘れられた治療法~【4】/【アダルトチルドレン】ですべては親のせい!?
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精神異学~忘れられた治療法~【4】

【精神科医・岩波明】「アダルト・チルドレン」ですべては親のせい!?

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[語句解説]「アダルト・チルドレン」

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元来は、「Adult Children of Alcoholics」(アルコール依存症の親の元で育ち、成人した人々)として、1970年代に米国で提唱された、主として生物学的な側面に焦点を当てた概念であったが、前半の「アダルト・チルドレン」を直訳した「大人・子ども」という語感のせいもあってか、「親との葛藤を抱え、子どものまま大人になった人」といった曲解を生み、「生きづらさを抱えている人」の自称として流布した。


「アダルト・チルドレン」という言葉はもう死語になったと思っていたのですが、最近外来を受診した患者さんが「自分はアダルト・チルドレンなので」と言うのを聞いて、昔はやった流行語をふいに耳にしたときのような、ちょっと気恥ずかしいような、微笑ましいような気分になったことがありました。

 精神科関係の用語は、ときおり、世の中の流行の言葉になります。1971年に出版された精神科医の土居健郎氏による『甘えの構造』がベストセラーになったとき、「甘え」という言葉が一世を風靡したことを記憶している人もいるかもしれません。阪神淡路大震災後の1990年代には、「トラウマ」や「心のケア」といった用語が、一般の報道やテレビにおいても盛んに用いられるようになりました。今世紀に入ってからも、日本大学の森昭雄氏の造語である「ゲーム脳」という言葉が、科学的な根拠がないにもかかわらず一般に広く信じられました。

 このような精神医学的用語の「流行」は、大きく2つに分けられます。第一に挙げられるのは、まったくの捏造であり科学的な根拠のない言葉。「ゲーム脳」がその典型ですが、ほかにも、春山茂雄氏が提唱した「脳内革命」などがこれに相当するでしょう。そして2番目のパターンとして挙げられるのは、ある既存の医学的概念について、都合のいい部分だけを取り上げたり、あるいは内容を変更したりして使用しているものです。「新型うつ病」という病名が登場したとき、一般の人々はこの病名が医学的にも使用されている言葉と解し、有名な経済紙でさえ盛んに取り上げたりしていました。

 それでは今回のテーマであるアダルト・チルドレンはどうかというと、後者に相当します。この言葉自体は、日本では精神科医の斎藤学氏によって広められましたが、まったくの新造語ではない。元来は医学研究のための専門用語で、「アルコール依存症患者の成人に達した子ども」を意味しています。 

 欧米、特に米国においてアルコール依存症は、日本よりもはるかに重大な社会問題となっていました。親がアルコール依存症である子どもたちが成長すると、さまざまな精神科的な問題行動を起こしやすいことが報告されたため、このアダルト・チルドレンという概念が提唱され、1980年代の後半から90年代にかけ、多くの医学的な研究が行われたのです。

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